「逮捕しろ」海外帰りの感染者に渦巻く批判 個人情報拡散、罪に問われる恐れ (西日本新聞社 2020/04/01)
現実は、罪にほとんど問われないね。
新型コロナウイルスへの感染が確認された福岡県在住の女子大学生らに対し、インターネット上で「傷害罪で逮捕すべきだ」などと批判が渦巻いている。学生が自粛要請の中で海外旅行をしていたことや、帰国後に卒業式に出席したことが背景にある。体調不良の人に慎重な行動が求められるのは言うまでもないが、専門家は「安易に個人情報を探ったり拡散したりするのは避けて」と警鐘を鳴らす。
女子学生の感染が判明したのは3月28日夜。福岡県が、週末の外出自粛の要請とともに発表した。
29日、県立広島大は会見で、福岡県内の感染者が卒業生であるとして行動歴を説明。1月以降、全ての学生に対して海外旅行の自粛を要請していたことや、感染した学生が3月23日の卒業式に出席していたことが報じられると、会員制交流サイト(SNS)では「内定取り消し確定」「氏名を公表して傷害罪で逮捕すべきだ」といった投稿が相次いだ。
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国内の感染者数が増えるにつれ、その行動に批判が集まるケースが増えている。海外旅行から帰国し感染が確認された京都産業大の学生は、インターネット上に実名などが投稿された。
そもそも、感染症や風邪を他人にうつした場合、罪に問われるのか。福岡県弁護士会の阿部尚平弁護士は「意図的でなければ立証は困難。ほとんどの場合は罪に問われない」と話す。
暴行での打撲や骨折などと同じように、感染症でも、生理的機能を害したとして「傷害罪」に該当する可能性はある。
ただ、阿部弁護士によると、犯罪が成立するには▽誰にうつしたのかという「因果関係」▽他人にうつす「意思(故意)」-が必要だ。
新型コロナウイルスを巡っては、国内全域で感染者が出ており、因果関係の立証は難しい。さらに今回の県立広島大の学生の場合、体調不良を感じてはいたもののマスクを着用して卒業式に出席。そして旅行時の国内での移動は感染発覚前だったことから「故意も立証できない」と阿部弁護士はみる。
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一方、むやみに個人情報を拡散した場合は、そのこと自体が罪に問われる恐れもある。
名前や住所、就職先など個人情報を特定して誹謗(ひぼう)中傷したり、脅したりした場合、名誉毀損(きそん)や脅迫罪に当たるたる可能性が高い。
SNS上での批判が多発する背景について、ITジャーナリストの高橋暁子さんは「犯人捜しをしてしまうのは“正義感”からではないか」と説明する。
外出制限や収入の減少など、多くの人が我慢を強いられている。高橋さんは「自粛などでストレスがたまり、他人を批判しやすい状態になっている」とみる。そして「悪いことをした人には徹底的に糾弾してよいという風潮がSNSでは見受けられる」と指摘した。
過去には、SNS上で無関係の人が「犯罪者」として名前や顔写真をさらされたり、正義感から誤った情報を拡散した人が罪に問われたりしたケースもある。高橋さんは「悪いのは感染者ではなくウイルスそのもの。非常時だからこそ、拡散や批判をする前に一度冷静になって」と訴えた。