脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

重い1敗 -全社予選vsセントラルSC-

2011年07月26日 | 脚で語る奈良クラブ
 23日、24日に今季の第47回全国社会人サッカー選手権大会関西大会が開幕。1回戦、代表決定戦を勝ち抜けば10月に岐阜で行われる本大会に出場できる。全国レベルを窺い知るには絶好の大会で、優勝及び準優勝チームには全国地域リーグ決勝大会に進出できる権利が与えられる大きな大会だ。奈良クラブは、兵庫県1部リーグのセントラルSCと対戦。相手は2つも下のカテゴリーにも関わらず、奈良クラブは覇気なく1-2と敗戦。2季連続で1回戦で姿を消すことになった。

 

 試合終了後に、1人のサッカー関係者と思われる年配の方がこう言い残して競技場を去って行った。
 「甘く見とったな。」

 今季、公式戦と練習試合を含めて奈良クラブが敗戦を喫したチームは4月に練習試合を行ったJ1のガンバ大阪のみ。リーグ戦では11試合を無敗で突き進み、11節終了時点でリーグ最多得点、最少失点。これほど隙のないシーズンを過ごしていても負ける時は負けるのがサッカーの怖いところ。そんなサッカーという競技特有の不確定要素の落とし穴をこれでもかと実感させてくれた試合だった。「油断」「慢心」「怠慢」・・・冒頭の言葉に凝縮されたいくつものキーワードがその落とし穴への誘いとしては十分なもの。この1敗のなんと重いことか。1週間前の同じ時間にはアインを5-1と完膚なきまでに叩きのめす強者のサッカーを誇示しておきながら、この試合ではなんとも覇気の感じられぬ内容だった。しかしながら、1日置いて冷静に考えれば、今季間違いなく最もワーストゲームであり、かつ価値のあった試合なのかもしれない。その「価値」というのはもちろん奈良クラブにだけ見出したものではない。「敵ながらあっぱれ」と形容するしかないセントラルSCの戦いぶりも見せてもらったことも含めてである。ここから更に一皮剥けるためにも彼らの戦いぶりは多くの指標を示してくれたのではないだろうか。

 奈良クラブは、6月に加入した星野がGKとして入団後初先発。また右サイドにも黒田ではなく浜岡が今季初先発、加えて谷山が久々の先発と、多少のメンバー変更はありながらもほぼ不動の布陣。個人的にはもっとメンバーを変えてくるかとも思ったが、今後を考えても星野の経験値を積ませるためには絶好の機会だっただろう。ある程度ベターな顔ぶれではあったと思う。
 しかし、これが蓋を開けると、なんともミスが多く怠慢な内容。パスミス、球際の粘り弱さ、大事なところでの軽いプレー、枠を捉えぬシュートと、どうにもこうにも入り方としては明らかに悪く、元気もない。ただそれでも今季ここまでの戦いぶりを見ていると「負ける」という予感にまでは到達せず、苦戦は必至という前半を終えての感触だった。
 ただ、今季ここまでリーグで11得点と攻撃を牽引してくれている牧が前半でベンチに退く。ここで蜂須賀が投入されるが、こうしたシチュエーション自体が初めてで多少なりとも違和感はあった。リーグでは基本的にはスコアが動いてから選手交代の一手を投じるのがここまでの公式戦の流れ。牧がコンディションに不調を訴えたのであれば納得がいくが、ここでの交代策は未知数で幾分かの不安はあったと回顧できる。それでも「後半に強い」というチームのスタイルがその不安感を相殺してくれていた。

 

 ところがである。後半、押せども押せどもゴールに辿り着けない。それどころか人数をかけてまずはしっかり守り切り、前線に残った1人に確実にボールを送って一気にラインを上げて攻勢に転じるというセントラルSCの形を時折出されるようになってきた。52分(40分ハーフ)、まさにそんな展開で先制点を献上してしまう。1点のビハインドであればまだしも、63分にも同じような形で2点目をやられてしまった。チームが前がかりになっている際にいとも簡単にDFラインの裏のスペースを突かれるというのは関西リーグ昇格初年度を思い出させてくれる。0-2というビハインドが今季の公式戦では初めてだった。
 その後、途中出場の矢部の捌きで幾分かボールがスペースに出せるようになり、辻村剛の得点で1点を返すが、矢部のFKがポストを叩くなど運をも味方に呼び込むことはできず、試合終了まではセントラルSCの決死の守備の前にいよいよ同点にすることはできなかった。
 非常に印象的な場面があった。試合終了直前にGK星野が相手FWとの1対1をラフプレー(これは1発退場でもおかしくなかった)で止めた際に、両チームの選手がこじれる場面があったが、セントラルSCのGKが「そんなに勝ちたかったら、お前ら最初からやれよ!」と叫んだ。まさにその通りである。試合終了間際になっての1点を追いかけるバタバタぶりは、今季ここまで見せてきたどの試合よりも情けない混乱であり、そう考えると、相手GKの言葉通り、前半を0-0で折り返したことに尽きるのではないだろうか。前半からしっかりいつも通りのサッカーができていれば…

 セントラルSCは現在、兵庫県リーグ10試合(7/24現在)を終えて6勝1分3敗で4位という戦績であるが、かつてから関西府県リーグ決勝大会でも常連の強豪チーム。初見だったが、しっかり一発勝負の戦い方を完遂していたという戦いぶりだった。無理をせず、人数をかけて守り、ほとんど数的不利な場面を作らなかった。それに加えて、おそらく前半40分間はしっかり体力温存に務めていた感がある。おそらくチャンスはそれほど作れないと考えていたか、前線の選手は非常に集中していた。また、GKもコーチングの声を絶やさず、守備陣は人柱の如くシュートを体で弾き続けた。歯を食いしばってボールを追いかけたのは間違いなく彼らセントラルSCだった。スピリットに富み、忘れられないチームになった。是非とも全国の舞台へと勝ち進んで、貴重な経験を得て欲しい。

 この敗戦は謙虚に真っ直ぐ受け止めるべきだ。まるで頭を土突かれたような衝撃こそあったが、昨季と同じ轍を踏んだと比較するよりも、一発勝負と慢心が招くサッカーの怖さを改めて反芻すべきだ。正直、地域リーグ決勝大会出場に王手をかけているだけに、是が非でも全国レベルの舞台を経験しておきたかった。その意味では、今季初のこの敗戦はチームの行方を左右する重い重い1敗だ。次の公式戦は来月14日の天皇杯奈良県予選まで待たなければいけない。昨季は天皇杯こそ奈良県代表として出場できたものの、明らかに夏を境にチームは下降した。今季は練習環境も格段に良くなり、指導を仰ぐ監督の存在もある。ここからはエクスキューズは効かない。前を、上を目指していくしかない。この敗戦に価値を見出すか否か、これからの戦いが全てだ。


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2 コメント

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まさに (王寺サポ)
2011-07-26 21:46:35
サッカーは人間がしてる競技だと実感する試合でしたね、メンタルが如何に大きいか・・。全国を経験する機会を失ったのは決勝大会に向けて痛いですが、いいお灸になることを期待したいです!
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Unknown (yoshi:D5)
2011-07-26 22:04:43
>王寺サポさん

コメントありがとうございます。

いいお灸になるといいですね。
チームの選手の多くが変わって、いつかこの機会は必要だったと思います。
このタイミングでこのような敗戦を喫することになるとは思いませんでしたが、逆に言えばこのタイミングでしかなかったのかなとも思います。
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