白夜の炎

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推薦  シュロモー・サンド著『ユダヤ人の起源』

2011-02-14 12:59:08 | 
 何かと問題の多い中東について勉強するとき、例えばユダヤ人の歴史を学ぼうとで本屋で本を手に取ると、聖書の記述どおりにユダヤ人の歴史が描かれていたりする。

 今時日本書紀などをそのまま下敷きにして歴史を書いたら噴飯ものだと思うのだが、ユダヤ人の歴史関してはそういうものが出ている。

 あるいは考古学的知見に基づいたユダヤ人やその周辺諸民族の歴史といったものもあまり見当たらない。そもそもユダヤ人はエジプトやバビロニア、ペルシア、あるいはローマといった大国のもとにいたのだから、そういった国の記録の中に出ているはずと思うのである。

 またユダヤ人が今のパレスチナの地に国を持つ権利があるとする理屈もよくわからない。第一に神殿崩壊後2000年間世界に離散したユダヤ人は、血統的にすべてつながっている、という主張であるが、本当なのか。

 第二に、だからといってなぜ現実の世界の中で、今そこに何百年も生活する人たちを押しのけて、自分たちが割り込む権利にそれがなるのか…ということである。

 このような次々浮かんでる疑問を大いに解消してくれるのが、昨年の3月に武田ランダムハウスジャパンから刊行されたシュロモー・サンドの『ユダヤ人の起源』である。

 著者はオーストリア生まれ、イスラエル育ちのユダヤ人で、現在テルアビブ大学の教員である。

 著者は18世紀から19世紀、そして20世紀の西ヨーロッパ-中でも―ドイツ―で国民国家、国民意識が形成される中で、ユダヤ人に関するそれまで存在しなかったとらえ方が生まれていったことを示し、それがシオニズム運動として現在のイスラエルの公式的なユダヤ間につながることを示してくれる。

 またハザール王国やマグレブ諸国の改宗ユダヤ教徒など、血統は異なるユダヤ教徒・ユダヤ人が歴史上数多く存在したこと、そしてその影響が無視しえないことを示している。

 中東を緊張の地にしてきた今日のユダヤイデオロギーの源流をたどる上で書くことのできない一冊である。