べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

小糠雨降る夜のこと

2008年05月24日 17時46分02秒 | 叙情

静々と日が暮れて
それでもなお降りやまぬ小糠雨
閉めきった部屋であかりも灯さず
じっと息を殺していると
やがて部屋中が
生ぬるい水で満たされていきました
その澱んだ水底に
わたしはからだを丸めて横たわり
人知れず 密やかに
おろおろ泣いてみたのです
なんのためらいも恥じらいもなく
さめざめと
さほど悲しくもないのにです

けれど
まったく悲しくないかといえば
けしてそういうわけでもありません
ただ
胸にわだかまる悲しみのもとが
いったいどこにあるのか
理解できずにいるだけなのです
その証しに
頬をつたうしょっぱい雫は
とどまることなく
ほろほろと
ほろほろとこぼれ落ちて
なおさらに
部屋を満たしていったのですから

悲しいわけがわからないのは
きっとわたしの中に
悲しいことが多すぎるから

などと思いを巡らせているうちに
意識の輪郭がとろとろとろけて
すでに部屋中に満ち満ちた
水にほどよく混じりあい
やがてわたしは
やさしい眠りに落ちていったのです
ほの暗い水の底でゆるゆると
ゆるゆると
やわらかな眠りにほどけていきました
そうしてわたしは知ったのです
悲しみは思いのほか
甘美なものだということを










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