飛行中年

空を飛ぶことに薪ストーブ、そして、旅をこよなく愛する一人の中年のブログです。

ハンググライダーの進化の歴史 17

2012-08-29 20:54:36 | ハング(hangglider)

今回ご紹介する機体は、イタリア イカロ社の「ラミナール」です。

この機体は今もなお人気機種ではありますが、その歴史は既に15年以上続いているハンググライダー界きってのロングセラー機なのです。

Laminar_r イカロ社は、もともとは「ヨーロッパモイス」としてスタートを切っています。

最初はオーストラリアのモイス社の機体のライセンス生産をしていましたが、そのうち独自の機体を製作するようになりモイスを独立。イカロ社と名前を変えて再スタートを切りました。

そのイカロ社が会社創設まもなく発表した機体がラミナールなのです。

実は、この機体は画期的な設計がなされていたことは、あまり知られていません。

発表と同時に軽いハンドリングと高性能をあわせもつこの機体は大人気となりましたが、この高性能は「新しい設計思想」があったからなのです。

以前のハンググライダーは、ハンドリングを良くしたければ細いスパーを入れ、性能を良くしたければ太いスパーを入れて対応していました。

しかし、前前回ご紹介した「HP-AT」でステップダウンリーディングエッジが実用化されると、翼端のみ細いスパーを使ってハンドリングをだし、中央のスパーは太いスパーを使って性能を出す方法が合理的となり、その後に発表されるグライダーは、ほとんどがこの手法を取り入れるようになりました。

そして、ラミナールは更にこの考えを進化させたのです。

「ハンドリングは翼端に細いスパーが入れば良くなる。ならば中央のスパーの剛性を思いっきり上げてやり、その分最初からセールのカットをゆるくしてビローが出るようにしてやればどうか‥。」

これがラミナールの設計思想でした。

VGがオフの時は、地上では今まで見たことがないくらいセールが緩んでいましたが、ひとたびVGを引くと剛性のある中央のスパーが効いてくれ、今まで以上に翼がピンっと張るグライダーになったのです。

更に、そのままだとねじり下げが今までの機体より少なくなるため、ピッチの安定がなくなってしまいますが、そこで威力を出したのが前回ご紹介した「リブ」だったのです。

リブをつければアンダーサーフェイスの膨らみを押さえることが出来るので、今までよりもピッチ安定が向上します。

ラミナールはこの二つの技術をうまく融合出来たために、今までにない乗り易くて高性能な機体を作ることが出来たのです。

現在のハンググライダーの基本形と言っても良いくらいの名機だと思います。

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安全設計とは?

2012-08-21 20:32:11 | ハーネス(HG harness)

先日、某エリアにて弊社ハーネスを使用していた方が、ランディング時ドラッグシュートを取だしベースバーを持ったところ、たまたまドラッグシュートがベースバーの前を通って開傘してしまうというアクシデントが発生しました。

機体はそのままタッキング直前の姿勢となったあと、フラットスピンに入りましたが、そのスピンが収まった後ダイブに入りました。

この時、大きな風圧でドラッグシュートのブライダルラインが切れてくれたのです!

ドラッグシュートが無くなった機体はそのまま回復。

無事ランディングできました。

実は弊社ハーネスは、最悪の状況に陥った時、いくつか安全な方に事態が転ぶ工夫をしています。

今回のドラッグシュートの件は、念のために通常より十倍を超える荷重がかかった場合、切れやすくなる品質のものを使っていました。

また、他にもトーイングタグの強度も、異常な荷重がかかった場合、破断するようにしています。

これはトーイング死亡事故の大半を占める「ロックアウト現象」に入った時に、ヒューズが効かなかった時の最後の手段として考えたものです。

その他、バックプレートもあえてグラスファイバーを使うことにより、瞬間的な荷重をグラスファイバーの弾力で吸収出来るようになっています。

このような考え方は、私が若いころ学んだ航空機の設計の仕方を生かしたもので、航空機はトラブルが発生しても、安全側に転ぶように設計することが「常識」となっています。

今回のアクシデントは、それがうまく効いてくれて、大きな事故を防ぐのに役にたったようです。

たとえ小さな部品でも、それをじっくり考え抜いて作ることにより、大きな事故を防ぐことが出来る‥。

これはものを作る人間として、肝に銘じておかなければいけないことだと思います。

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ハンググライダーの進化の歴史 16

2012-08-06 21:48:28 | ハング(hangglider)

今回ご紹介するグライダーは、15年ほど前にアメリカのウイルスウイングが開発した「ラムエアー」という機体です。

Ramair 最初に言ってしまいますが、これはウイルスウイングが唯一出したといっていい、偉大なる「失敗作」のグライダーです。

なぜ失敗作のグライダーを取り上げるのか‥。疑問に思う方が多いと思いますが、実はこのラムエアーで開発されたある技術が、結果的にのちのグライダーに大きな影響を与え、そして、今のキングポストレスの機体の安全性と性能向上に大いに役にたったのです。

そのお話をする前に、まずはラムエアーがどんな機体だったかご紹介しておきましょう。

ラムエアー。変わった名前ですが、実はこの機体はこの名前通りのコンセプトを持った機体なのです。

ハンググライダーの翼断面(翼型)は、基本的にはいつの変わりません。

しかし、翼断面が変わらない場合、高速では抗力が大きくなり性能が出ません。

ラムエアーは、前からくる風のラム圧、つまり、ラムエアーで翼の下面を膨らませて高速で効率の良い翼断面を作り性能を上げる機体だったのです。

しかし、ここで問題が発生してしまいます。

以前この連載で「マライヤ」とう機体が、初めてのダブルサーフェイス機で、アンダーバテンがなかったために下面が膨らみタッキングに入る事故が続出したとご紹介しました。

ラムエアーでは故意に下面を膨らませるわけですから、当然「危険」になったしまうため、適度に性能向上に結び付くように、下面のダブルサーフェイスの膨らみを「制御」してやる技術が必要になったのです。

その新しい技術の回答として考えられたのが、「リブ」だったのです。

翼の中で上面と下面をつないでるアレです。

ラムエアーでは下面を故意に膨らませるため、固いアンバーバテンは使えなかったのです。

しかし、下面が膨らみすぎると危険に陥るため、ある程度下面が膨らんだところで止まるようにリブが考えられたのです。

ウイルスウイングが考えたこのアイデアは、機体の高速性能向上に見事につながりました‥が‥。

実は、VGを中途半端に引いたところで所定のピッチの安定性が不足していることが分かり、大改修となってしまいました。

そして、それが悪評を生み、ラムエアーは全く売れなくなってしまったのです。

ラムエアーそのものは商業的には失敗作に終わってしまいましたが、しかし、ラムエアーの開発段階で発明された「リブ」は、通常のグライダーにとってもとても有益なものだったのです。

リブを翼端を中心に多く配置すると、ピッチ安定が向上し、その分ねじりが下が少なくて済むことが分かったため、更に性能の高いグライダーが作れるようになったのです。

そして現在、リブの無いダブルサーフェイスは皆無と言っていいくらい、この技術は定着しました。

「怪我の功名」ではありませんが、ラムエアーでリブという新しい技術を開発していなければ、今のキングポストレスの高性能は存在しなかったでしょう。

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