歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

「鍋のほういかがですか」と「ことば検定」

2008年11月28日 | 気になることば
産経新聞。池袋で、アルバイトの大学院生24歳が、通行人4人の前に立ちふさがり、「鍋のほういかがですか」などと75メートルにわたってつきまとって客引き行為をしたとのことで、現行犯逮捕。

苦学してアルバイトして大学院まで行って、「鍋のほういかがですか」で逮捕。リンク先の産経の記事の、この見出しのつけ方は、「鍋のほう」って日本語の異様な感じを踏まえてのことだろう。しかし24歳大学院生も、「鍋のほういかがですか」だなんて、変な日本語だと自分で思わなかったんだろうか。いや、本当は気がついていたのかもしれないね。気づきつつ、「それがこの店のやり方なんだから自分だけ異を立てるのは変」とか自分に言い聞かせて、客引きに立っていたんぢゃないのかなあ。24歳大学院生は気の弱い人物だったのよ多分。

で、今たまたま知ったんですが、産経新聞がことしから「ことば検定」というのを始めたそうですよ。10月に第1回目の試験をやったそうです。こういうのは去年だったかから東京書籍がはじめた「日本語検定」というのがすでにあるんです。出題内容もかなり重なってるようです。この手の検定、ほかにもまだあったかも知れません。産経は出遅れましたな。それにしてもいかにも産経らしいと思うのは、2級で旧カナや古語の知識を問う問題を出すってところですな。日本語の歴史についても訊かれるそうですよ。後発だから独自色を出そう、って魂胆もあるでしょうけど。それにしても旧カナでどう書くか訊かれる、なんて問題はおもしろい。ことば検定、わたしも受けてみたい。でも(今年は)全国7都市の会場のみの実施だったそうで。

レイトン『20世紀イギリスのキャロル』

2008年11月27日 | CD 古典派以後
O magnum misterium
Twentieth-Century Carols
Polyphony
Stephen Layton
CDA66925

1996年録音。77分32秒。Hyperion。20世紀のイギリスの作曲家によるキャロルを集めたもの。ぜんぶアカペラで、現代イギリスの合唱音楽の充実ぶりをたっぷり味わえる一枚。現代音楽といって毛嫌いするなかれ。とくに合唱人は必聴ですよ。現在はHeliosシリーズに移行して廉価盤で出ています。

スティーブン・レイトン指揮ポリフォニーはよく鍛えられたプロ集団。声質はタリス・スコラーズやザ・シクスティーンを思い浮かべてください。澄明で精緻。なおかつこの2グループよりもさらに柔軟な表現力をもっています。ときたま現れるソプラノのソロも魅力的。

何人かの作曲家の作品が選ばれていますが、なかでも《A Spotless Rose》のハウエルズと、《Bethlehem Down》《Lullaby my Jesus》などのウォーロックの作品に心ひかれました。とくにウォーロックは作品そのものの数が少ないそうですが、シンプルな作風でクリスマスの喜びが素直に伝わってくる。

ガーディナーの『クリスマス物語』で近代の合唱作品に興味を持ち始めて、さらにこのCDでわたしははっきりと、20世紀の音楽も面白いと認識を改めました。まあ今後とも古楽を聴く時間が多いのはこれまでと変わらないでしょうけど。

キング『ヘンデル/ヨシュア』

2008年11月24日 | CD ヘンデル
Handel
Joshua
Kirkby, Bowman, Oliver, Ainsley, George
Choir of New College, Oxford
The King's consort
Robert King
CDA66461/2

1990年録音。65分19秒/58分53秒。Hyperion。ロバート・キングが録音したヘンデルのオラトリオ・シリーズの一作。これはおすすめです。強くお勧め。曲そのものはさほどの大作とは言えないけれどよくまとまっています。演奏は爽快かつ開放的。ソリストも揃い、合唱も出来がよく、目立つ金管をはじめとしてオケも文句なし。

この『ヨシュア』、1747年に書かれ、48年に初演されたそうです。後期のオラトリオですわね。出典は『ヨシュア記』。異民族の皆殺しの記事なんかがあって、そうとう生臭いテキストです。しかしモレルの台本はヨシュアに鼓舞されたイスラエル民族の勝利の物語として簡潔にまとまっています。

わたしは少年合唱は積極的には聴かないほうですが、このニュー・カレッジのクワイヤは評価しています。表現力がある。ここはホグウッドの『アタリア』でも好演していました。なお合唱団のテナーに、現在ソリストとして活躍しているトビー・スペンスの名前がありました。

ソリストではエインズリーのヨシュアがすばらしい。出番はそんなに多くはないけど、旧約聖書の英雄をいかにもそれらしく歌いきってくれます。もちろんカークビーもいいですよ。こんなマイナーなオラトリオにカークビーってなんかもったいない気もするけど。このオラトリオで有名なアリアは"Oh, had I Jubal's lyre"くらいですが、カークビーは文句のつけようもなく歌ってくれます。

