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動かぬ個人資産1800兆円(1)投機か預金 育たぬ投資家
2017/8/14 2:30
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO19952370U7A810C1PE8000/?dg=1
スマートフォンの画面に表示されていた金額は9ケタだった。
都内のIT企業に勤める34歳の男性会社員は3年半前、保有していた株と不動産を売却し800万円を仮想通貨につぎ込んだ。
「ビットコイン」と「イーサリアム」の時価は昨年後半から急上昇し今年5月には保有額が3億円を超えた。
40倍もの値上がりだ。
ビットコインの分裂騒動で6月以降に相場が下がったが、再び買いに転じる機会をうかがう。
「仮想通貨は値動きの激しさが魅力だ」と男性は話す。
◆ ◆
7月18日、東証マザーズに上場したばかりのソウルドアウト株を売却した都内の30代男性は、2営業日で130万円の売却益を手にした。
ソウルドアウトはインターネットを活用した営業支援を手がけるが、事業内容や将来性に着目して買ったわけではない。
頼るのは上場後の値動きだけだ。
この男性は自らを「投資家ではありません。 投機家(=バクチウチ)です」と称する。
運用成績が年間でマイナスになったことはなく資産は億単位に膨らんだ。
4月17日、東京・大手町の経団連会館で開かれた信託大会。
あいさつに立った金融相の麻生太郎(76)は「低金利の中で預金が増えているのは信託業界がだらしないからだ」と苦言を呈した。
日本の個人金融資産は1800兆円と30年前から倍増した。
マイナス金利政策による超低金利下でも、個人の資産は市場に向かわず(超低金利の=)銀行の金庫で眠る。
株の短期売買や仮想通貨など先鋭化する一部の個人に対し、大半は投資と距離を置く。
「株はもう二度とやりたくない」。
7月8日、金沢市で開かれた投信フォーラムを訪れた主婦の市原京子(68)は話す。
40年前、大手証券の営業マンに勧められて買った日立ツール(現三菱日立ツール)の株で大きな損失を出し株式投資を封印した。
資産のほとんどは農協に預けている。
金沢市の女性会社員(43)は「投資はよく分からないし怖い」。
この日のお目当ては世界的に著名なパティシエ、辻口博啓(50)による「スイーツによる経済学」という特別公演だった。
日経平均株価はバブル絶頂だった1989年12月に3万8915円の最高値を付けた。
その後は長期にわたり低迷しリーマン・ショック後の2008年10月には7162円とピークの2割以下まで下げた。
短期売買を推奨する証券会社の営業姿勢も追い打ちをかけ「投資は損をする」との先入観が個人の心理に植え付けられた。
◆ ◆
だが預金だけでは豊かな老後は築けない。
フィデリティ退職・投資教育研究所によれば退職後に金銭面の不安がある人の比率は5割を超える。
6割は退職前に十分な資産形成をしておけばよかったと後悔している。
「このままだと客が相当、減ってしまう」。
東海東京フィナンシャル・ホールディングス社長の石田建昭(71)は証券業界の悩みを語る。
対面型の証券会社では顧客の平均年齢が上がり相続などに伴い証券市場から退出いていく時期が迫っている。
若い世代に投資を浸透させなければ客が本当にいなくなってしまう。
「これで米国の背中がさらに遠のいた」。
6月6日、市場のあちこちで失望の声があがった。
600万人以上が加入する企業型の確定拠出年金(DC)。
厚生労働省は初期設定となる商品選定を進めてきた。
元本を保証しないリスク商品である投信が初めて選ばれるとの市場の期待はこの日、空振りに終わった。
初期商品に選ばれれば加入者が自分で変更しない限り、年金は投信で運用される。
投資に関心を持たなかった人が運用の意義に気付く契機になるはずだった。
「投資は危ないと考えた経済団体が最後に巻き返したのではないか」(証券大手幹部)との恨み節が漏れる。
「もうかるもうからないではない。 100年の計を決めるつもりで取り組むべきだ」。
7月24日、日本証券業界の会長に就いた鈴木茂晴(70)は都内で開いた就任パーティーで若者への積立投資の普及を訴えた。
「貯蓄から投資」という言葉だけが躍り「50年以上、何も変わっていない」という現状に危機感を募らせる。
日本株の個人の保有比率は3月末時点で17.1%と過去最低を更新してしまった。
投機と預貯金という2極に分かれ未来に向けて資産を増やす普通の投資家が育たない。
日本の投資文化は変わるだろうか。
◆
1800兆円もの金融資産はなぜ動かないのか。
個人の資産運用の現場に密着し理由を探る。
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動かぬ個人資産1800兆円(1)投機か預金 育たぬ投資家
