現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

中村 敬「現代的なうつ病の背景に何があるか」うつ病論 双極Ⅱ型障害とその周辺所収

2018-11-20 07:45:09 | 参考文献
 従来のうつ病の病前性格が執着気質やメランコリー親和型性格(几帳面、他者配慮性など)であったのに対して、現代のうつ病の病前気質は特に若年層においてはディスチミア親和型性格(会社などへの帰属意識が低く、自責感も薄い)が増加しているとしています。
 この論文で貴重なのは、筆者の関係する複数の大学病院における1999年から2006年までの気分障害の受診者の年代別の推移を実際にグラフで示して、二十代、三十代の患者が増加していることを明らかにしている点です。
 そして、現代のうつ病ないしはその病前性格には、バブル崩壊(1991年から1993年にかけて)以降の雇用、労働環境の悪化(特に若年層においては、非正規雇用の増加と、それに伴い減少した正社員への負荷が増大している)に原因があると、失業率や自殺数の変化との関連も含めて推定しています。
 この論文は平易な文章と具体的なデータを用いて書かれているので非常にわかりやすく、双極Ⅱ型障害を初めとした現代的なうつ病が、患者個人の自己責任(上の世代からは、わがままとか無責任と攻撃されています)によるものではなく、社会全体のひずみによる公害であることを明確にしています。
 この社会のひずみの実例としては、終身雇用・年功序列制から成果主義への短期間での移行によって世代間格差が生じたことなどがあげられます。
 具体的に世代間格差を述べると、団塊世代(人数が多く選挙での投票率が高いので、政治的に有利です)を中心とする六十代後半から七十代前半の世代は逃げ切って年金などの既得権益を手放そうとせず(私自身も、昭和二十九年生まれなので団塊世代ではありませんが、「ほぼ逃げ切り世代」に属しています)、若年層(私の子どもたちもこの世代に含まれます)ではそれらを負担するために貧困化が加速していて、結婚や出産もできず、ますます少子化に歯止めがかからなくなっていることなどです。

うつ病論―双極2型障害とその周辺 (メンタルヘルス・ライブラリー)
クリエーター情報なし
批評社

 
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