白夜の炎

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王子製紙の排水管問題/莫邦富氏のブログより

2012-08-06 15:39:23 | アジア
「大衆抗議デモに発展した王子製紙の排水管計画-中国市民の環境意識の変化に応じた情報発信を

  啓東。日本人のほとんどが知らないこの町は7月28日、大規模な大衆抗議デモが起きたため、一躍日本で広く知られるようになった。江蘇省南通市に進出した製紙大手の王子製紙が排出する廃水を海に流すために、南通市政府は啓東の沖に放出する排水管の設置工事を計画し、その実施を進めている。生活環境が脅かされると危惧する啓東の市民たちが立ち上がり、インターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などを通じ、呼び掛けあい、大規模なデモとなったのだ。

大衆抗議デモが起こった啓東は
漁業も盛んで上海蟹などの生息地

 そもそも南通市を知っている日本人もかなり少ないと思うが、その南通市の管轄下にある啓東市に至っては、ほとんどの日本人はまず知らないだろう。しかし、実際、この啓東市は、上海にもっとも近い町と言っても過言ではない。

 長江が東シナ海に流れ込む河口に、台湾と海南島に次いで、中国で3番目に大きい島がある。崇明島だ。上海市に属する唯一の県でもある。島の北側は東シナ海に流れ込む長江の川筋を隔てて、啓東市、同じく南通市の管轄下にある海門市が広がる。

 今や長江の水底トンネルや橋によって、市街地が上海と結ばれた啓東には、多くの上海市民にも知られていない秘密がある。行政区画上、上海市崇明県と呼ばれる崇明島の北側には、実は上海に属さない土地がある。飛び地のように島の北側に広がるその一角は、永隆沙と興隆沙と呼ばれる。

 そのうち、永隆沙は全て啓東市に帰属し、啓隆郷と呼ばれる。興隆沙はその南東部を除いて、海門市の海永郷の管轄下にある。行政上の所属先である海門市、啓東市と長江を隔てて臨むこの2つの飛び地は、すでに実質的に崇明島と陸続きになっており、「江蘇省内の上海」と呼ばれるほどだ。実際、これまで、この2つの飛び地はやがて上海に帰属するのではないかと噂されたことが何度もあった。

  上海とあまりにも近い距離なので、南通も啓東も近年、自らのことを「北上海」と称してアピールしている。

 啓東はまた漁港としても知られる。漁業が盛んだ。その近くにある呂四漁場は中国で最も知られる4つの漁場の一つで、ハマグリや上海蟹などの生息地でもある。もし、この海域が汚染されたら、20万人の生活が台無しになってしまう恐れがある、と指摘されている。

王子製紙は南通にとって
まさに救いの星だったが……

 王子製紙の南通進出の話がほぼ決まったとき、南通を訪問した私は、王子製紙の南通進出についてどう思うかと、市の幹部から尋ねられた。

 距離的に上海とこれほどに近い関係で結ばれている南通だが、長い間、上海から南通に行こうと思うと、意外と移動にエネルギーを消耗していた。車で長江の南岸側に沿って江蘇省常熟市まで移動し、そこで海のような広さを見せる長江を渡るフェリーに乗る。順調に移動できたとしても最低4時間はかかってしまうのだった。時間を争うビジネスの視点から見ると、これは大きなネックだった。

 その上海との物理的距離を短縮するために、南通は必死に努力した。長江にかかる大橋などのインフラの整備に心血を注いだ。この大橋が2008年6月に開通し、上海との距離は大きく短縮され、完全に上海の2時間経済圏に入った。2010年に、上海万博が開催される前に、啓東も水底トンネルや橋で上海と陸続きで結ばれた。

 一方、江蘇省、とくに南通の近くには、蘇州、無錫、常州など経済発展の先進地域がいくらでもある。GDP競争に明け暮れる中国の地方自治体のトップにとっては、外資の誘致は必死の課題だ。中国の産業発展の歴史を振り返ると、南通は中国の近代産業の発祥の地であり、19世紀末にすでに民族系の綿紡績工場がつくられ、産業人材を育成する専門職業学校も誕生したのだ。

  歴史が輝いていただけに、南通は蘇州などの躍進を手をこまねいて見ることができない。しかし、これまで繊維の町として知られていた同市には、東レ、帝人など繊維系の企業の進出が多く、他の分野の有力企業の進出が今一つだった。そこへ巨額の投資を約束してくれた王子製紙は、南通にとってはまさに救いの星だった。南通も必死に王子製紙の進出を誘致し、いろいろな優遇策を打ち出し、王子製紙の進出でGDP競争の劣勢を一気に挽回しようとした。

