言わずと知れた世界的ベストセラーの第一作です。
イギリスのファンタジーの伝統の上に、現代的なアイデアを盛り込んで「現代の魔法物語」という新しいジャンルを創出し、多くの追随者を生み出しました。
魔法使い、空飛ぶ箒、魔法学校、寮生活、闇の魔法使いとの戦い、マグル(通常の人間)との共存、フクロウの郵便、クイデッチ(空中で行う団体球技)、幽霊、謎解きなど、普通の作品だったら10冊は書けそうなアイデアを、これでもかとてんこ盛りにして、読者を飽きさせません。
ハードカバーで500ページもある長編も、本離れしているはずの子どもたちが嬉々として読んでいる姿を見ると、本離れの原因が読み手ではなく書き手側にあることがわかります。
それも、日本だけでなく世界中の子ども達に受け入れられたことを考えると、面白い本は、古今東西の垣根を超えて普遍的であることもわかります。
まだ日本で翻訳本が出版されないころ、シリーズのたぶん3冊目の発売日にたまたまアメリカに出張していて、空港や街のあちこちで分厚い本を抱えた子ども達や山積みになった本に出くわしたものでした。
もちろん典型的なエンターテインメント作品なのですが、その一方で、主人公やその男女の友人との友情を描いた児童文学伝統の成長物語でもあります。
また、作品の主な舞台が全寮制の学校であることも、児童文学の伝統(ケストナーの「飛ぶ教室」など)を踏襲していますが、男女共学にしている点が現代的で読者の幅を広げることに貢献しています。