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脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

マッチデイ1を終えて ~EURO2008~

2008年06月11日 | 脚で語る欧州・海外
グループA
<●スイス 0-1 チェコ○>
<○ポルトガル 2-0 トルコ●>

 「次は、もう少し勇気を持ってプレーしなければならない」とチェコのブリュックナー監督はこう答えた。確かにそのコメント通り、チェコのペースで試合が進んだ訳ではなく、スイスが試合の主導権を握った。しかし、主将でチームを牽引するフレイが前半で負傷退場。後半は、ハカン・ヤキンを投入してリズムを作るも、わずかのワンチャンスをチェコのスビエルコシュにやられる結果となった。80分のフォルランテンのシュートがバーに嫌われ、終了間際にはウィファルシのハンドが取られないなどスイスは終始ペースを握りながら、とことんツキに見放されたと言えるだろう。
 ポルトガルは盤石の勝利。移籍騒動にまみれるC・ロナウドにも一切動揺はなく、29分に“らしさ”を見せたドリブルからのシュート、36分にはFKがゴールを強襲するなどゴールの雰囲気も漂わした。トルコは屈指のチームワークを誇るそのポルトガルの前に何もできず。61分にポルトガルは、CBペペがFW顔負けの攻め上がりからヌーノ・ゴメスとのワンツーで先制点を叩き込むと、終了間際にはモウチーニョの鮮やかなターンからラウール・メイレレスが追加点を奪い、今大会での爆発を感じさせてくれる快勝劇を演じた。
 チーム完成度を見る限り、このグループAはポルトガルが他の追随を許さないだろう。対抗馬となるチェコは、ロシツキの不在で、これまでと違った守備的なチームになっている。

グループB
<●オーストリア 0-1 クロアチア○>
<○ドイツ 2-0 ポーランド●>

 51,000人が詰め駆けた“完全アウェイ”エルンスト・ハッペル・シュタディオンでは、前半4分のモドリッチのPKが全てを分けた。後半のオーストリアの猛反撃を考えると、クロアチアは、巧みに“勝つゲーム”を遂行できたと言える。オーストリアの3バックに対応してスルナを試合中に前線へとシフト。決定的な2点目を奪っていればもっと展開は違っただろうが、負けたオーストリアも十分彼らの色が出ていたのではないだろうか。
 優勝候補の呼び声高いドイツは、ポドルスキが左MFにコンバートされ、期待に応える2得点。やはりドイツはミスが少なく、クローゼとゴメツ、そして前述のポドルスキが左MFながら、ほぼ前線で並んでプレーしていたのが快勝劇の要因となる。ポーランドは序盤のチャンスを生かしたかった。
 ドイツとクロアチアかと思えるこのグループも何かが起こる可能性はある。特にクロアチアはオーストリアに圧勝した訳ではなく、追加点を奪えなかったあたりが気になるところか。豊富な運動量を見せたFWオリッチ、両サイドMFのクラニチャル、スルナがキーマンとなってくるだろう。

グループC
<△ルーマニア 0-0 フランス△>
<○オランダ 3-0 イタリア●>

 ルーマニアはフランス相手に良く粘った。ただ、それ以上にフランスの前線が迫力に欠け、アンリ不在の今、アネルカとベンゼマの両FW頼みの布陣は機能していたとは言い難い。ルーマニアは守備面での結果は顕著だったが、こちらも攻撃陣が沈黙。やはり誰が点を取るべきなのかがはっきりしていなかった。しかし、EUROも含め、これまで多くの戴冠を経験してきたフランス国民にとっては、限りなく“負け”に近い引き分け劇だったのかもしれない。とにかくフランスの迫力不足は証明された。
 オランダとイタリアの対戦は非常にエキサイティングな結果をもたらすこととなった。ファン・ニステルローイの1トップの後方で攻撃を彩ったカイト、ファン・デル・ファールト、スナイデルの3人。イタリアはほぼこの3人にやられたと言っても過言ではない。31分の鮮やかなカウンターからのスナイデルのボレーシュートは鮮やかで、マッチデイ1ベストゴールだろう。イタリアは後半反撃に出たが、ミスが多く、トニが決定的なシーンを外すなどブレーキ。ピルロのFkも惜しくも決まらない。そして、ことごとく突破された守備陣は確実にカンナバロの不在をダメージとしてピッチ上の結果にもたらしたのである。
 オランダが面白く、フランスが面白くない。そんな構図がはっきりと浮き出てしまった初戦となった。イタリアもこの初戦のダメージをどう挽回できるか、もはや“カテナチオ”は今大会ではアテにならなくなった。守備面を著しく重視し、デ・ロッシを出さないドナドーニ監督の消極的な采配が非常に気になった。

グループD
<○スペイン 4-1 ロシア●>
<●ギリシャ 0-2 スウェーデン○>

 遂に“無敵艦隊”が航海に出たか。圧倒的な中盤の構成力と、前線の決定力がコネクトし、スペインが改めて今大会の有力な優勝候補ということを再認識できた圧勝劇。激しい雨の中ビジャがハットトリック。これまでのF・トーレス1トップという布陣を覆し、この2人の良さが 見事に融合した。後半にセスクを途中投入するなどイニエスタ、シャビ・アロンソを軸とする中盤の充実度は本物。ロシアはポゼッションではスペインを上回ったものの、攻撃に鋭さが見られず、エースFWアルシャビンの欠場が如実に現れる大敗となった。
 ギリシャとスウェーデンのマッチアップも、ギリシャが試合の主導権を握っていたが、67分に、久々に国際試合の舞台でエースFWイブラヒモビッチがゴールを豪快に叩き込む。これで一気に流れがスウェーデンに傾いた試合は、わずか5分後にハンソンがゴール前で相手3人に囲まれながらも強引に押し込み、追加点。やはり眠け眼が一気に目覚めたイブラヒモビッチの1発が大きかった。ギリシャも決して悪い展開ではなかったが、攻撃陣の活性化を考えると、左MFとしてアマナティディスの投入はもう少し早くても良かったかもしれない。
 勢いで完全にスペイン、スウェーデンが堅い。しかし、ギリシャも決して連覇を諦めた訳ではない。少しロシアは苦しさを露呈したが、そこを名将ヒディンクがどう建て直してくるかにも注目が集まる。

