歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

ヘレベッヘ『ジョスカン_スターバト・マーテル』

2009年12月13日 | CD ジョスカン
Josquin Desprez
Stabat Mater, Motets
La Chapelle Royale
Philippe Herreweghe
HMC 901243

1986年録音。54分02秒。HMF。ジョスカン・デプレのモテット集。ヘレベッヘのジョスカン聴いてみたかったんですよ。なかなか縁がなくて、ようやくゲットできましたけど、今も手に入りにくいみたいです。率直に言って期待したほどではない。いや悪くはないんですよ。買っていいとは思うけど、至高のジョスカン演奏、とは言いがたい。流麗なジョスカンを目指すのはけっこうなことですが、細部の磨き上げかたが不十分だと思います。ところどころ、しろうとっぽく聞こえちゃう。

1. Ave Maria (a4)
2. Stabat Mater dolorosa (a5)
3. Salve Regina (a5)
4. Ave nobilissima creatura (a6)
5. O bone et dulcissime Jesu (a4)
6. Usquequo, Domine, oblivisceris me in finem (a4)
7. Miserere mei, Deus (a5)

例の、有名な4声の「アベ・マリア」からはじまります。スイスイとなかなかいいテンポで進んでいく。4分47秒で歌っています。この曲については、ヒリヤード・アンサンブルみたいなねっとりした作り方よりも、ヘレベッヘの持っていき方のほうが好き。われわれが歌うとつい歌い上げたくなって、遅くなるのだ。ただ、もう少していねいに歌ってほしかった。たしかにこの曲はとにかく歌うのがむつかしくて、完璧に歌うことなんてほぼ不可能なのですが、なにしろヘレベッヘ指揮のシャペル・ロワイヤルなのですからね、もう少し歌い込めたんぢゃないかなあ。でもつぎの「スターバト・マーテル」はいいと思います。終りのほうで拍子が変わるところがありますね。あそこ面白いね。わたしはこの曲は歌ったことない。歌ってみたい。

わたしはタリス・スコラーズみたいな硬い響きのジョスカンも嫌いぢゃない。まあ『ミサ・パンジェ・リングァ』はちょっと硬すぎたけどね。でもイギリスにはクラークス・グループみたいな柔らかい演奏するアンサンブルもありまして、クラークス・グループを聴いてたから、このヘレベッヘのジョスカンにもそう驚きはしなかった。ヘレベッヘのようなジョスカン、方針は大賛成ですが、まちっと丁寧にやってね。クラークスのジョスカンはフニャフニャし過ぎだったけど、このヘレベッヘのも、ちょっとばかりそんなところがあるんですよ。

コレオー『シャルパンティエ_真夜中のミサ』

2009年12月09日 | CD バロック
Marc-Antoine Charpentier
Messe De Minuit pour Noel H.9
In Nativitatem Domini Cantiqum H.314
Vallin, Le Pinie, Ragon, Lestringant, Bindi
Ensemble Vocal de Nantes
Ensemble Instrumental
Paul Colléaux
ARN 68015

1985年録音。42分39秒。ARION。収録時間が短いし、『真夜中のミサ』全曲で24分36秒が1トラックだったりする。で、そのあとはぜんぶクリスマスにちなむ器楽曲。なんだかやぼったい感じのする作りですが、それはそれとして、音楽そのものは悪くない。素朴な、手作り感のある演奏で、不思議なライブ感もただよって、なかなか好ましい1枚。『真夜中のミサ』はクリスティのエラートへの録音ももちろんあるわけですが、独特のクリスティ節というか、クリスティのオーラというか、そういうのがうっとうしくなったら、このコレオーです。

ナント声楽アンサンブルは15人編成、声楽のソリストが5人、器楽アンサンブルが10人。ほどよい人数だと思う。

合唱はじゅうぶん歌えていてテクニックに不足はありません。ソリストは、ジル・ラゴンとかエティアン・レストランガンとか、同時期にクリスティの指揮でも歌っていた人たちが参加している。いまの21世紀の演奏技術のレベルからすると多少のケチのつけようもあるけれど、致命的なキズではなく、まあまあ合格点を出せる。全体にさわやかでひたむきな演奏態度で、人によってはもっと洗練されたのがいいと思うでしょうが、そういう方はクリスティでもミンコウスキでもどうぞ。わたしはこれ気に入ってます。

埋め草の器楽曲は、なんかたどたどしさもあるんですが、シャルパンティエの音楽の人なつこさがよく出ている。縦笛のすがすがしい音色がここでも効いている。

クリストファーズ『クリスマス・キャロル・コレクション』

2009年12月08日 | CD 古典派以後
A Traditional Christmas Carol Collection
The Sixteen
Harry Christophers
COR16043

