寅年最初の救急当直は、3日前、9日の土曜日でした。
たしか最初に駆け込んできたのは、パニック障害の中年女性。
次が、三日ほど前に右の人差し指をドアで詰めた中1男子だったか。
で、その次が、結構重い金物が頭に当った6歳男児。
そのあと、症候性てんかんの救急搬入を入院させたんだった。
その次は・・・?
0時前にも、何かを診てたはずなんだけど、思い出せないなぁ。
あれやこれやしながらも、朝9時には、日曜の日直の先生と交代となる。
この少し前の時間帯
すなわち、休日の病院の朝9時前という時間帯 が、
非常に微妙な時間帯であるということ は
ご存知だろうか?
理由は、至極、単純です。
交代の時間だから なんです。
こんなことを聞かされたら
「ざけんなよッ!てめえ!
それでも、命を預かる医者か!!」
って、頭から湯気をたてて、興奮されますか?
もちろん、そんな反応されても当然かなと思うんですけど、
実は、命を預かる事になるかも知れないからこそ、言うんです。
それは忘れもしない、1月10日の午前8時27分のこと。
一昨日から風邪みたいという方を8時過ぎに診たあと、
医局に戻って、朝の検食のロールパンと牛乳を食べていたときだった。
「救急隊からです。
▽▽町からで、56歳の女性、8時頃から意識が無くなって、
今、レベル200です。
瞳孔は左右差ないけど、右側の反射は鈍いそうです。
既往歴では、心房細動と弁膜症で○△病院に通院中と。」
「その○△病院、無理なんか?」
「はい、断られたと。」
「完璧に脳外やろ、□□病院はあかんの?」
「□□は、今、脳外が手術中で断られて、
▽▽町からなんで、時間はかかるんですが、
うちで受けてくれと、救急隊が言うてます。」
少々、説明しましょう。
意識レベルが200というのは、
痛み刺激を加えても、少し手足をピクリとさせるだけで開眼しない状態。
既往歴に心房細動とか弁膜症とあるから、
この状態は、ほぼ100%脳塞栓による脳梗塞である。
つまり、心臓から血栓が飛んで、脳の血管に流れていって詰まったもの。
発症から3時間以内ならば、t-PA療法といって、
血栓を溶かす薬を投与することで血流の再開が期待できる。
が、その適応などは、専門医による判断が必須である。
もちろん、その治療の前にはCTかMRIなどの検査が必要だし、
病院への到着は、発症から2時間以内が望ましい。
さて、
救急隊が、この病院で受け入れてくれと言うのには理由がありました。
10日の日直が、脳外の先生であると知っていたからです。
彼らは、各病院の日直・当直が何科の医者かの予定が知らされていますから。
しかも、この事案の発生時間。
救急隊からの連絡が入ったのが、8時27分です。
▽▽町からは、およそ30分で到着できるはず。
ちょうど、日直の脳外の先生が到着するのと同じくらいだ。
万事、めでたし、めでたし。
あとは、「よっしゃ、受け入れてあげて」と言えば、それでおしまい。
が、ここで重要なことに気がついた。
ほんとうに今日の日直は、脳外の先生に間違いないのか?
休日の日直・当直は、大学から来てもらっている。
何かの都合で、外科と替わっていることもある。
もしそんなことになれば、患者は適切な治療のチャンスを失ってしまう。
慎重に対応しなければ、それこそ、おしまいなのだ。
「今日は、ほんまに脳外の先生が来るんか?
間違いなかったら、受けてもええけどな。
あるいは、脳外の常勤の先生が来てくれるんなら。
でないと、絶対にまずいわ。
脳塞栓と判っていて、治療に取り掛かれんのは
どう考えても、まずい話やで。」
救急隊には、確実に対応可能な病院への搬送が求められることとなった。
しかし、なんとも言えないモヤモヤ感が、胸につかえたまま。
8時57分、医局のドアが開いて現れたのは、脳外の先生。
あぁ、受け入れておいたらよかったのか!!!
助けを求めて差し出された手を、
素気無く振り払い、見捨ててしまったのか・・・
胸につかえていたモヤモヤ感は、
硬い自己嫌悪の塊りとなって、腹の底に沈んで行ったのでした。
こんなときは、どうするべきだったのか・・・・・。
ゴマ塩頭の、いかにもお医者様らしい脳外科の先生に訊ねてみた。
「かくかく、しかじか・・・・・
受け入れてCTなど検査していたらよかったですか?」
「いやぁ、それは、大正解!」
一瞬、我が耳を疑ったのだが、たしかに先生はそう仰ったのだった。
しかも、パンパンパンと3拍の拍手までして。
脳外科のその先生が仰ったのは、次のようなことでした。
ここでもt-PAは置いているけれど、その症例は難しいかも。
t-PA療法を行うとしても、私は、ここではやらない。
オペのバックアップもできる所でないと、難しい。
今、きちんと対応できる所に送ったのは、大正解だった。
これを聞いたとたん、眼が潤んだと言うのは、まずいだろうか?
腹に沈んだ塊りを、両眼から蒸発させてしまうためには
瞼を幾度もパチパチさせねばならなかった。
交代の時間帯、それは命懸けの時間帯でもあるのです。
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