 さぁ、もうまもなくマッチデイ2の幕が開く。

前回覇者ギリシャ、何かを起こせるか? ~EURO 2008~

2008年06月07日 | 脚で語る欧州・海外
 これまで3日間、トピックスも交えてEURO2008の“脚と角的プレビュー”、つまりは巷でなかなか話題に上らないチームにスポットを当ててプレビューを行ってきたが、遂に日付が変わった今日そのEURO本大会が開幕する。4日目の今日はグループD。前回優勝のギリシャが今大会はその攻撃力に磨きがかかっているようだ。ここで重要なのは“サッカー”ほど“非”予定調和なスポーツはないということ。前評判に囚われなければ、もちろん前回優勝国のギリシャもチャンスは大いにある。
 
 前日書いたルーマニアと同じく、ギリシャも特筆すべきは予選の好成績。モルドバ、ノルウェー、ボスニア・ヘルツェコビナ、トルコ、マルタ、ハンガリーと戦った予選では、10勝1分1敗で切り抜けている。12試合で7試合が完封での勝利とあって、自慢の堅守は健在だ。しかし、それ以上に期待が持てるのは攻撃陣。昨季のブンデスリーガ得点王のケガス(レバークーゼン)を中心とした攻撃陣は前回大会のそれを遙かに上回る。前回大会、ドイツW杯予選とこれまで定番となっている両ウイングを軸にセンターフォワードを1トップ置く配置はレーハーゲル政権の生命線。前述のケガスがその中心で、フランクフルトでプレーするアマナティディス、そして前回大会の活躍でブレイクしたハリステアス(ニュルンベルク)が両翼を務める。左サイドには、現在はサブに甘んじることが多いが、ベテラン選手で長く代表チームを支えるヤンナコプロスも健在だ。他の欧州列強各国と比べると見劣りする感は否めないが、それでも優勝した4年前よりかは期待がかけられている。

 欧州主要リーグでの各々の活躍がその期待の源流であるのは間違いないが、個人的にも期待したい選手がギリシャにはいる。「パルテノンの核弾頭」ことゲオルギオス・サマラスだ。中村俊輔と共にセルティックで戦う彼は、今季スコットランドで16試合5得点。マンチェスター・シティから冬に移籍したが、それまでは5試合に出場するのみと燻っていたシーズン序盤をレンタル移籍による環境の変化で盛り返した。例年のごとくレンジャーズと優勝を争った今季のスコティッシュプレミアリーグ36節、マザーウェル戦で値千金の決勝点を奪った活躍は記憶に新しい。192cmとハリステアスを上回るその背丈は、ギリシャのチャンスを確実に作る。06年から始まった予選の序盤戦はスタメンを確約されていた感があったものの、次第にサブに回ることが多くなったサマラス。予選での貢献度は数字では見えてこないが、ベテラン化が進む前線の中でも武器となるその若さに期待がかかる。そういえば、前回大会でブレイクしたハリステアスが当時24歳であったことを考えると、現在23歳のサマラスにも十分ヒーローになれるチャンスはある。

 4年前はその貢献度からMVP級の評価を受けたベテランCBデラスをはじめ、守護神ニコポリディス、セイタリディス、主将パシナス、カツラニスと4年前の歓喜を知る経験者たちが未だにピッチ上で存在感を見せるギリシャ。前回優勝がフロックであったと言われないためにも、今大会はサモラスを代表する若手とそのベテラン勢の融合もカギを握るが、何より4年前より攻撃的なチームにシフトできたという面でも、ギリシャの優勝が決して0%ではないと思ってしまうひねくれ者は私だけだろうか。

 そんな訳で非常にひねくれた屈折プレビューを開幕前に書かせて頂いた。列強各国だけでなく、スイスやオーストリア、ルーマニアにギリシャといったこれらのチームが健闘を見せなければやはりEUROは面白くない。欧州チームへの憧れ、自国に対する愛国心やナショナリズムを持ち寄る必要もなく、“他人事”としてたっぷりハイビジョン放送で日本国内でも楽しめるEURO。Jリーグは中断期間、そして日本代表があくせくしてアジア予選を戦っている中で、要らぬ心配も無く俯瞰して観られるこのEUROこそ4年に一度、日本人の初夏の清涼剤となっている。
 各国の健闘と、繰り広げられる全ての試合に熱いドラマを期待したい。

地道な進化を遂げたダークホース ~EURO 2008~

2008年06月06日 | 脚で語る欧州・海外
 今大会のEUROにおいて“死のグループ”と言われて余りあるCグループ。イタリア、フランス、オランダ、ルーマニアが同居するこのグループは、誰がどう見たって面白い展開が予想できるに違いない。2006年ドイツW杯王者のイタリア、98年フランスW杯、2000年EURO王者のフランス、1988年にミケルス率いる最強軍団で欧州の頂点を極めたオランダと、世界中のサッカーファンにとっては、涎が出るほど魅力的なチームが揃い、華やかさは他のグループの追随を許さない。しかし、自身の願望も含めて言わせてもらえば、このグループの最大の見所はルーマニアの戦いぶりだ。

