歌わない時間

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「茂」をモチと読むこと

2013年03月06日 | 気になることば
徳川家茂はイエモチと読むわけですが、茂の字を「モチ」と読む例をわたしはほかに知らなかったので、そのことが実はずっと気になっていました。(ついでに言うと慶喜の喜を「ノブ」と読むのも気になります。)で、先日ジャパンナレッジの年間契約を更新して、辞典、辞書をいろいろ引いていたら、佐賀藩の藩主で鍋島重茂という人がいたのが分かりました。「しげもち」と読み方も書いてありました(『日本大百科全書』『日本人名大辞典』)。

戦国期の鍋島直茂[なおしげ]以来、鍋島家の通し字は茂[しげ]です。でも鍋島重茂さんのばあい、「重」は、将軍徳川家重の片諱を賜ったものであったはずですから、これは「シゲ」と読まざるを得ない。で、なにを思ったか、これに鍋島家の通し字である「茂」を無理してくっつけちゃった。でも鍋島シゲシゲ、って名前はあり得ないので、苦肉の策で、「茂」のほうの読み方を変えて、「シゲモチ」と読むことにした、と──。

これで、徳川家茂以前に「茂」を「モチ」と読む名前の前例は確認できたのですが、しかしなぜ「茂」を「モチ」と読むのかは依然として分からない。もしかして、「茂」の音読みが「モ」であることと何か関係があるのかなあ。まさかね。そこでふたたびジャパンナレッジの『字通』で「茂」を引くと、(二)として「さかん、ゆたか、うつくしい。」とある。それで、「持」に通じさせて「モチ」なのかなあ。

ところで、わたしは知らないんですが、大名が将軍の片諱をもらう時って、だれがどういうふうにその新しい名前を決めたんでしょうかね。江戸幕府の役人のだれかが考えるのかしら。林家とか? それとも、「お前に片諱やるよ」ってことだけ幕府で決めて、あとは各大名家でいい名前を考えて、許可をもらうとか、そういうシステムなのかしら。