白夜の炎

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中国の核戦力

2013-04-19 17:14:34 | 軍事
「国連軍縮研究所(UNIDIR)が、大変参考になる資料を発表しています。

[PDF] Tamara Patton, Pavel Podvig, and Phillip Schell, A New START Model for Transparency in Nuclear Disarmament Individual Country Reports, United Nations Institute for Disarmament Research, New York and Geneva, 2013.

2011年に米ロ間で発効した第四次戦略兵器削減条約(新START)の透明性向上のために、アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、そして中国の核戦力の現状を端的にまとめた報告書です。

この中から、本稿では中国の核ミサイルについての章を紹介したいと思います。

当ブログではこれまでに何度も中国の核戦力について取り上げてきましたが、その材料はアメリカの公的機関やシンクタンクが発表した資料に依拠していました。今回の国連報告では独自に集めたデータが採用されているものの、やはり米国防総省や米中経済安全調査委員会などの資料を引用した部分も多く、目新しさはありません。

しかしこれは、米機関発表のデータが引用するに足るとUNIDIRが認めたために、結果として同じ数字を掲載することなったわけです。アメリカ発の資料を使うと何かと文句を言われがちですが、国連のクロスチェックが入った報告書に関しては、今後はより信憑性の高い数字として扱うことができるのではないかと思います。


中国は約240発の核弾頭を保有(備蓄も含めて)し、そのうち約180発が配備中(operational)。
運搬手段は、陸上発射型弾道ミサイルと爆撃機。
全核弾頭は、通常は保管庫にてミサイルと分けられて保存されるため、即応発射態勢にある核ミサイルはない。

新STARTでICBMと分類されるものは射程5,500km以上のもの。この定義に従うと中国が保有しているのは以下の3種類のICBM;

DF-5A:射程13,000km。固定サイロ発射型。
DF-31:射程7,400km。移動発射型。
DF-31A:射程11,200km。移動発射型。

各ミサイルの配備数、発射基数は以下の通り;

DF-5A×20(発射基×20、未配備発射基×5)
DF-31×20(発射基×20、未配備発射基×5)
DF-31A×20(発射基×20、未配備発射基×?)

潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)を開発中だが、現在未配備。
ICBMは計60発(発射基も60基)配備中。空いているICBM発射基(サイロ、TEL)はない。

戦略ミサイルの運用は第二砲兵が担っており、6つの基地のうち4つ(第53、第54、第55、第56)がICBMを配備。
サイロ型と移動発射型の両方を運用するのは第54基地と第55基地。
第53と第56は移動発射型のみ。


固定サイロ発射型ICBM

洛陽(河南省):DF-5A×10
第54基地。6個旅団で構成される。
DF-5A、DF-31、DF-4(新STARTではカウントされない)を運用している。
DF-5Aを配備したサイロが10基。
基地は2つの地域にあり、盧氏県に801旅団、洛寧県に804旅団。もう1カ所あるとみられるが未確認。
サイロ発射訓練施設もある。
核弾頭搭載中のICBMはない。


懐化(湖南省):DF-5A×10
第55基地。4個旅団で構成される(新STARTに関わるのはこのうち3つ)。
DF-5AとDF-31Aを運用している。
DF-5Aを運用するのは803旅団(靖州)と814旅団(会同)。両旅団の基地は近く、駐屯地や支援基地を共有している。
サイロ発射基地は803旅団に3カ所、814旅団に1カ所。
両旅団あわせたICBM発射サイロは10基。サイロ型発射訓練施設が1つあるため、それを含めれば11基。
核弾頭搭載中のICBMはない。


移動発射型ICBM

昆明(雲南省)
第53基地。6個旅団で構成される。
ICBM運用は玉渓市近くの1つの旅団のみ(建設中)。運用状況詳細は不明。
DF-31とDF-31Aを運用している。
2012年9月時点で配備中のICBMはないという分析。

洛陽(河南省):DF-31/31A×10
第54基地。
サイロ発射型と移動発射型の両方を扱うため、ひとつの部隊(813旅団)が2カ所のICBM基地に分かれて配属されている。
移動発射型ICBMの基地は2つあり、南陽と西峡。
南陽の813旅団はDF-31が初めて配備された部隊である。
配備中のDF-31と発射車両の正確な数は不明。少なくとも2両の発射基が確認されている。
西峡の詳細は不明。移動発射車両のための整備がされており、DF-31またはDF-31Aが配備されていると見られる。
洛陽に配備されたDF-31/31Aの移動発射車両は10基。
核弾頭搭載中のICBMはない。