 確かに苦しいグループには入った。クジ運を嘆くのはもう遅い。しかし、9勝2分1敗、26得点に7失点というEURO予選の数字だけ見れば、それはオランダ、フランス、イタリアよりも好成績だ。しかも予選から相まみえることとなったオランダには1勝1分と2戦とも負けていない。ブルガリア、アルバニア、ベラルーシ、オランダ、ルクセンブルク、スロベニアが相手と決して楽ではないこの予選を首位で勝ち抜けたのは、エースのアドリアン・ムトゥの活躍も然ることながら、やはり指揮官であるヴィクトル・ピトゥルカの努力が実を結んだと言えるだろう。

 ルーマニアが、かつて1994年のアメリカW杯でベスト8の大躍進を遂げたのは、今でも記憶に鮮明に残っているが、その時の国民的英雄ゲオルゲ・ハジはもちろんもうチームにいない。しかし、最もルーマニアが世界の舞台でその輝きを放ったのは、2000年のEURO本大会だろう。イングランドとドイツの低調ぶりにも助けられたが、この時のルーマニア代表はハジやポペスクといったベテラン勢と現在の代表を牽引するムトゥ、キヴ、コントラといった当時の若手選手が完全に融合した。オランダはアーネムにあるヘルレドーム・スタディオンで迎えた初戦ドイツ戦をモルドバンの開始5分のゴールを守りきり、1-0で勝利を収めたルーマニアは、次のポルトガル戦を0-1と惜敗するも、絶対勝利が条件である2位争いのイングランド戦で劇的な勝利を収め、国民を熱狂させた。この試合、ハジを累積警告で欠くルーマニアは、23分にキヴが左サイドのクロスをそのまま沈めるゴールで先制するも、シアラーにPKを決められた直後の前半ロスタイム、オーウェンにゴールを許し1-2で前半を折り返す。誰もが前半の時点でハジのいないルーマニアの敗北を予想したに違いない。しかし、後半開始早々の48分にドリネル・ムンテアヌが同点弾を奪う。拮抗した試合は劇的な展開を迎える。後半終了間際にルーマニアが起死回生のPKを奪取。これをガネアが落ち着いて決め、下馬評を見事に覆して、この試合引き分けでも決勝トーナメントに進出できたイングランドをねじ伏せたのだった。この結果、準々決勝に駒を進めたルーマニアだったが、その後イタリアに0-2と完敗、ベスト8に終わったものの、90年代のW杯において3大会連続で決勝トーナメントに駒を進めた勢いそのままにルーマニア代表はこれから全盛期を迎えるかと思われた。
 ところが、2001年にハジが現役を引退すると、それと時を同じくして代表チームの輝きは失われた。02年日韓W杯、04年のEURO、06年ドイツW杯と共に予選敗退。国際大会の舞台からルーマニアは姿を消す。それから今日まで、躍進を遂げるには8年の歳月を要したのである。

 現在のピトゥルカ監督は、その不遇の時期を立て直そうと地道な努力を積み重ねた。彼が現在の代表をEURO本大会に導くのは2度目。1度目は前述した2000年大会だったもののハジとの衝突で本大会前に更迭されている。いつもそこには国民的英雄だったハジの残像があった。その残像に苦しんだルーマニアをピトゥルカは一つにしたのである。先日発売されたNumber PLUS6月号にその詳細は書かれているので割愛するが、現在のルーマニア代表はようやく90年代を風靡した“国民的英雄”の幻から解き放たれたのだ。前回の雪辱、そして2000年大会の再現を狙って、彼らは躍動するに違いない。そんな彼らの躍進があったとすれば、この“死のグループ”はもっと面白くになるに違いないのだが。予選の数字は果たして本大会に如実に反映されるだろうか。

列強との実力差が生むホスト国の苦悩 ~EURO2008~

2008年06月05日 | 脚で語る欧州・海外

 今年のEURO2008、決勝の地となるのがオーストリアの首都ウィーンにあるエルンスト・ハッペル・シュタディオンだ。プラター・シュタディオンという名前で1931年に建設されたこの5万人収容のスタジアムは、1992年にオーストリアの偉大な代表選手であったエルンスト・ハッペルの名に改名された。UEFA公認の5つ星スタジアムでもあるこの場所は、これまでに64年、87年、90年、95年と欧州クラブのナンバーワンを決めるファイナルの地として選ばれている。果たしてこの地で6月29日にはどの代表チームが相まみえることになるのだろうか。開幕前の現在の時点でこれだけは言えるのではなかろうか。そう、間違いなく地元のオーストリアではないという声はいとも簡単にこの耳に入ってくるのだ。

 今年の3月26日。オーストリア国民がこのスタジアムで目にした光景は“屈辱”以外の何ものでもなかったであろう。EURO本大会まで3カ月を切ったこの日、オランダ代表を迎えての親善試合が行われていた。開催国がゆえにEURO予選を戦わずして出場権を得たオーストリア代表は、昨年日本を含めた12試合の親善試合を戦うも、なんと1勝しかできなかった。2月の親善試合でドイツ代表に完膚なきまで叩きのめされたオーストリアは続くエキシビジョンマッチの相手にオランダ代表を迎えたのだった。
 前半6分に中央のロングパスに反応したイヴァンシュイッツが左サイドでボールを受けそのまま切れ込み先制点を奪う。18分にはイヴァンシュイッツの右CKから192cmの長身を武器とするCBのプレドルが頭で合わせ追加点。35分には再び右CKから先ほどのリプレイを見るかのようなヘッドでプレドルが3点目を奪った。その直後の37分にオランダはスナイデルの左CKからフンテラールがヘッドで1点を返すも、前半だけ見れば高いDFラインでオランダと対等以上にオーストリアがこれまでにない理想的なサッカーを見せたのだった。
 しかし、試合が終盤に向かうと共にエルンスト・ハッペル・シュタディオンは溜め息に包まれる。67分に自陣エリア内でファンデルファールトのヒールパスをクリアしようとしたプレドルが空振り、ハイティンガに1点を返され2-3とされると、途中投入されたヘッセリンクによって、83分にDFとGKのイージーなクリアミスから同点弾を許し、86分にはフンテラールに容易に突破を許してあっという間に逆転されてしまうのであった。
 不甲斐無い自分たちのミスによるお粗末な逆転負け。攻撃ではイヴァンシュイッツを中心に理想的な形が作れたものの、その欧州列強レベルに満たない守備陣の脆さは対照的で、オーストリアがどれだけ今回のEUROに見合わないチームかが証明されるには十分だった。

