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「原発は高くつく」―不都合な真実をGEトップが表明

2012-08-06 11:57:48 | 原発
「(2012年8月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 環境保護団体が原子力発電は高すぎると訴えることはあるが、発言の主がゼネラル・エレクトリック(GE)のような原子力産業の先駆的企業のトップとなると、話はまるで違ってくる。

■原発業界の「不都合な真実」

GEのイメルトCEOは、原子力発電を経済的に擁護するのは非常に難しいと語った

 GEは1950年代に世界でも最初期の商用原子炉を建設し、2007年に日本の日立製作所と原子力発電の合弁会社を設立して以来、業界トップの一角を占めてきた。

 GEのジェフリー・イメルト最高経営責任者(CEO)が、原子力発電を経済的に擁護するのは「非常に難しく」、大半の国はガスと再生可能エネルギーの組み合わせに移行していると、7月末にフィナンシャル・タイムズに対して語ったのは、業界の「不都合な真実」を口にしただけだと見る投資家もいる。

 昨年の各種経済予測では、原子力発電所が生み出す電力はこの先何年も天然ガスや風力発電所、太陽光パネルの電力よりも安いか同程度とされていた。

 一部の専門家はそうした予想を疑問視してきた。太陽光パネルの市場価格が急落し、風力タービンの価格も下がったうえ、膨大な量のシェールガスの発見で米国における安いガス価格がほかにも広まるとの期待が生じたからだ。

 欧州で20年ぶりの原子炉新設となるフィンランドのオルキルオト3号機とフランスのフラマンビルの建設は大幅に遅れ、原子炉建設コストの試算を膨らませた。日本の福島での原発事故が一段とコストを増やし、ドイツなど一部の国は原子力発電の廃止を決めた。

 「基本的にイメルト(氏)は正しい。最終的には、ガスと風力、太陽光の組み合わせになるだろう」。ロンドンに本拠を構え、クリーンエネルギー関連プロジェクトに投資するプライベートエクイティ(非上場株)投資会社ズーク・キャピタルのサマー・ソルティCEOはこう話す。

■米国外では成り立たない?

 原子力業界の幹部は、イメルト氏の発言は米国という1国の事情を反映したものに過ぎないと言う。世界原子力協会(WNA)のスティーブ・キッド副理事長はこう語る。「ガス価格が安いと新しい原発が経済的に競争するのは難しくなる。だが、今のような価格水準がいつまでも続くのか、世界各地で妥当かどうかを、我々は疑問視している」

 「欧州では、ガス市場が米国の状況と同じにはなりそうもなく、各国の市場次第で原発プロジェクトは経済的に正当化できる。アジアでは、各国はまだ高価な輸入液化天然ガス(LNG)に依存しており原発プロジェクトは非常に魅力的なはずだ」

ドイツは原子力発電の廃止を決めた(6月27日、ドイツで解体中のビュルガッセン原発)=ロイター
 GEのライバル企業は、GEにとって原子力は小さな事業で、同社はもはや米国外では原子力産業の大きな勢力ではないと言う。

■需要減退や原発事故で条件が一変

 だが業界幹部は、コストが上昇したことは否定できない。今では、国の補助金なしで新たな原子炉を建設できるという従来の主張は見当外れに見える。

 2007年から2008年にかけて原子力の復活が勢いを増した頃、企業は電力価格が大幅に高くなると予想しており、原子炉建設に必要な莫大な投資はリスクが小さく見えた。各社は炭素価格も上昇すると予想し、石炭やガスを使った火力発電所は原子力や再生可能エネルギーに比べて不利になると考えた。

 ところが多くの先進国では、景気後退でエネルギー需要と電力価格が予想より低く抑えられ、原発投資の条件は悪化した。

 また福島の事故以降、規制当局は発電所の設計に補助電源システムなど追加の安全対策を要求している。EDFと共同で原子炉建設を検討している英国のエネルギー企業セントリカのCEO、サム・レイドロー氏は「福島の事故後に一定の設計変更があったのは間違いない」と言う。だが、同氏は、コストの前提を変えた主な理由として、欧州の原発建設の進捗の遅さを挙げる。

■08年には40億ポンド、現在は70億ポンド

 シティグループの公益事業担当アナリスト、ピーター・アサートン氏(ロンドン在勤)によると、英国で3.2ギガワット(GW)の原子炉を建設するコストの推定値は2008年に40億ポンドだったが、フラマンビルとオルキルオトの経験から、今では70億ポンドという。「原子炉1基当たり70億ポンドも払うとしたら、経済的にも政治的にも建設の正当化は非常に難しい」

 原子力発電がほかのタイプの発電と競争できるかどうかは、設置の場所と、原子炉建設が増えるに従い、業界幹部の予想通りにコストが下がるかどうかにかかっているようだ。

■民間単独での新設は難しい

 いずれにせよ、低炭素エネルギーの安定供給を望む政府の願望などを受けて実施されるプロジェクトはあるだろう。

 英国のウラン濃縮会社ウレンコの社外取締役で、再生可能エネルギー専門の投資ファンド、ノーバスモーダスの代表を務めるリチャード・ノース氏は、多くの国が二酸化炭素排出量の削減目標を受け入れたことから、将来の発電に原子力を全く使わないと考えるのは「非常に難しい」と言う。「とはいえ、再生可能エネルギーを使った電力の価格は下がるので、原子力が幅広く利用されるには競争力があることを示し続けなければならないだろう」

 原発には莫大な投資が必要で、建設にリスクが伴うことから、財政運営に苦しむ政府からの補助金や奨励金なしで、民間部門が進んで新たな原発に資金をつぎ込むことは考えにくい。前出のアサートン氏は「あれだけの規模の損失(20億ユーロに上るオルキルオトの予算超過)を被りながら支払い不能に陥らずに済む企業は世界にほとんどない」と言う。

 民間の関心が冷め、各国政府が次世代原子炉の建設コストを綿密にチェックする中、原子力発電がガスや再生可能エネルギーと張り合えることを示してイメルト氏の間違いを証明するには、まだまだ時間がかかりそうだ。

By Pilita Clark, Rebecca Bream and Guy Chazan

(翻訳協力 JBpress)

(c) The Financial Times Limited 2012. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.」


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