少し前に、テレビで久々に宮崎アニメの「紅の豚」が放映されました。
このアニメ、飛行機オタクとしても有名な、宮崎駿氏の作品であるだけあって、飛行機の細かなところまで、実に忠実に
再現されています。
同じく飛行機オタクの私としては、見逃せないアニメなのですが…。
あるシーンに「違和感」を私は覚えたんです!
今夜はそんなお話です…。
…。して、その私が違和感を覚えたシーンがコレ↓
船底にある「水切りステップ」の位置が後ろ過ぎるのです!
「随分細かいな!」そう思われる方も多いと思いますが…。
飛行艇にとって、この水切りステップの位置ってとっても大事!
この位置のわずかなズレで、飛行艇は水から離れられなくなってしまう重要なものなのです!
コレ、どうしてかというと…。
水流の中にスプーンを入れると、スプーンは水に吸い付けられることはよく知られていますよね!
これと同じ原理で、飛行艇に水切りステップがないと、飛行艇が離水しようとしても、下に吸い付けられて、離水するこ
とが出来ないんです!
だから、この水切りステップって重要なのですが…。
更に、この水切りステップ位置が前過ぎた場合…。
水の抵抗の中心位置が、飛行艇の重心位置よりも前になってしまい、離水滑走が不安定になってしまいます。
逆に…。
水切りステップ位置が後ろ過ぎた場合、離水時に機首が上がらず、離水することが困難になります。また、直進安定が強
く出すぎるため、方向の修正も困難になってしまうのです。
つまり…。
水切りステップは、絶妙な位置で設ける必要があり、その位置が、だいたい飛行艇の重心位置のわずかに後ろくらいなの
です!
…。で、先ほどご紹介したシーンをもう一度見てください。
水切りステップが、ちょっと後ろ過ぎに思えませんか?
これに私は違和感を覚えたのです!
でも、この違和感、飛行機オタクの宮崎氏がこんなミスをするものかと、もう一度よ~くよ~く考えてみると、直ぐに納
得することが出来たんです!
考えたら、ポルコロッソの愛機「サボイア」の主翼には「後退角」が持たされているんですよね!
後退角とは、ジェット旅客機の主翼のように、後ろに翼が後退していることを言います。
この後退角のある飛行機は、その風圧中心位置もその後退角に従って、後ろに移動します。
そして、それに伴って、重心位置も後ろに移動してしまうんです!
これで、上のシーンの水切りステップの位置の違和感の謎が解けました!
宮崎氏は、この後退角の分も考えて、ちゃんと水切りステップの位置も、重心位置の移動に従い、後ろに移動させていた
んですね!
…。恐るべし、宮崎駿氏…。
ポルコロッソの愛機サボイアは、劇中では「戦闘艇」ということで紹介されていますが…。
実はこの飛行艇、モデルとなった飛行艇が実在しています。
それがコレ↓
マッキM33という飛行艇です。
確かにポルコロッソの愛機サボイアと似ていますよね!
この飛行艇、当時行われていた、シュナイダーカップと言われる、飛行艇、水上機のスピードを競うために作られたもの
です。
このシュナイダーカップは、多額の賞金が賭けられていたため、多くの人々がこの競技に参加していました。
上のマッキM33は、サボイアのように後退角がありませんが、これにもちゃんとした宮崎氏の思惑が見えてくるんで
す…。
ジェット旅客機の後退角は、音速近くでの抵抗を減らすための物なのですが…。
サボイアの飛行する速度では、まだ音速には遠く及ばないので、これと同じ理由で後退角がもたらされてはいません。
では、一体何のために、サボイアには後退角があるのかというと…。
これは、私の想像なのですが、サボイアはこの映画では、戦闘艇として設計されたことになっています。
戦闘艇にとって重要なことの一つに、「敵機の視認性」があります。
特に、上方から攻撃してくる敵機は危険です!このような敵機は少しでも早く認識する必要があるのですが、このことを
考えて、宮崎氏は戦闘艇のサボイアには、後退角を持たせたのだろうと私は考えています。
主翼に後退角があれば、パイロットの上方視界は一気に改善されます。
実際、第一次大戦に存在した複葉機「タイガーモス」の上翼には、この理由で後退角が持たされています。(タイガーモス
と言えば、同じ宮崎アニメの「天空の城ラピュタ」でも、ドーラ一家が乗る飛行船の名前として登場していますよね!)
つまり、飛行機オタクの宮崎氏は、サボイアを戦闘艇の設定としたがため、リアルさを出すために、その主翼には視認性
を上げるために後退角をどうしてもつけたかったのだと思います。
そして、それに従ってサボイアの重心位置も後ろになってしまうために、私が映画を見て違和感を覚えた、水切りステッ
プの位置が後ろ過ぎることも、実はちゃんと重心位置の移動に合わせた、道理にかなったことだったんですね!
これが分かった時、宮崎氏の知識力、想像力に、私は本当、恐れいってしまいました!
ちなみに、ついでなので、下のことについても解説しておきますが…。
皆さん、サボイアの操縦席の横につけられたこの風車、なんだと思います?
コレ、実は燃料ポンプなんです。
当時はバッテリー重量などが重くなったため、燃料ポンプは電動ではなく、こんなプロペラ駆動のポンプを使っていたん
ですね!
サボイアのエンジン始動時は、まず、プランジャーポンプをシュコシュコっと何度か押して、燃料タンクに空気圧をかけ
て、燃料をエンジンまで導きます。
(紅の豚のシーンでも、エンジンが空中で止まりかけたときに、ポルコロッソが一生懸命何度も押していたポンプがあり
ましたよね!あれがプランジャーポンプです。)
そのあと、イナーシャ―と言われるものを回転させます。
このイナーシャー、慣性始動装置とも言われ、円盤を高速回転させて、一気にエンジンにつなぎ、エンジンを回して始動
させていました。
現在の自動車のセルモーターと同じ役割のものですね!
これもバッテリー云々の重量のために、こんなものを使っていました。
こんなところも、じつに忠実に再現しているところが、まさに宮崎駿氏のスゴさでしょうね!
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相当なこだわりがあるんだろうな。
「風立ちぬ」も、言われる通り、凄くリアルなんですよね!私も堀越二郎の関連書物は一通り読んではいますが、あの映画はとてもリアルなものでした。
ブログ、もうすぐ完全にはてなに引っ越ししますが、これからもよろしくです!!