 列強との歴然とした実力差。これを今回の大会でオーストリアは改めて思い知らされることになるのだろう。昨年5月のU-20W杯で、チームを4強に導く原動力となったマルティン・ハルニクと前述した司令塔イヴァンシュイッツの2人が希望の星だ。チームの指揮を執るのは、国内屈指の指揮官ヒッケルスベルガー。90年に自国を初めてW杯に導いた英雄的存在だが、その男を持ってしても、今回のEUROはホスト国としての“記念”出場という感は拭えない。
 かつて1930年代、シンデラーを中心に欧州における“トータルフットボール”の先駆けであった“ブンダーチーム(驚異のチーム)”は時代の波にさらわれ、その陽の目を見ることはなかった。それから80年が経とうとしている今、ようやくその欧州の大舞台に立ったオーストリアの戦士たちはどれだけ自信に欠けた複雑な表情でピッチに立つのだろうか。それは国民も同じこと。そう、今の彼らに本当の意味でエルンスト・ハッペル・シュタディオンに立つ資格は無いのかもしれない。

 そのウィーンのピッチは、真に彼らが列強の仲間入りをすべく、この大会を見守るのだろう。それはこの先もずっとだ。
 彼らは、決勝を自分たちの聖地で戦う欧州列強の国々をどんな顔で見つめることになるのだろうか。

スイスサッカーの清算 ~EURO2008~

2008年06月04日 | 脚で語る欧州・海外

 オーストリアとの共催であるEURO2008開催を前に、スイスに激震が走っている。スイス代表FWのマルコ・シュトレラー(FCバーゼル)がブーイングによる非難に耐え切れず、本大会終了後に代表から引退する決意を表明した。「こんな空気のなかでこれ以上プレーすることなんかできない」とは本人の弁。そう、彼へのブーイングは2006年ドイツW杯でPK戦0-3の末にウクライナに苦杯を喫したあの日から鳴り止まなかったのだ。シュトレラーはこの試合でPKを外し、ベスト16にてスイスが姿を消したきっかけになっている。

 “なんと根性のないヤツだ”と精神論で一方的に批判することもできる。しかし、何とも哀しいニュースだ。自国開催のEURO本大会を間近に控えたこのタイミングで、その心境を吐露することは一国の代表選手として大きな決意が必要だったことだろう。ドイツW杯以降、ケガで長期離脱を余儀なくされたエースFWのフレイに代わって、昨年の親善試合を中心にチーム最多の8得点とその存在感をアピールしていたシュトレラー。3大会ぶりとなったドイツW杯で無失点でのベスト16入りという躍進を遂げた後、パッとしなかったスイス代表、そして国民の大きなカンフル剤として今大会での活躍も期待されていただけに、非常に残念な決意表明となってしまった。

 もし、彼が本大会における自国代表の奮起材料として、自身の代表引退を表明したのならばそれは最大限のリスペクトを送るべきだといえる。これ以上ない“自己犠牲”によって、昨年日本と相まみえた7月からの親善試合直近8試合で3勝5敗と不甲斐無いチームに喝を入れようとしているのだろうかとさえ個人的には推理してしまう。しかし事実は違うのだろう。昨年までブンデスリーガで戦った国内屈指のFWは26歳にしてその重圧に耐えられなくなってしまったのだ。

 これは決してスイス代表の低調なチーム状況と国民の“サッカー離れ”とも無関係ではない。マンネリ感が漂っているのだろうか、未だにスイス代表の人気は欧州の他国と比べるとその足元にも及ばない。前述の親善試合直近8試合では、無得点での敗戦が3試合とその得点力が若きチームの課題とされてきた。そしてEURO本大会を前に不動の司令塔であったマルガイラスが負傷離脱で本大会絶望となってしまい、国民の期待は、25日のスロバキア戦でスイス代表歴代得点記録を樹立したフレイだけに集まっていることだろう。ただ、2001年より7年に渡り長期政権を担ってきたクーン監督がそれまで低迷していた代表チームをEURO2004本大会、ドイツW杯ベスト16と高みに導いてきたのも事実。そのクーン監督が退任する今大会が、国民の関心を引きつける絶好の機会だっただけにシュトレラーの引退表明は戦績を先行してメディアを賑わせてしまった。

 自国代表に関心の薄い、または愛国心に欠けた国民の声がシュトレラーを今回の決断に至らせてしまったのだろうか。本大会でポルトガル、チェコ、トルコと戦うスイス代表。真剣勝負の場には“永世中立国”というお国柄は必要ない。今こそクーン体制の総決算。それはシュトレラーという悲劇のストライカーを生み出してしまったスイスサッカーの過去を清算する場でもあるのだ。

 本大会でピッチに姿を現したシュトレラーへのブーイングは見たくない。

勝敗予想は不要、至極のマッチアップ

2008年05月13日 | 脚で語る欧州・海外
 
 後半ロスタイム、ボルトンMFデイヴィスのシュートがGKチェフの下を抜けた瞬間、チェルシーの07/08シーズンのプレミアシップは終焉を迎えた。ウィガンのJJBスタジアムではマンチェスター・U(以下=マンU)がギグスの追加点で2-0とし、このチェルシーの結果を問わずに2年連続の優勝を確固たるものとしていた。モウリーニョの退団、主力の怪我による離脱、ほぼ無名の新監督、後半戦の怒涛の追い上げ、と様々な局面の中で死力を尽くしたチェルシーだったが、今季は“格の違い”を存分に見せつけてくれたマンUの強さに最早異論は無く、その優勝という最高の結果は頷かざるを得ない。グラント監督は最終節を前に“同勝ち点での格差を無くすべく、プレーオフを導入すべきだ”という見解を示していたが、皮肉なことに最終節で、結局は勝ち点でも差をつけられた。この強敵と21日には欧州の覇権を懸けて再び対峙する。チェルシーに勝算はあるのだろうか。いや、この両チームが対峙することは勝算うんぬん以前にそれを超越するエンターテイメントな輝きに満ちている。

