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連載小説「フォワイエ・ポウ」 (22回) 4章「新たな展開」(本田マスターは、焦る・・)

2006-04-21 10:05:50 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付写真>:1999年7月中旬、マドリッド市内のタブラオにて、(フラメンコの関連記事、こちらから入れます<昨年5月1日投稿記事へ>)

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  長編連載小説「フォワイエ・ポウ」 (著)ジョージ青木

         4章(新たな展開)

          (2)―1

休みは、盆と正月のみ。
そのほかの祝祭日は、なにが何でも店を開けるぞ!
休日?
休日なんてものは、全くとる必要ない。
24時間365日間、店を開けようが閉めようが四六時中、家賃はかかっているのだ。
と、自分が自分で誓った本田は、日曜日の今夜も店を開き、ひたすら客を待っている。しかし今夜のフォワイエ・ポウには、人の気配が全くない。わずか一人の客も、今夜は来店しない。
開業して半月経った昭和六十二年十二月中旬の日曜日、時計はすでに午後11時なろうとしている。
午後7時の開店から、マスター1人ですでに4時間を過ごす。
最初の2時間、つまり9時頃までは、好きなミュージックを聴きながら、来客を待った。なんとか辛抱できた。午後9時過ぎてからの2時間は、苦行そのものであった。本田には未だ経験したことのない『客を待つ辛さ』というものを、全身で受け止めていた。
(さて、どうしたものか?)
(店で客を待つしか、対処の方法はない・・・)
(今の自分は、店で待機しなければならなく、それ以外の選択肢がない。例えば、自分の城から打って出て、敵を討ち取るような訳にはいかない・・・)
「営業は我輩の天職である!」
と、思うまでのものでもなかったが、サラリーマン時代の本田は営業に自信があった。成功していた。自分からお客の懐に飛び込み、度重なる同業他社との熾烈な競争の末に、団体旅行客の獲得競争に勝ち抜いてきた経験がある。旅行の幹事さんのところに何度も足を運び、自社の安全生と優位性を説明し、ひいては自分自身の実力と信頼性を説明し、ようやく理解して頂いた後に、仕事が獲得できる。事務所のカウンターや自分のデスクで待っていて、大きな仕事が入ってきたためしは未だかって一度もない。
(座って電話を待っていても、客はとれないのだ!)
営業の第一歩は何か、まずはお客様のもとに自ら積極的に足を運ぶ事が営業の第一歩であり、顧客獲得のための何にも勝る第一手であった。
飲み屋の商売はどうか?
今は、今夜の今は、どうするか?
自分には、いったい何ができるのか?
なにをすればいいのか?
まず自分の店で、お客が来るのを待たなければならなかった。
(自分は待てない。待つくらいなら出向いていって自らの道を切り開きたい)
しかし、フォワイエ・ポウという店を持った時点から、本田には待つ事そのものが、営業の基本姿勢なのであった。
(今夜も明日もあさっても、カウンターの中で待機し、満を持して、訪れる客を待つのか・・・)
(待つ仕事、今からも、続けられるだろうか? 自分にできるのか?)
(あ~ いかんいかん、ダメだダメだ!)
(とても自分には『待つ商売』なんぞ向いていないぜ・・・)
こうして何度も自問自答し、さりとて自問自答の結論は導かれず、結論の出ない議論を繰り返しつつ、繰り返しをすればするほど出口の見えない迷路にはまり込んでいく。こんな埒のあかない堂々巡りを繰り返しても、まともな結論は決して出せないことが分かっている。解かっているにもかかわらす、それを繰り返しながら、刻一刻、時間経過と共に神経を磨り減らしている。神経をすり減らしたその後に副産物が発生する。それはけっして益のない副産物であるが、必ず発生する。そんな副産物が一旦発生してしまうと、それは簡単に消滅しない。消滅しない無益な副産物は全身に溶け込み、積もり重なれば害毒となって本田の心身に影響を及ぼす。害毒は、時間経過と共にさらに積もり重なり、ついには沈殿する。
こうして2時間にわたる自問自答の副産物が蓄積され、心の中核に溜まり澱んだものがさらに肥大し、いよいよ本田の表情に現れた。張り切ろうとすればするほど気分が萎える。気分が萎えれば萎えるほど肥大化するものがある。
それは、自信喪失の肥大化であった。
いつまで待っても来ない客を待つほど辛いものは無く、待てば待つほどつらくなり、つらくなればなるほど自信喪失が大きくなる。
時計は、いよいよ午後11時を回った。

(今夜はダメだ。もう、店を閉めるか・・・)
と思ったやさき、約3~4センチほどか?
店のドアが開いた。


<・続く・・>

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