2017/8/14 2:30
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO19952370U7A810C1PE8000/?dg=1
スマートフォンの画面に表示されていた金額は9ケタだった。
都内のIT企業に勤める34歳の男性会社員は3年半前、保有していた株と不動産を売却し800万円を仮想通貨につぎ込んだ。
「ビットコイン」と「イーサリアム」の時価は昨年後半から急上昇し今年5月には保有額が3億円を超えた。
40倍もの値上がりだ。
ビットコインの分裂騒動で6月以降に相場が下がったが、再び買いに転じる機会をうかがう。
「仮想通貨は値動きの激しさが魅力だ」と男性は話す。
◆ ◆
7月18日、東証マザーズに上場したばかりのソウルドアウト株を売却した都内の30代男性は、2営業日で130万円の売却益を手にした。
ソウルドアウトはインターネットを活用した営業支援を手がけるが、事業内容や将来性に着目して買ったわけではない。
頼るのは上場後の値動きだけだ。
この男性は自らを「投資家ではありません。 投機家(=バクチウチ)です」と称する。
運用成績が年間でマイナスになったことはなく資産は億単位に膨らんだ。
4月17日、東京・大手町の経団連会館で開かれた信託大会。
あいさつに立った金融相の麻生太郎(76)は「低金利の中で預金が増えているのは信託業界がだらしないからだ」と苦言を呈した。
日本の個人金融資産は1800兆円と30年前から倍増した。
マイナス金利政策による超低金利下でも、個人の資産は市場に向かわず(超低金利の=)銀行の金庫で眠る。
株の短期売買や仮想通貨など先鋭化する一部の個人に対し、大半は投資と距離を置く。
「株はもう二度とやりたくない」。
7月8日、金沢市で開かれた投信フォーラムを訪れた主婦の市原京子(68)は話す。
40年前、大手証券の営業マンに勧められて買った日立ツール(現三菱日立ツール)の株で大きな損失を出し株式投資を封印した。
資産のほとんどは農協に預けている。
金沢市の女性会社員(43)は「投資はよく分からないし怖い」。
この日のお目当ては世界的に著名なパティシエ、辻口博啓(50)による「スイーツによる経済学」という特別公演だった。
日経平均株価はバブル絶頂だった1989年12月に3万8915円の最高値を付けた。
その後は長期にわたり低迷しリーマン・ショック後の2008年10月には7162円とピークの2割以下まで下げた。
短期売買を推奨する証券会社の営業姿勢も追い打ちをかけ「投資は損をする」との先入観が個人の心理に植え付けられた。
◆ ◆
だが預金だけでは豊かな老後は築けない。
フィデリティ退職・投資教育研究所によれば退職後に金銭面の不安がある人の比率は5割を超える。
6割は退職前に十分な資産形成をしておけばよかったと後悔している。
「このままだと客が相当、減ってしまう」。
東海東京フィナンシャル・ホールディングス社長の石田建昭(71)は証券業界の悩みを語る。
対面型の証券会社では顧客の平均年齢が上がり相続などに伴い証券市場から退出いていく時期が迫っている。
若い世代に投資を浸透させなければ客が本当にいなくなってしまう。
「これで米国の背中がさらに遠のいた」。
6月6日、市場のあちこちで失望の声があがった。
600万人以上が加入する企業型の確定拠出年金(DC)。
厚生労働省は初期設定となる商品選定を進めてきた。
元本を保証しないリスク商品である投信が初めて選ばれるとの市場の期待はこの日、空振りに終わった。
初期商品に選ばれれば加入者が自分で変更しない限り、年金は投信で運用される。
投資に関心を持たなかった人が運用の意義に気付く契機になるはずだった。
「投資は危ないと考えた経済団体が最後に巻き返したのではないか」(証券大手幹部)との恨み節が漏れる。
「もうかるもうからないではない。 100年の計を決めるつもりで取り組むべきだ」。
7月24日、日本証券業界の会長に就いた鈴木茂晴(70)は都内で開いた就任パーティーで若者への積立投資の普及を訴えた。
「貯蓄から投資」という言葉だけが躍り「50年以上、何も変わっていない」という現状に危機感を募らせる。
日本株の個人の保有比率は3月末時点で17.1%と過去最低を更新してしまった。
投機と預貯金という2極に分かれ未来に向けて資産を増やす普通の投資家が育たない。
日本の投資文化は変わるだろうか。
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1800兆円もの金融資産はなぜ動かないのか。
個人の資産運用の現場に密着し理由を探る。
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