 イギリスでの下馬評では圧倒的にマンUが支持を得ている。日本でもほぼ同じ見解だろう。確かにイメージとして、“攻撃的”という点で、彼らの方が確かに魅力的なサッカーをする。しかし、サッカーは何が起こるか分からない。「フランス・フットボール」誌の元編集長ジャック・ティベール氏も“決勝にこれほど多く優秀な選手が出たことはなかった”と今からそのCL決勝を心待ちにしている。氏が言うように確かにこの対戦カードほどゴージャスな出場メンバーはいない。
 マンUには欧州随一のその攻撃センスと得点力をいかんなく発揮したC・ロナウドを中心に、ルーニー、テべス、“生きる伝説”として圧倒的な存在感を誇るギグス、R・ファーディナンド、ハーグリーブス、エブラ、CLでも100試合以上の出場経験を誇るスコールズといった名手たちが揃う。そして、アジアの星であるパク・チソンもその一人だ。
 チェルシーは、怪物ドログバを筆頭に、欧州屈指の名手チェフ、主将のテリー(先日のボルトン戦で左腕を負傷、骨折ではなかったので彼なら出場するだろう)、チームに完全に順応したバラック、エッシェン、カルバーリョ、マケレレ、A・コール、経験豊富なアネルカ、最終節に意地の1発を見せてくれたシェフチェンコといった最早説明不要なスターたちが揃うわけだ。

 個人的に感じるのは、プレミアの隆盛を如実に物語る決勝カードとメンバーだが、それと同時に現在のプレミアリーグの“縮図”がここには確かに存在する。どちらも海外資本を元にした“莫大な資金力をパトロンとするビッグクラブ”同士の共演。それだけで言えばまさにクラブワールドカップ。プレミアの決着は、イコール欧州一、世界一を決める決着でもあるのだ。ここで何が起こるのかは当然予測なんてできない。それだけの陣容が揃っている。まさにマルコム・グレイザーVSロマン・アブラモビッチ。世界有数の資産家が意地とプライドをかけて、史上最高のエンターテイメントを我々に提供してくれる。そんな代理戦争の背景などはこの両チームのメンバーがピッチで演じる極上のプレーによって簡単に忘却の彼方へ飛んでいくことだろう。

 そういう意味では、マンUはプレミア最終節で、しっかり勝利して“ここぞで決めてくる”その風格をきっちり誇示した。ラスト2節の重圧をモノともしなかった。セリエAでトップをひた走りながら、最終節まで決められないどこぞのクラブとは違う“確固たる勝者のメンタリティ”が備わっている。11日に行われたプレミア最終節では、それを改めて思い知らされた。何せ最後に決めたのがライアン・ジョゼフ・ギグスだ。ボビー・チャールトンの出場記録にあと1試合と迫る男が試合を決めたのだから、これ以上絵になることはない。
 この点を議論させるしか21日の勝敗を占うことはできなさそうだ。至極のエンターテイメントはつい先日行われたプレミア制覇の激戦を霞ませるには十分だろう。初のビッグイヤーを狙うチェルシーか、9年ぶりの欧州制覇を追いかけるマンUか。もうキックオフを待つのみだ。

ACLマッチデー5を終えて

2008年05月09日 | 脚で語る欧州・海外

 バンコクに出発前のエントリーにも書いたように、少し以前から他グループの結果にも気を配っているACL。要はノックアウトステージでG大阪がどこと対峙するかの分析を勝手にやってしまっている訳だが、今回のマッチデー5を終えて、ノックアウトステージに進出するチームが決まってきた。そのチームを各グループごとに見ていきたいと思う。

 まず、グループAは昨日行われた2試合の結果、ウズベキスタンのクルフチが見事に準々決勝(ノックアウトステージ)進出を決めた。このクルフチの首位確定の裏側には昨年浦和と共にアジアを席巻したセパハン(イラン)の敗退があった。17時より行われたクルフチとアル・イテハド・ジェッダ(サウジアラビア)の試合は2-0とホームのクルフチが勝利し、勝ち点が拮抗している2位以下の争いにおいて、過去2度ACLを制覇しているサウジアラビアの強豪をグループリーグの戦いから葬った。この結果を受けて、この後行われるアル・イテハド・アレッポ(シリア)とセパハンの試合により、勝ち点差1以上つけばクルフチの準々決勝進出が決まるのだが、結果は昨年のACL準優勝のセパハンが1-2で逆転負けを喫し、思わぬ形でクルフチの勝ち抜けを“アシスト”。クルフチ以外のチームの勝ち点が拮抗していたことで、90分間試合を支配しながらも、負けてはいけない試合をセパハンは落としてしまった。

 グループBは、サイパ(イラン)が一歩リードしながら、まだそれを追走するアル・クワ・アル・ジャウィヤ(イラク)とアル・クウェート・スポーツクラブ(クウェート)にも勝ち抜けのチャンスがありながらも、サイパが準々決勝進出を決めた。そのサイパと対峙したアル・クウェート・スポーツクラブ。勝ち点ではこのマッチデー5の直接試合に勝利すれば首位に躍り出る可能性もあっただけに、0-1という僅差でこの試合に負けてしまったのは大きい。結果的に現状グループ最下位に転落してしまう。この勝利でアル・クワ・アル・ジャウィヤが裏の試合でUAEのアル・ワスル・スポーツクラブと戦う試合結果を待たずにサイパの勝ち抜けは決まってしまった。アル・クワ・アル・ジャウィヤは勝ち点で追い付ける可能性はあっただけに意地を見せたいところだったが、サイパとの直接対決をホームで0-1と落としていただけに彼らには準々決勝進出は夢となった。サイパを率いるのはかつてのイランの英雄アリ・ダエイ監督。このチームは堅い守備を主体にここまで無敗で走っている侮れないチームだ。

