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La Tendre ennemie(マックス・オフュルス、1936年)
娘を愛してもいない婚約者と結婚させようとしているブルジョワ婦人(『ディヴィーヌ』のシモーヌ・ベリオー)。結婚式の夜、かつてこの婦人のために死へ追いやられた3人の男たち(夫、愛人、婚約者)の幽霊が協力して彼女がふたたび過ちを犯すことを止めようとする。
原作は「自由劇場」を立ち上げたかのアントワーヌの息子の手になる舞台のヒット作『敵』。タイトルロールの「敵」とはほかならぬヒロインのこと。映画版のタイトルは婉曲化されている。
オフュルスはブレスラウの舞台でオリジナルの戯曲を演出した経験があった。「主題はきわめて興味深い。喜劇的で、悲劇的で、皮肉、疑い、実人生でのように、いろいろな感情が入り交じっている」。
「相当にみだらなブールバード喜劇を素材に、オフュルスは幸福の探究についての繊細な省察をくりひろげてみせた」とはある批評家の弁。それによって「恋愛ものの定石をことごとく破壊している」とは監督による自画自賛。ただし、「少なくともスピリチュアルな面ではそうなっているとおもうよ」と留保がつく。
エクトプラズムみたいに半透明の幽霊たちは、映画でこそ可能な演出。ベンチやシャンデリアに並んで腰を下ろし、皮肉まじりに昔話に耽っているところなど、メゾンテリエで門前払い(置いてけぼり)を食わされた『快楽』のおぢさんたちのような雰囲気。(たしかそんなシーンあったよね)
狂言回し的な3人の男性の視点からヒロインの半生がフラッシュバックで回想されるという構成は『輪舞』『歴史は女で作られる』ではないか(しかもヒロインの愛人はサーカスのライオン使い)。
ところどころでトレードマークのロングテイクを味わえる。この作品からしばらく撮影監督として組むことになるのは巨匠オイゲン・シュフタン。