1991年録音。70分51秒。CORO。ほぼ直球ど真ん中、って感じのクリスマス・アルバム。クリスマス向けのCDも、考えてみりゃいくつか持ってはいるんですが、凝ったものばかりなので、もっと「ふつうの」クリスマス・アルバムがほしくて買ってしまいました。タイトルに"Traditional"とありますが、これは「みんな知ってる」というくらいの意味だと思う。「きよしこの夜」とか、あるいは「ひいらぎかざろう」とか、そういう、ほんとに誰でも知ってるようなクリスマス・ソングがいろいろ入ってます。編曲はしゃれていて、かつ素直で、もったいぶったところがなく好ましい。

ザ・シクスティーンはここでは各パート4人の、文字通り16人。シクスティーンはもともと古楽プロパーの合唱団ではなく、ブリテンとかアメリカの現代合唱曲とかも録音してきていて、ここでの響きも、どちらかというと現代的なものになっている。流線型で都会的。

好みでしょうが、トラック13"In The Bleak Midwinter"のような、しずかにあたたかく歌われる曲のほうがやっぱ耳に残るなあ。それにしてもこの"In The Bleak Midwinter"、たしかガーディナーの『クリスマス物語』にも入っていた。いい曲だ。トラック19の"The Coventry Carol"、この曲も面白いですよねえ。各節最後のところに来る不協和音がすてき。

トラック1"The First Nowell"。最初、オルガンが、6/8拍子で2小節ぶん前奏する。まあ「牧人ひつじを」だから3拍子系なのはとうぜんだけど、何の心の準備もなく聞き始めたんで、いきなり6/8ってのは変拍子みたいに聞えてしまって、ここの2小節のオルガン、聴き馴れるまで妙な感じだった。年をとって、耳から入ってくるリズムに対して、臨機応変に反応できなくなったのかもしれない。

国語教科書ブーム

2009年12月07日 | 本とか雑誌とか
国語の教科書に載っていた教材を大人になってもういっぺん読もう、って本が、今いろいろ出てます。あんな小説が載ってた、こんな詩が載ってた、という話は、盛り上がるんだよなー。いまや、国語教科書の世界では王様の光村図書が、自分のところの国語教科書にこれまで載せてきた教材を集めた『光村ライブラリー』というシリーズを一般向けに出しているくらい。

時系列で並べると、この手の本で最初にある程度の注目を集めたのはネスコという出版社から出た『教科書でおぼえた名詩』(1997→2005扶桑社文庫)あたりですか。その後、齋藤孝『声に出して読みたい日本語』の最初のものが2001年に出ている。これはシリーズで出てるみたい。さらに齋藤さんは翌年以降、『理想の国語教科書』(2002)『理想の国語教科書 赤版』(2003)を出す。齋藤さんの場合は、過去実際に教科書に載ったものという括りからは無関係にモノを選んでると思いますが、まあ最初の本からして一連の国語教科書ブームの流れの中に組み込める動きでしょうね。そして『光村ライブラリー』が刊行開始されたのも2002年です。これは2006年まで、小学校編から中学校編までいろいろ出つづけたらしい。やはり2002年には青春出版社からも、『大人の教科書 国語の時間』というのが出ている。2002年は国語教科書ブームのピークだったのかも。

さらに2003年には小学館からサライ・ブックスとして長尾高明編著『厳選国語教科書─時代を超えて伝えたい』というのが出た。『サライ』は中高年以降をターゲットにした趣味の情報誌でしたよね。2004年には宝島社からも小川義男監修『二時間目 国語』(→2008宝島社文庫)が出た。そして2008年には、佐藤雅彦編『教科書に載った小説』というのがポプラ社から出た。この佐藤さんのはわたしも買った。松下竜一「絵本」とか、しぶい。わたしにとってははじめての小説ばかりだったけど、これは教科書という枠を外しても、なかなか読ませるアンソロジーだった。

『図書』2009年12月号

2009年12月01日 | 本とか雑誌とか
『図書』2009年12月号。1ページ上の短いエッセイを南木佳士さんが書いている。「診て、書いて」。南木さんが心の病気にかかったのは芥川賞の翌年以来のことだそうだ。最近また賞をもらったそうなんですが、なじみの編集者から「賞で気を抜かずにもっとちゃんと書いたほうがいいんじゃないの」と言われて「意外に滅入っ」た、と書いてある。すなおな人だ。

鶴見俊輔さんの連載、ついに終わる。岩波新書になるのかな。中野三敏「和本教室」は19回め。この連載が本になったらたぶん買うだろうなあ。片岡義男「散歩して迷子になる」21回め。片岡さんは学生のときから雑誌に書いていて、でも卒業後、「商事会社」にいちど就職したそうですよ。4月に就職してその年の6月30日に退社したそうな。

新刊案内。『岩波国語辞典』が第七版になって11月に出てます。買うかも。佐竹昭広集は第4巻『閑居と乱世』が12月22日発売で、これは予約する。そのほか、買えませんが、畑尚子『徳川政権下の大奥と奥女中』はちょっと見てみたい。岩波現代文庫では高階秀爾『増補日本美術を見る眼』、筒井清忠『日本型「教養」の運命』など。教文館の広告で『キリシタン版太平記抜書三』。