キングは、90年代、ヘンデルのオラトリオのなかでもほかの指揮者があまり録音してこなかった不遇な作品をいくつか連続して取り上げました。わたしはそのすべてを聴いたわけぢゃないんですが、この『ヨシュア』はそのシリーズ中でもすぐれたものの一つです。

第3幕で"See, the conqu'ring hero comes!"(見よ、勇者は帰る)が聞こえてきたときはびっくりしましたけど、あの合唱の初出は『ユダス・マカベウス』ではなくてこの『ヨシュア』なんだそうですよ。原曲は意外と繊細な感じさえするさわやかな曲でした。この合唱のあと、すぐにカークビーの"Oh, had I Jubal's lyre"です。

オーボエ4、バスーン2、フルート2、トランペット3、ホルン2と管が充実。ヘンデルらしく金管が高らかに響き渡る行軍シーンなどはスカッとしますね。

ガーディナー『クリスマス物語』

2008年11月23日 | CD 古典派以後
Once as I remember...
Monteverdi Choir
John Eliot Gardiner
PHCP-11126 (462 050-2)

1998年録音。73分11秒。PHILIPS。わたしが買った国内盤は『クリスマス物語』というタイトルなんですが、そこらのクリスマス・アルバムとはひと味もふた味も違う。誰でも知っているような曲は少ないですが、グレゴリオ聖歌から現代の作曲家の作品まで、クリスマスにちなんだ聴きごたえのある合唱曲が選ばれています。ア・カペラを中心にして、曲によっては楽器を控えめにかつ効果的にあしらっています。

ガーディナーが子どものころ、イングランド南西部のドーセットシャーにあったガーディナー家の館で行われた降誕劇の雰囲気を再現しようとしたものだそうです。すごいですねえ。村の挙げてのイベントだったようで、のちにはロンドンから訪れていたプロの音楽家も参加するようになったそうです。

有名な曲としては、バッサーノとスウェーリンクの《Hodie Christus natus est》、ミヒャエル・プレトリウスの《Es ist ein Ros' entsprungen》、バードの《O magnum mysterium》と《Lullaby》、それから近代にとんでハウエルズの《A spotless Rose》あたりでしょうか。しかし古いキャロルの編曲版など、その他の曲もみんないいですよ。

このCDを聴くまで、近代の合唱曲って関心なかったんですが、このCDで目覚めました。じつは《A spotless Rose》って曲もここではじめて聴いたんですが、これはハウエルズ(1892-1983)の合唱曲の代表作のようで録音も多いです。ハウエルズのほか、バールドシュ、タブナー、ガードナー、アームストロングという作曲家たちの作品が歌われています。タブナー以外は名前すら知らない人たちだったんですよ。でもね、合唱うたいの心をおもいきり揺さぶられました。ああやっぱり古いのばかりぢゃなく新しい曲も聴いていこうと改心しました。

ガーディナーのアカペラもの、とくにこういう小品集はほんとにいいです。このCDはこの人がもともと合唱指揮者だったことを思い出させてくれる演奏。響きは冴え冴えとしていて、いかにもクリスマスにふさわしい。

ガーディナーは、70年代にはモンテベルディやジェズアルドのアカペラものを録音したりしていました。このCDにも入っているバッサーノの《Hodie Christus natus est》も以前に録音していたはず。FMでオンエアされたのを聴いたことがありますもん。ただしそのころはまだモンテベルディ合唱団の技量が未完成で、あまり感心しませんでした。

ミンコウスキ『ヘンデル/ディクシット・ドミヌス』

2008年11月22日 | CD ヘンデル
Handel
Dixit Dominus / Salve Regina / Laudate Pueri / Saeviat Tellus
Annick Massis, Magdalena Kožená
Les Musiciens du Louvre
Marc Minkowski
459 627-2

1998年録音。77分53秒。Archiv。《Dixit Dominus》はプレストン指揮のものをよく聴いているんですが、ラテン系の指揮者のものを聴いてみたいなあと思ってミンコウスキに手を出しました。このあとファゾリス盤も買ったんですが、ミンコウスキとファゾリスを比べると、《Dixit Dominus》そのものの出来に関しては鼻の差でミンコウスキでしょうか。合唱部分はファゾリスのほうが上ですが、ミンコウスキのはアニック・マシスとマグダレーナ・コジェナが歌うソロパートが断然魅力的。

ミンコウスキの指揮した合唱ものは、《Messiah》だったか《Hercules》だったか、粗くてへたくそな合唱だったのでがっかりしたことがあるんですが、この《Dixit Dominus》に関しては不満は感じませんでした。繊細に表情の変化するファゾリス盤の合唱と比べると一本調子な感は否めませんが、アインザッツもちゃんと揃っているし、とくに問題のあるレベルではない。

《Dixit Dominus》のほかにやはりイタリア時代のヘンデルの作品である《Saeviat tellus inter rigores》《Laudate pueri Dominum》《Salve Regina》のモテット3曲も収録。1曲目はマシスのソロ。2曲目はコジェナのソロと合唱。3曲目はコジェナのソロ。どれもいい演奏です。とくに今回気がついたんですが、マシスが歌う《Saeviat tellus》の第3節"O nox dulcis"がまたしっとりした美しい曲で。

