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救急当直の夜は更けつつ

2010-01-13 02:40:33 | ひとりごと 医療系

寅年最初の救急当直は、3日前、9日の土曜日でした。


たしか最初に駆け込んできたのは、パニック障害の中年女性。


次が、三日ほど前に右の人差し指をドアで詰めた中1男子だったか。


で、その次が、結構重い金物が頭に当った6歳男児。



そのあと、症候性てんかんの救急搬入を入院させたんだった。


その次は・・・?


0時前にも、何かを診てたはずなんだけど、思い出せないなぁ。




あれやこれやしながらも、朝9時には、日曜の日直の先生と交代となる。



この少し前の時間帯


すなわち、休日の病院の朝9時前という時間帯 が、


       非常に微妙な時間帯であるということ


       ご存知だろうか?



理由は、至極、単純です。


       交代の時間だから なんです。



 
こんなことを聞かされたら


 「ざけんなよッ!てめえ!

     それでも、命を預かる医者か!!」



って、頭から湯気をたてて、興奮されますか?


もちろん、そんな反応されても当然かなと思うんですけど、


実は、命を預かる事になるかも知れないからこそ、言うんです。




それは忘れもしない、1月10日の午前8時27分のこと。


一昨日から風邪みたいという方を8時過ぎに診たあと、

医局に戻って、朝の検食のロールパンと牛乳を食べていたときだった。




 「救急隊からです。

  ▽▽町からで、56歳の女性、8時頃から意識が無くなって、

  今、レベル200です。

  瞳孔は左右差ないけど、右側の反射は鈍いそうです。

  既往歴では、心房細動と弁膜症で○△病院に通院中と。」



   「その○△病院、無理なんか?」


 「はい、断られたと。」



   「完璧に脳外やろ、□□病院はあかんの?」



 「□□は、今、脳外が手術中で断られて、

  ▽▽町からなんで、時間はかかるんですが、

  うちで受けてくれと、救急隊が言うてます。」




少々、説明しましょう。


意識レベルが200というのは、

痛み刺激を加えても、少し手足をピクリとさせるだけで開眼しない状態。


既往歴に心房細動とか弁膜症とあるから、

この状態は、ほぼ100%脳塞栓による脳梗塞である。

つまり、心臓から血栓が飛んで、脳の血管に流れていって詰まったもの。



発症から3時間以内ならば、t-PA療法といって、

血栓を溶かす薬を投与することで血流の再開が期待できる。

が、その適応などは、専門医による判断が必須である。



もちろん、その治療の前にはCTかMRIなどの検査が必要だし、

病院への到着は、発症から2時間以内が望ましい。



さて、

救急隊が、この病院で受け入れてくれと言うのには理由がありました。


10日の日直が、脳外の先生であると知っていたからです。


彼らは、各病院の日直・当直が何科の医者かの予定が知らされていますから。



しかも、この事案の発生時間。


救急隊からの連絡が入ったのが、8時27分です。


▽▽町からは、およそ30分で到着できるはず。



ちょうど、日直の脳外の先生が到着するのと同じくらいだ。


万事、めでたし、めでたし。


あとは、「よっしゃ、受け入れてあげて」と言えば、それでおしまい。



が、ここで重要なことに気がついた。


 ほんとうに今日の日直は、脳外の先生に間違いないのか?

 
 休日の日直・当直は、大学から来てもらっている。


 何かの都合で、外科と替わっていることもある。


もしそんなことになれば、患者は適切な治療のチャンスを失ってしまう。



慎重に対応しなければ、それこそ、おしまいなのだ。



  「今日は、ほんまに脳外の先生が来るんか?

   間違いなかったら、受けてもええけどな。

   あるいは、脳外の常勤の先生が来てくれるんなら。

   でないと、絶対にまずいわ。

   脳塞栓と判っていて、治療に取り掛かれんのは

   どう考えても、まずい話やで。」



救急隊には、確実に対応可能な病院への搬送が求められることとなった。




しかし、なんとも言えないモヤモヤ感が、胸につかえたまま。



8時57分、医局のドアが開いて現れたのは、脳外の先生。
   


 あぁ、受け入れておいたらよかったのか!!!

 助けを求めて差し出された手を、

 素気無く振り払い、見捨ててしまったのか・・・





胸につかえていたモヤモヤ感は、

硬い自己嫌悪の塊りとなって、腹の底に沈んで行ったのでした。



こんなときは、どうするべきだったのか・・・・・。



ゴマ塩頭の、いかにもお医者様らしい脳外科の先生に訊ねてみた。



  「かくかく、しかじか・・・・・

   受け入れてCTなど検査していたらよかったですか?」




「いやぁ、それは、大正解!」


一瞬、我が耳を疑ったのだが、たしかに先生はそう仰ったのだった。


しかも、パンパンパンと3拍の拍手までして。



脳外科のその先生が仰ったのは、次のようなことでした。


 
ここでもt-PAは置いているけれど、その症例は難しいかも。


t-PA療法を行うとしても、私は、ここではやらない。


オペのバックアップもできる所でないと、難しい。


今、きちんと対応できる所に送ったのは、大正解だった。




これを聞いたとたん、眼が潤んだと言うのは、まずいだろうか?


腹に沈んだ塊りを、両眼から蒸発させてしまうためには

瞼を幾度もパチパチさせねばならなかった。



交代の時間帯、それは命懸けの時間帯でもあるのです。




 関連記事:新年最初の救急当直(2008)


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