「今、幼年文学を考える」という特集に掲載された論文です。
冒頭で、「幼年文学はいらない」、「幼年文学は児童書のなかで発行点数も多く、「児童文学の最大の拠点となっている」」という異なる二つの認識が示されます。
前者は、主に子どもの親(自分自身も児童文学に親しんでいる人でしょう)・読書運動をしている人たち・子どもの本専門店など、児童文学に詳しい人たちからの意見です。
後者は、この原稿を依頼している児童文学者協会や出版社など、児童文学の作り手側の事実に即した意見です。
つまり、幼年文学というグレード分け(他に低学年向け、中学年向け、高学年向け、中学生以上などがありますが、幼年文学(一般的には幼児から低学年(本の受容力が低下している現在では三年生ぐらいまで)が最大のマーケット(年齢範囲を広くとっているせいもありますが)です)は、読み手のためではなく(面白ければもっとグレードの高い本でも構わないし、親などの媒介者が読み聞かせなどで手助けすることもできます)、書き手や売り手のためのものなのです。
幼年文学は、他のグレードよりも、読者が本を手にする過程で、媒介者(親、教師、図書館員など)が介在する機会が多く(そのために買ってもらえるチャンスも多いのです。他のグレードではエンターテインメント作品は自分で買う機会もまだ多いでしょうが、それ以外は図書館で借りられてしまうでしょう)、それらの媒介者たちが児童文学に詳しくない(最近は小学校の教師や図書館員でも児童文学をほとんど読んだことがない人が多い)ので、購入するときの目安としてグレード分けが必要なのです。
また、この論文でも書かれていますが、幼年文学は識字教育として使われることも多いので、独特な表記(ひらがなによる分かち書きや漢字への総ルビ)が施されることが多いでしょう。
過去の「日本児童文学」誌上の幼年文学の特集(1985年、1989年、1991年)において、「児童文学の衰退・不況」→「幼年向けの活況」→「幼年文学の混迷」→「幼年文学の俗悪化」によって、ロングセラーは1950年代から1970年代までに出版された本ばかりで、1980年代にはいい本が出てないという認識が紹介されました。
そして、本題の1990年代に幼年文学に入ったのですが、主な作品や作家の羅列に終始して、1980年代の認識(幼年文学の俗悪化(「主人公のペット化」、「挿絵が増えた」、「閉塞の時代」、「ストーリーのパターン化」など))について、どのような克服されたのか否かについての著者の意見が全く書かれていないので失望しました。
個々の作品の特長や良い点を挙げるのも幼年童話の可能性を探るためには必要だと思われますが、それだけでは現象の後追いにすぎません。
幼年童話にはそれほど詳しくない私でも、新たな問題点(「売れた本のシリーズ化によるマンネリ」、「特定の売れる作家への出版の偏り」、著者も触れている「ますます挿絵が増えて絵本と区別しがたい」など)があげられます。
現状(1990年代)の批判なしの総花的なまとめでは、少なくとも「幼年童話の評論」は1980年代より混迷していると言わざるをえません。
冒頭で、「幼年文学はいらない」、「幼年文学は児童書のなかで発行点数も多く、「児童文学の最大の拠点となっている」」という異なる二つの認識が示されます。
前者は、主に子どもの親(自分自身も児童文学に親しんでいる人でしょう)・読書運動をしている人たち・子どもの本専門店など、児童文学に詳しい人たちからの意見です。
後者は、この原稿を依頼している児童文学者協会や出版社など、児童文学の作り手側の事実に即した意見です。
つまり、幼年文学というグレード分け(他に低学年向け、中学年向け、高学年向け、中学生以上などがありますが、幼年文学(一般的には幼児から低学年(本の受容力が低下している現在では三年生ぐらいまで)が最大のマーケット(年齢範囲を広くとっているせいもありますが)です)は、読み手のためではなく(面白ければもっとグレードの高い本でも構わないし、親などの媒介者が読み聞かせなどで手助けすることもできます)、書き手や売り手のためのものなのです。
幼年文学は、他のグレードよりも、読者が本を手にする過程で、媒介者(親、教師、図書館員など)が介在する機会が多く(そのために買ってもらえるチャンスも多いのです。他のグレードではエンターテインメント作品は自分で買う機会もまだ多いでしょうが、それ以外は図書館で借りられてしまうでしょう)、それらの媒介者たちが児童文学に詳しくない(最近は小学校の教師や図書館員でも児童文学をほとんど読んだことがない人が多い)ので、購入するときの目安としてグレード分けが必要なのです。
また、この論文でも書かれていますが、幼年文学は識字教育として使われることも多いので、独特な表記(ひらがなによる分かち書きや漢字への総ルビ)が施されることが多いでしょう。
過去の「日本児童文学」誌上の幼年文学の特集(1985年、1989年、1991年)において、「児童文学の衰退・不況」→「幼年向けの活況」→「幼年文学の混迷」→「幼年文学の俗悪化」によって、ロングセラーは1950年代から1970年代までに出版された本ばかりで、1980年代にはいい本が出てないという認識が紹介されました。
そして、本題の1990年代に幼年文学に入ったのですが、主な作品や作家の羅列に終始して、1980年代の認識(幼年文学の俗悪化(「主人公のペット化」、「挿絵が増えた」、「閉塞の時代」、「ストーリーのパターン化」など))について、どのような克服されたのか否かについての著者の意見が全く書かれていないので失望しました。
個々の作品の特長や良い点を挙げるのも幼年童話の可能性を探るためには必要だと思われますが、それだけでは現象の後追いにすぎません。
幼年童話にはそれほど詳しくない私でも、新たな問題点(「売れた本のシリーズ化によるマンネリ」、「特定の売れる作家への出版の偏り」、著者も触れている「ますます挿絵が増えて絵本と区別しがたい」など)があげられます。
現状(1990年代)の批判なしの総花的なまとめでは、少なくとも「幼年童話の評論」は1980年代より混迷していると言わざるをえません。
日本児童文学 2017年 08 月号 [雑誌] | |
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