べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

取るに足りないぼくの人生にもし意味があるとしたら

2022年08月11日 17時34分00秒 | 叙情



若ものには未来があるという。やりたいこと
はなんでもできると、わけ知り顔で大人たち
がいう。でもぼくには未来なんてなかった。
さきのことは霧が立ちこめたようで、なにも
見えやしなかった。想像することすらできな
かった。やりたいことができないどころか、
やりたいことすら思いつかなかった。

ぼくが生まれたひと月あとにきみは生まれた。
きみが生まれるまでのひと月のあいだ、光の
射さないこの世界でぼくは泣き続け、わめき
続けた。きみが生まれてようやく少しは落ち
着きを取りもどしたようだけれど、きみと巡
り逢うまでにさらに十八年の歳月が必要だっ
た。やがてきみはぼくの知らない人と恋をし、
やさしい家庭を築いて、ふたりの子をもつ母
となった。

人はなぜ生きることに意味を求めるのか。生
きることに意味なんてないのに。あなたが生
まれた理由はきっとみつかる、などと薄っぺ
らな言葉を使う人間は信用ならない。若もの
には未来があるといったわけ知り顔の無責任
な大人たちとおなじ。理由なんかなくたって
生きていられる。けれどもし、取るに足りな
いぼくの人生にもなにか意味があるとしたら、
それはきみに出逢えたこと。

だからぼくはさきに死ぬ。きみよりさきに。
きみのいない世界なんて意味がないから。
きみのいない世界に生きてく理由を見いだ
せないから。きみのいない世界でぼくは生
きられない。だからぼくはさきに死ぬ。き
みよりもさきに。きみこそがぼくの生きて
る意味。きみこそがぼくの世界そのもの。
いまは遠いきみこそが。
生まれる前から好きだった。
きみはいまも美しい。



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