 こうしたいきさつを知っている私は、苦しい回答をした。

「たしかに、製紙企業は汚染企業と見られる傾向がある。しかも、ここは人口が密集する上海にも近い。可能ならば、その進出を受け入れないほうがいいと言いたいが、日本の製紙企業なので、廃水処理をかなり丁寧にやってくれるだろう。その意味では、王子製紙の進出を受け入れる代わりに、その製造量に相当する、環境がもっと脆弱な中国の内陸部にある多数の中小製紙工場を閉鎖するようにすると、人々も納得してくれるだろう。とにかく住民の理解が得られるように、情報の透明化と公開に力を入れたらどうか」

 幹部が大仰に頷いてはくれたが、どこまで行動を起こすのかは、わからなかった。その後、南通市に隣接するもう一つの市を訪問したとき、そこの市長との会談の中で、何かのはずみで南通市に進出した王子製紙の事が話題になり、私が上述した考えをもう一度述べた。しかし、その市長は、ストレートに南通市の将来を心配していた。

「南通がこんなに大きな投資プロジェクトを手にしたことはすごいが、製紙企業だとすれば、うちはもうこれ以上は受け入れない。いずれ環境問題としてクローズアップされるだろうと思う」

 いま振り返ってみると、この市長には先見の明があったと思う。


[環境に対する新しい変化にもっと敏感に対応すべし]

 啓東に大規模な抗議デモが起きて、啓東市政府はあわてて声明を発表し、市民が納得しないなら、工事を実施しないと約束したが、政府に強い不信感をもつ市民は、そんな声明を時間稼ぎの対策と見て、抗議活動をやめようとはしなかった。

 その動きを見て、南通市はすぐに一歩踏み込んだ対策をとった。啓東沖に王子製紙の廃水を流す排水管設置工事計画を永久に凍結すると発表したのだ。市民の勝利となった。

 しかし、問題の解決にはなっていない。サポートするという南通市政府の約束を信じて現地に進出したのに、排水管工事の中止はまさに約束を破ったようなものだ。その意味では、王子製紙が被害者意識をもつのも自然な成り行きだ。そこで、王子製紙は、それでは仕方なく排出した廃水を引き続き長江に流すしかないと、中国メディアにコメントを述べたようだ。

 このコメントは中国でまた大きな波紋を広げた。なぜかというと、上海の水道工場の水源地が南通に比較的近いところにあるからだ。王子製紙は、こうした意地になったと誤解されるようなコメントは慎むべきだ。むしろ、排出した廃水をどこまで処理したかなどの情報を積極的に発信し、人々の心配を解消するよう努力したほうが効果的だと思う。

 GDP一辺倒だった中国は最近、環境に対して敏感になるといった新しい変化を見せている。こうした進出先の社会変化に、進出企業としてはこれからもっと敏感にならないと、致命傷を受けてしまう恐れがある。私は王子製紙が善処できると信じたい。」

(→http://diamond.jp/articles/-/22431)

「原発は高くつく」―不都合な真実をGEトップが表明

2012-08-06 11:57:48 | 原発
「(2012年8月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 環境保護団体が原子力発電は高すぎると訴えることはあるが、発言の主がゼネラル・エレクトリック(GE)のような原子力産業の先駆的企業のトップとなると、話はまるで違ってくる。

■原発業界の「不都合な真実」

GEのイメルトCEOは、原子力発電を経済的に擁護するのは非常に難しいと語った

 GEは1950年代に世界でも最初期の商用原子炉を建設し、2007年に日本の日立製作所と原子力発電の合弁会社を設立して以来、業界トップの一角を占めてきた。

 GEのジェフリー・イメルト最高経営責任者(CEO)が、原子力発電を経済的に擁護するのは「非常に難しく」、大半の国はガスと再生可能エネルギーの組み合わせに移行していると、7月末にフィナンシャル・タイムズに対して語ったのは、業界の「不都合な真実」を口にしただけだと見る投資家もいる。

 昨年の各種経済予測では、原子力発電所が生み出す電力はこの先何年も天然ガスや風力発電所、太陽光パネルの電力よりも安いか同程度とされていた。

 一部の専門家はそうした予想を疑問視してきた。太陽光パネルの市場価格が急落し、風力タービンの価格も下がったうえ、膨大な量のシェールガスの発見で米国における安いガス価格がほかにも広まるとの期待が生じたからだ。

 欧州で20年ぶりの原子炉新設となるフィンランドのオルキルオト3号機とフランスのフラマンビルの建設は大幅に遅れ、原子炉建設コストの試算を膨らませた。日本の福島での原発事故が一段とコストを増やし、ドイツなど一部の国は原子力発電の廃止を決めた。

 「基本的にイメルト(氏)は正しい。最終的には、ガスと風力、太陽光の組み合わせになるだろう」。ロンドンに本拠を構え、クリーンエネルギー関連プロジェクトに投資するプライベートエクイティ(非上場株)投資会社ズーク・キャピタルのサマー・ソルティCEOはこう話す。

■米国外では成り立たない?