懐化(湖南省):DF-31/31A×10
第55基地。 第54基地と同じく、固定サイロと移動発射車両のふたつのタイプのICBMを運用する。
移動発射型ICBMを運用する805旅団の基地は邵陽市近く。
805旅団はDF-4運用部隊として配備された経緯がある。
DF-4からDF-31Aへの更新に伴い、805旅団の駐屯基地も通道トン族自治県から邵陽へと移った。
DF-31Aの正確な配備数は不明。ミサイルと同数の発射車両×10基があると見られる。
核弾頭搭載中のICBMはない。

西寧(青海省):DF-31/31A×20
第56基地。正確な場所は不明。8個旅団で構成される。
ICBM運用部隊は3つ;809旅団(大通県)、812旅団(天水市 筆者注:甘粛省)、もうひとつはデリンハ市にある模様。
2011年6月6日の衛星画像情報によると、大通県で6基のDF-31/31Aを809旅団が運んでいるのを確認。
移動発射車両が大通に常時配備されているのか、500km南東の812旅団のものが一時的に配備されたのかは不明。固定された発射車両が4基確認。
天水の812旅団はDF-31Aを運用。3基の固定された発射車両を確認。
デリンハには大規模な発射施設があり、かつては812旅団がDF-4部隊として使用していた。
812旅団はDF-4からDF-31Aへの更新にともない天水へ移動。現在デリンハの施設は訓練施設として使用されているとの情報もあるが、詳細は不明。どの弾道ミサイルが配備されているのか(いないのか)も不明だが、DF-31/31Aがあると指摘されている。
西寧には20基の移動発射車両があると見られる。
核弾頭搭載中のICBMはない。


潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)

中国の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)は2種類;JL-1とJL-2。
092型夏級原子力潜水艦(SSBN)と094型晋級原子力潜水艦(SSBN)が発射プラットフォームとなる。
新STARTは「配備中のSLBM」の定義として「SLBM発射プラットフォーム(潜水艦)が配備されていること」が含まれているので、中国はSLBM未配備という扱いとなる。

夏級は12発のJL-1(射程1,770km)を搭載するが、1981年の就役以来パトロールに従事したことはなく、十分な稼働状態にない。
JL-1は就役後、訓練のために夏級に搭載されたことはあるが、現在SSBNに搭載されているかどうかは不明。

夏級の後継である晋級の詳細は不明。
米国防総省によると、2隻が就役中。1隻は北海艦隊に所属し、青島に近い姜哥庄を母港としている。もう1隻は南海艦隊に所属し、海南島の楡林を母港としている。
3隻目も建設中とされるが、進捗状況は不明。

晋級はJL-2(射程は7,400km)の発射プラットフォームとなる。
JL-2の開発は技術的な障害などを理由にはかばかしくなく、現在もステイタスは「開発中」のままである。
2012年1月と8月に晋級がJL-2の発射試験を行ったという報告がある。
米中経済安全調査委員会報告書(2012)によると、晋級とJL-2は2年以内に実戦配備されると見込まれている。
その予想とは裏腹に、JL-2はまだ大量生産状態になく、晋級の発射管は空のままだと見られる。

重爆撃機
中国空軍は少数のH-6中距離爆撃機に自由落下爆弾を搭載している。
H-6は戦闘行動半径が3,100km。新STARTでは重爆撃機には分類されない。(新STARTの定義における重爆撃機は、“行動半径8,000km以上あり、空中発射型長距離核巡航ミサイル(ALCM)発射能力があること” とされる)
射程1,500kmのDH-10巡航ミサイルを発展させ、H-6改修型に搭載する可能性も指摘されるが、DH-10に核搭載能力があるかどうかの評価が定まっていない。
2013年現在、長距離核ALCMを搭載した航空機は中国にはない。

◇ ◇ ◇

これまでも指摘してきたことですが、中国の核抑止の主役である戦略級弾道ミサイルに関しては量産されることもなく、数量的にはここ20年ほど抑制的に推移しています(短距離~準中距離級の弾道ミサイル増強は著しいですが)。なにより、普段は核弾頭をミサイルから外して保管しており、核兵器管理を厳にしていることがうかがえます。

国防総省をはじめとした米政府機関の報告書やFASなどのシンクタンクの資料でも従来から指摘されていた通り、中国によるアメリカの大都市に対する核報復攻撃能力は十分なものとは言えず、「最小限抑止」の範囲内にとどまっていますね。」

 写真はDF31A。移動式ICBMです。

http://blogos.com/article/60551/


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