 前回のエントリーでもアル・カラマー(シリア)の勝ち抜けが有力と書いたグループCだったが、そのアル・カラマーが2位アル・ワーダ(UAE)との直接対決に敗れてしまう。得失点差を考えても引き分け以上でほぼ“確定”だっただけにこの敗戦は悔やまれるところだ。決着は最終節に持ち込まれた。最下位に沈むアル・アーリ(サウジアラビア)との試合で勝利すれば文句無し。2位アル・ワーダは絶対勝利が義務付けられ、かつアル・カラマーの敗戦があって初めて準々決勝進出となる。

 グループDもまだ決着は付かず面白い展開になっている。首位アル・カドシャ(クウェート)と2位パクタコール(ウズベキスタン)の争いだ。このマッチデー5での直接対決は両者譲らず2-2のドロー。最終戦で、アル・カドシャは引き分け以上ですっきり決められるが、パクタコールは首都タシケントの名門チーム。グループAで勝ち抜けを決めたクルフチと共にウズベキスタンを盛り上げたいところだ。ちなみにこのグループで戦う元G大阪の点取り屋アラウージョを擁するアル・ガラファ(カタール)は3連敗と全く良いところなく今だ未勝利で最下位に沈んでいる。

 首位のアデレード・ユナイテッド(オーストラリア)と長春ヤタイ(中国)が2強を形成して無敗でデッドヒートするグループEは、最終節の直接対決に持ち込まれた。2節の直接対決も0-0と引き分けている両チーム。最終節をホームで戦える長春が若干有利か。ブラジル人左SBカッシオをケガで欠き、この最終節には点取り屋のディエゴ・ワルシュが出場停止。“負け”だけは許されないアデレードが正念場を迎えている。

 鹿島アントラーズ(日本)と北京国安(中国)の一騎打ちとなっているグループFは鹿島がマッチデー5のクルンタイバンク戦で8-1と圧勝し、得失点差で北京に対して絶対的な優位を確保している。共に灼熱の東南アジアで最終節を迎える2チーム。“取りこぼし”た方がゲームオーバーとなる。しかし、北京はあやうく没収試合になるかという今節のナムディン戦のレフェリー用ビザ未取得事件をよくリカバーしたものだ。日本に負けたくない中国の“プライド”がそうさせたのか。とにかく何から何まで事の顛末がいい加減で“中国らしい”ドタバタ劇となった。

 グループGは言うまでもなくガンバ大阪(日本)が準々決勝進出を決めた。しかし、最大のハイライトはチョンブリFC(タイ)の健闘ぶりだろう。アウェイとなる日本でG大阪相手に1-1のドローを演じ、ホームでメルボルンビクトリー(オーストラリア)を3-1と粉砕した。一時は最下位に沈んでいた全南戦に1分1敗しているのが響いたが、最終節は敵地メルボルンでメルボルンビクトリーと対戦。タイのサッカーが明らかに向上していることをアピールする最終戦となりそうだ。

 ここまでを整理すると、ノックアウトステージに駒を進めるのは、クルフチ(ウズベキスタン)、サイパ(イラン)、ガンバ大阪(日本)と昨年の覇者浦和レッズ(日本)の4チームのみ。アリ・ダエイ率いるサイパの進出により、我々G大阪も文化的にも絶対的なアウェイであるイランでの試合を睨まなければいけなくなった。とにかく最終節で全てのチームが出揃うACL。どこが出てきてもレベルの高さに変わりはないだろう。

初のファイナル進出。モスクワ行っちゃう?

2008年05月01日 | 脚で語る欧州・海外
 スタンフォードブリッジに再び勝利の女神が降臨した。その女神の微笑みはブルーズを見限ることはなかった。

 4/30(日本時間5/1未明)に行われた欧州チャンピオンズリーグ準決勝チェルシーVSリバプールの第2戦。1-1から延長戦までもつれ込んだ激戦は、最終的に3-2(トータルスコア4-3)でチェルシーが勝利。初のファイナル進出を果たした。

 フットボールというスポーツが持つ魅力がふんだんに散りばめられた試合だった。激しい雨の中、第1戦と違って終始試合のペースを握ったチェルシーとボールポゼッションに左右されない一撃必殺の決定力を持つリバプール、互いの良さは120分間途切れることはなかった。延長戦前半8分のランパードのPK、そして決勝点となったドログバのこの日2点目のゴールで試合は決まり、スタンフォードブリッジの無敗神話は途切れることがなかった。

 この試合、フォーカスが当たったのはフランク・ランパード。つい先日に母親を亡くしたばかりの司令塔は、看病の時期を含めてここ直近5試合で出場はわずか2試合。このリバプール戦の第1戦に出場したのみで、コンディションやメンタル面での心配が予想されたにも関わらず、その長けた精神力でこの日はチェルシーを牽引。第1戦自らのミスで喫したアウェイゴールの失点を帳消しにする活躍を見せた。ここ一番での集中力と勝利への執念が彼から全体を通してひしひしと伝わったのは言うまでもない。過去2度ファイナルへの道を阻まれた宿敵リバプールへのリベンジ、そして母親へ捧げるゴール。様々なドラマによって彩られた勝利は感動的なものだった。