 原子力業界の幹部は、イメルト氏の発言は米国という1国の事情を反映したものに過ぎないと言う。世界原子力協会(WNA)のスティーブ・キッド副理事長はこう語る。「ガス価格が安いと新しい原発が経済的に競争するのは難しくなる。だが、今のような価格水準がいつまでも続くのか、世界各地で妥当かどうかを、我々は疑問視している」

 「欧州では、ガス市場が米国の状況と同じにはなりそうもなく、各国の市場次第で原発プロジェクトは経済的に正当化できる。アジアでは、各国はまだ高価な輸入液化天然ガス(LNG)に依存しており原発プロジェクトは非常に魅力的なはずだ」

ドイツは原子力発電の廃止を決めた(6月27日、ドイツで解体中のビュルガッセン原発)=ロイター
 GEのライバル企業は、GEにとって原子力は小さな事業で、同社はもはや米国外では原子力産業の大きな勢力ではないと言う。

■需要減退や原発事故で条件が一変

 だが業界幹部は、コストが上昇したことは否定できない。今では、国の補助金なしで新たな原子炉を建設できるという従来の主張は見当外れに見える。

 2007年から2008年にかけて原子力の復活が勢いを増した頃、企業は電力価格が大幅に高くなると予想しており、原子炉建設に必要な莫大な投資はリスクが小さく見えた。各社は炭素価格も上昇すると予想し、石炭やガスを使った火力発電所は原子力や再生可能エネルギーに比べて不利になると考えた。

 ところが多くの先進国では、景気後退でエネルギー需要と電力価格が予想より低く抑えられ、原発投資の条件は悪化した。

 また福島の事故以降、規制当局は発電所の設計に補助電源システムなど追加の安全対策を要求している。EDFと共同で原子炉建設を検討している英国のエネルギー企業セントリカのCEO、サム・レイドロー氏は「福島の事故後に一定の設計変更があったのは間違いない」と言う。だが、同氏は、コストの前提を変えた主な理由として、欧州の原発建設の進捗の遅さを挙げる。

■08年には40億ポンド、現在は70億ポンド

 シティグループの公益事業担当アナリスト、ピーター・アサートン氏(ロンドン在勤)によると、英国で3.2ギガワット(GW)の原子炉を建設するコストの推定値は2008年に40億ポンドだったが、フラマンビルとオルキルオトの経験から、今では70億ポンドという。「原子炉1基当たり70億ポンドも払うとしたら、経済的にも政治的にも建設の正当化は非常に難しい」

 原子力発電がほかのタイプの発電と競争できるかどうかは、設置の場所と、原子炉建設が増えるに従い、業界幹部の予想通りにコストが下がるかどうかにかかっているようだ。

■民間単独での新設は難しい

 いずれにせよ、低炭素エネルギーの安定供給を望む政府の願望などを受けて実施されるプロジェクトはあるだろう。

 英国のウラン濃縮会社ウレンコの社外取締役で、再生可能エネルギー専門の投資ファンド、ノーバスモーダスの代表を務めるリチャード・ノース氏は、多くの国が二酸化炭素排出量の削減目標を受け入れたことから、将来の発電に原子力を全く使わないと考えるのは「非常に難しい」と言う。「とはいえ、再生可能エネルギーを使った電力の価格は下がるので、原子力が幅広く利用されるには競争力があることを示し続けなければならないだろう」

 原発には莫大な投資が必要で、建設にリスクが伴うことから、財政運営に苦しむ政府からの補助金や奨励金なしで、民間部門が進んで新たな原発に資金をつぎ込むことは考えにくい。前出のアサートン氏は「あれだけの規模の損失(20億ユーロに上るオルキルオトの予算超過)を被りながら支払い不能に陥らずに済む企業は世界にほとんどない」と言う。

 民間の関心が冷め、各国政府が次世代原子炉の建設コストを綿密にチェックする中、原子力発電がガスや再生可能エネルギーと張り合えることを示してイメルト氏の間違いを証明するには、まだまだ時間がかかりそうだ。

By Pilita Clark, Rebecca Bream and Guy Chazan

(翻訳協力 JBpress)

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