Negative Space

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今です!増村保造再発見:『兵隊やくざ』

2014-08-02 | 増村保造

 増村保造「兵隊やくざ」(大映、1965年)
 
 満州。戦場に横たわる白骨化した兵士のショットにタイトルがかぶさる。

 おもてむきは戦争映画だが、「青春映画」(増村)にしてクイアー映画(?)の名作。シニカルなインテリ(田村)と浪曲師あがりのやくざ(勝新)とが本能的に惹かれ合い、世間(つまり軍)の目をものともせずに恋(?)を貫く。勝新は浴場で全裸で大乱闘を演じ、田村は強行軍でダウンした勝新の靴下を脱がせてやる……。その他、おのろけ、スキンシップ場面多数。

 保護下にある勝新にみずから焼きを入れるよう命じられた田村。「おれは軍隊で殴られたことはあっても、殴ったことはない。だが今日は違う」と自らをふるいたたせるも、手にした竹刀をふるうことがどうしてもできない。背中を向け、厳罰覚悟で引き上げていく田村。勝新はその場に背中を向けてちょこんと座り込み、煉瓦で自分の顔を殴り始める。勝新に救われたことを知った田村が洗濯物を干している勝新のところへ行き、「ばかだな、おまえ」。顔をぱんぱんに腫らした勝新は答えず、♪そよと吹く風、無情の風、おれが親分兄弟分……と口ずさみながら洗濯物を干す手を休めない。紅海を渡るモーゼみたいに、洗濯物の列の間を画面手前に歩いてきてフレームアウトする勝新。画面奥からその姿を見守る田村のショット。「やがて夏が過ぎ、短い満州の秋になり……」と田村によるロマンティックなナレーションがかぶさる。この場面は、出会いのときの願い(「浪花節をいつか聞かせてほしいものだ」)が叶えられる場面でもあり、作品中の白眉。
 
 物干し台に限らず、浴室、調理場……と家庭的な(?)舞台設定が多いのは偶然ではあるまい。

 二人の主従関係の廃棄ないし逆転は、軍隊というヒエラルキー社会(それ自体、一般社会の戯画)へのアンチテーゼ。部隊内では歩兵と砲兵が反目し、果たし合いに明け暮れている。田村が喧嘩相手の等級を調べさせ、ひとつ上の等級の味方を呼んで相手をやり込めようというセコイ戦略を得意にしているのが笑える。

 南方へ送られそうになった勝新は、上官の田村を故意に殴って独房に入れられる。上官の田村が食事を運んで行くと(主従の逆転を暗示する周到な演出)、「上等兵殿と離れたくなかったんです」と勝新。全部隊に激戦地への異同命令が出ていることを知ると、いつか約束した恩返しを果たそうと、強引に田村を脱走計画に同意させる。「考えてる場合か? 黙って俺についてこい!」

 新任地へ向かう車中。「いつやる?」「今です!」……「今日からおまえがおれの上官だ」。ラスト、汽車の屋根に仁王立ちになる勝新(最後まで派手好き)のシルエットが遠ざかって行く。完。