 この大一番を大阪梅田にあるサッカーバーでの観戦会に参加して観戦したのだが、日本でのプレミア人気を裏付ける凄い数の人の集まりようで、改めて海外サッカー人気の裾野が広がっていることに気付く。日本人泣かせのこのキックオフ時間にも関わらず、フロアは座る席が無いほどの人で溢れかえっていた。日本人だけでなく、中国人、イギリス人と顔ぶれも様々。しかもこの人たちは大抵皆リバプールファンという構図で、チェルシーファンは筆者一人。試合はチェルシーのホームであるスタンフォードブリッジにも関わらず、ここは完全アウェイ状態。ビッグイヤーの永久保持を認められたリバプールの歴史ゆえか、単純な労働者階級の支持を集めるクラブの伝統的な由縁か、相変わらずなぜここまでリバプールファンが世界中に多く存在するのか筆者の中で問題提起するには十分の迫力。世界中を席巻するチャンピオンズリーグの人気も含めて、実に興味深い経験となった。
 
 モスクワ・ルジニキで相まみえる相手は共に“ダブル”の可能性を残すマンチェスター・ユナイテッド。先週のウィークエンドの激闘が再び蘇る。

 もう、たまらんことになってきた。これはもうモスクワまで行っちゃう?w

スタンフォードブリッジでは負けない!81戦無敗!

2008年04月27日 | 脚で語る欧州・海外
 
 プレミアシップ優勝をかけた大一番、36週のチェルシーVSマンチェスター・Uは現地時間12:45にキックオフされ、激闘の末、首位マンUを3ポイント差で追う2位チェルシーが2-1とホームスタンフォードブリッジで沈めた。
 これで勝ち点は共に81。得失点差で16点のアドバンテージを誇るマンUの優位は変わらない。残り2試合どちらが力尽きるか。優勝争いはますます見逃せなくなってきた。共にCLとの“ダブル”の可能性を残すトップ2のハイレベルな試合は今季のプレミアの隆盛ぶりをこれ以上ない形で見せてくれた。

 まさに“フットボール”の魅力がギッシリ詰まった濃厚な90分間。ここまでホームのスタンフォードブリッジで80戦無敗を誇るチェルシーは、この日母親の逝去で欠場となったランパードを欠くものの、イレブンの結束は立ち上がりから圧倒的に試合のペースを握ったその勢いに現われていた。開始早々にドログバの突破からエッシェンがシュートを放つ。火曜日に行われたCL準決勝リバプール戦の出来を覆すポゼッションサッカーは、まるでスタンフォードブリッジに棲む“勝利の女神”が降臨したかのようだった。
 安定感抜群のテリー、カルバーリョのCBコンビ(彼らが組んだ時の勝率は80%!ここまでわずか2敗)に加え、ミケルを中盤の底に据えてバラック、エッシェンが並び、両サイドにはA.コールとフェレイラ。両ウイングにはJ.コールとカルーが入った。得点源はもちろんエースドログバ。昨季までの輝きは無くコンディションの不調が心配だが、それでも大一番での期待ができるCFだ。
 対するマンUがCLを見据えて、エブラ、C.ロナウド、テベスを温存してきたことで、予想以上にプレッシャー無く中盤でボールが回せることになる。攻撃面での長所を生かしたミケルの采配がハマり、全体的に高い位置でボールが動き、ドログバと両ウイングがゴールに近い位置に顔を出す。マンUは7分過ぎにヴィディッチがドログバとの接触で顔を打ち、早々にハーグリーブスと交代。右SBに入り、ブラウンが中央へ。カル―が再三ハーグリーブスとの迫力あるマッチアップを繰り広げたように、これがさらにチェルシーの流れの良さを助長させた。

 チェルシーは、最終ラインのテリーが繰り出すロングフィードでターゲットのドログバを狙い、そのポストプレーからエッシェンやバラックが呼応する。右サイドのフェレイラ、J.コール、そして左サイドのA.コールとカルーのコンビと多彩な攻撃パターンでマンUを苦しめる。ランパードの不在で、プレスキッカーには困ったが、それでも前線でフォローなく孤立するルーニーと個人技の高いナニをケアするだけで済んだ。20分にはJ.コールが中央突破からシュートを放つも惜しくもポストに弾かれる。31分には右サイドエッシェンから再びJ.コールが角度のないところから狙う。ポジショニングで優位に立つマンUDF陣をあざ笑うかのようにシュートを放つチェルシーに先制点がもたらされるのは時間の問題であった。 
 そして、前半ロスタイム、右サイドで3人に囲まれながらのボールキープからドログバが中央へ巧みなクロス。機を見てゴール前に駆け上がりフリーだったバラックの頭にピタリと合い、得意のヘッドでチェルシーが先制点を奪う。近い位置取りでドログバのフォローにエッシェン、サイドにJ.コールが張っていたため、それに5人が引きつけられ、バラックは完全に中央でフリーの状態だった。歓喜に湧くイレブンによって掲げられる“R.I.P. PAT LAMPARD”と書かれたユニフォーム。理想的な時間に奪えた先制点はランパードの母親を追悼する一撃となった。

 後半に入って、すんなりと優勝を決めてしまいたいマンUが反撃に出る。ここで勝てばほぼ優勝は確実となるだけに少ないチャンスを生かしたい。55分、チェルシーのリスタート。カルバーリョが集中を切らしていたところに背後からギグスがプレッシャーをかける。焦ったカルバーリョは中央に不用意なパス。これがルーニーに渡った。ここまで不完全燃焼だったルーニーは脇腹を痛めているとは思えない動きで一気にトップギアに。一気にシュートを決めて1-1の同点に持ち込んだ。思わぬ“アシスト”を敵からもらったルーニー。能力の高いタレントが集まるビッグマッチでの些細なミスがいかに“命取り”になるかを肝に銘じなければいけない光景だった。
 その後、集中力を取り戻したマンUはルーニーに代わりC.ロナウドを投入。チェルシーもアネルカを投入してエッシェンを右SBにして2トップに。一進一退のハイレベルな攻防はギアチェンジを図ってきたマンUがボールポゼッションを上げ、さらに白熱する。チェルシーは前半ほどエリア内でのチャンスが減っていたが、FKのキッカーを巡りバラックとドログバが口論を繰り広げるほどで、勝つための執念がこれ以上ないくらい見えていた。それは運をも手繰り寄せる気迫だったに違いない。
 38分にバラックの突破からパスを受けたドログバが潰されたところに反応したエッシェンのクロスがキャリックの手に当たりPKの判定。このまたとないビッグチャンスをバラックが冷静に決める。今季の序盤ケガに苦しみ、それこそオールドトラフォードでのマッチアップ時にはチームにほとんど合流できていなかった将軍が大一番で大事な仕事を成し遂げた。
 まだドラマは起きた。ロスタイムに入る前にC.ロナウドのシュートをA.コールが抜群のポジショニングでクリア。そして、チェルシーは勝ち越し弾の前にシェフチェンコを投入し、さらにその後マケレレを入れバランスを保っていたが、ロスタイムに入った直後にフレッチャーのヘッドをシェフチェンコが驚異のクリアでピンチを救う。追加点を奪う意図で入った不惑のエースがこんな仕事を大舞台でやってのけるのは皮肉な話だ。

 結局この死闘を制したチェルシーがポイントでマンUと並んだ。得失点差という絶対的なアドバンテージがあるにも関わらず、CLの準決勝をこなしてからとなるラスト2戦はお互いの我慢比べ。どちらも負けることはできない。マンUはウエストハム、ウィガン。チェルシーはニューキャッスルとボルトンという組み合わせ。81戦無敗と記録を伸ばしたチェルシー。このスタンフォードブリッジの“勝利の女神”は水曜日のCLリバプール戦でも引き続き微笑んでくれるだろうか。プレミアシップ最終週ボルトン戦とあと2回微笑めば、“ダブル”の可能性もグッと近づくはずだ。

アンフィールドの奇跡 ~UEFA CL 準決勝1st leg~

2008年04月23日 | 脚で語る欧州・海外

 ビッグマッチではミスが大きな命取りとなる。そんな極めて簡単なセオリーをまざまざと実感することになった準決勝第1戦リバプールVSチェルシーは、1-1のドローで試合を終えることとなった。
 “アンフィールドの奇跡”とも表現すべきか、終了間際のロスタイムにチェルシーにとっては思いがけない形でアウェイゴールがもたらされることとなった。カルーが中央に送ったクロスをDFリーセがまさかのクリアミス。第1戦の勝利をほぼ手中に入れたかとリバプールサポーターの誰もが思ったロスタイムにアンフィールドは凍りついたのだった。

 立ち上がりはどちらも慎重だった。さすがに準決勝という雰囲気が立ち込めるアンフィールド。レッズファンで真っ赤に染まった「コップスタンド」は心なしかいつもより「You'll never walk alone」が響き渡っているように感じる。
 チェルシーはドログバ、ランパード、バラックと主力タレントが並んだが、唯一不可解だったのは左ウイングにマルダを起用したことだ。彼の欠場の間、ここまで比較的良い動きをを見せていたカルーを先発起用すれば、流れはある程度手繰り寄せることはできたのかもしれない。マルダは結局90分間ほとんど何もできなかった。それだけチェルシーサイドに理由を見つけるのが容易であったほど、硬い序盤から試合のイニシアチヴは終始ホームのリバプールが握り続けたのである。

 守備では一日の長があるチェルシーはこの日もカルバーリョとテリーが絶妙なディフェンスでリバプールの攻撃を尽くシャットアウトした。F.トーレスが決定機をモノにできず、裏を取る瞬時の動きには舌を巻くばかりだが、前半はそこまで脅威とはならなかった。しかし、緊迫した試合はひょんなミスから大きく動く。43分にハーフウェイライン付近のリスタート時にランパードが集中を欠き、一気にボールはゴール前へ。戻ったランパードの稚拙なチェックにも助けられ、マスチェラーノがシュートを試みるが、これがフワリと浮いたところにカイトが上手く反応してボレーシュートを沈める。最後にケアに回ったマケレレも不可解な飛び込みでカイトに対してはプレッシャーにならず。幾つかの不用意なミスが重なり、痛恨の先制点をリバプールに献上することとなった。
 序盤こそは幾分かのペースを握ったチェルシーも、マスチェラーノとシャビ・アロンソの絶妙な長短を織り交ぜた正確なロングパスの前にリズムを掴めず、後半も一方的に先制点を追い風にしたリバプールが試合を支配した。

 チェルシーは前線のドログバが孤立無援。彼のコンディションもそこまで良好とは言えず、決定機をほとんど作れなかった。それもそのはず、この日はJ.コールとマルダの両翼もほとんど機能せず、連動した攻撃スタイルは90分通してほぼ皆無だった。GKチェフの再三の攻守が無ければ、かなり早い時間帯で息の根を止められていたことだろう。
 それだけ苦しい試合内容であっても、チェルシーは運をも味方につけ、第1戦をドローに持ち込むことができた。第2戦は、彼らにとっての不沈のホーム、スタンフォードブリッジ。負けなければ良いわけだ。逆に言えば、彼らが不敗神話を築く“ブルーズの住処”でリバプールは絶対勝利が条件となり、これまでにはないプレッシャーが彼らを襲う。因縁うごめくCLでの過去2戦を覆す展開で、改めてアウェイゴールルールの醍醐味を感じる試合となった。

 しかし、チェルシーも試合内容は手放しで褒められたものではない。週末にはプレミアシップ首位マンUとの直接対決を控えている。“ダブル”の可能性という灯を消さないためにも彼らには一刻も早いリフレッシュと、再び鋭い集中力が求められるのである。まさに今こそ“勝負どころ”だ。