このCD一枚でイタリア時代にヘンデルが書いたモテットの主要曲が聴けるし、演奏のレベルも高く、マシスとコジェナのソロもたっぷりなので、お買い得だと思います。

サバール『フレーチャ/エンサラーダ集』

2008年11月21日 | CD 中世・ルネサンス
Ensaladas
Studium Musicae Valencia
Hespérion XX
Jordi Savall
ES9961

1987年ごろ録音。52分41秒。naïve/ASTRÉE。Matheo Flecha l'ancien(老フレーチャ)のエンサラーダを中心としたアルバム。フレーチャの《La Justa》《El Fuego》《La Bomba》に、フレーチャ死後の1575年ごろに生まれて17世紀まで生きたふたりの作曲家──Francisco Correa De ArrauxoとSebastian Aguilera De Heredia──の器楽曲を取り合わせています。

あのサバールなのに、バレストラッチのにぎやかな演奏と比べるとなんか控えめに聞こえます。いや控えめって言うんぢゃないな、すっきりした演奏、といっときます。合唱、独唱にいろんな管弦打楽器を取り合わせて飽きさせずに聴かせながら、余計なものをくっつけたって感じは全然ないのね。フレーチャの音楽の楽しさ、そのまま。

合唱は上から3・2・2・2。これに加えてソリストとしてモンセラート・フィゲーラスなど4人がクレジット。サックバット、コルネットからビオールはもちろんパーカッションまで楽器はいろいろ出てきます。

バレストラッチのを聴いたときにも思ったことですが、16世紀前半のスペインに、フレーチャというこんなわくわくするような音楽を書いた人がいたなんてまったく意外でした。

パロット『ジョスカン/ミサ・アベ・マリス・ステッラ』

2008年11月18日 | CD ジョスカン
Josquin
Missa "Ave maris stella"
motets & chansons
Taverner Consort & Players
Andrew Parrott
TOCE-8217

1992年録音。76分33秒。EMI/Reflexe。久しぶりに聴いてやっぱりいいなあと思いました。『ミサ・アベ・マリス・ステッラ』は名曲で、パロットの指揮もこの曲のスケールの大きさをよく引き出しています。ジョスカンのミサはこういうふうに歌わなくっちゃ。大河がとうとうと流れていく感じ。わたしにとってジョスカンのミサってのはそんなイメージなんですよ。

ミサのほかシャンソンやモテットも収録。ミサは男声13人で、シャンソンとモテットは各パート1人づつ。演奏形態も曲種によって変化をつけ、聴き応え充分のアルバムに仕上がってます。途中で居眠りできません。

アルバムの冒頭の5声のモテット《Illibata Dei virgo nutrix》で例のわたしのきらいな悪声アンドルー・キングが出てくるんですけど、これがそんなにいやな感じぢゃないのね。ふしぎ。5声のアンサンブルのなかにちゃんとはまってるからかしらん。

ミサはカウンターテナー以下の男声13人で歌っています。ジョスカンはやっぱり10人前後いた方がいいね。ジョスカンにふさわしく腰のすわった感じがするよ。

女声はただひとり、エミリー・バンイブラがところどころ出てきて歌っています。パロットのジョスカンはたしかこれ一枚だけだと思います。もっとやってほしかったよー。イギリスの指揮者でジョスカンをこれだけ表現できるっていうのはちょっとめづらしいんぢゃないですか?

おせい、寂聴、丸谷

2008年11月16日 | メモいろいろ
教育テレビで夜10時から源氏物語の特集。90分番組。いづれもビデオ出演ですが、田辺聖子さんが出て寂聴さんが出て、11時過ぎてから丸谷さんが登場。丸谷さんの声は知っていたけど、しゃべっている映像は初めて見ました。お元気そうでした。三人とも80代でしょ。文化勲章もらってるのよね。

うちにある《Dixit Dominus》。ガーディナー旧盤、プレストン、ファゾリス、パロット、ミンコウスキの5種類。きょう、ファゾリス、パロット、ミンコウスキを聴いたんですが、ファゾリスもミンコウスキもよかったです。パロットのも悪くはないんですがまあちょっと落ちます。合唱の扱いがよりこまやかなのはファゾリス。ファゾリスって、日本ぢゃほとんど話題にされないですけど、実力ある指揮者。器楽ものも指揮してるようですがとくに歌ものが要注目。ミンコウスキの指揮する合唱ものは合唱の出来があまりに雑だという思いがあったんですが(ぢゃあなんでこのCD買ったんだろう…?)、今日はじめてちゃんと聴いてみたら、合唱そんなに下手でもなかったです。ミンコウスキの威勢のよさが過剰に感じられるところはありますけどね。《Dixit Dominus》の場合、この曲だけだと30分くらいなので、ほかの曲とカップリングされるわけですが、ミンコウスキのはそのカップリング曲がまた強力。ファゾリスのほうのカップリングは《Dettingen Te Deum》で、これはこれで貴重な録音です。

コープマンの『復活』を思い出す

2008年11月12日 | メモいろいろ
帰宅後、コープマン指揮の『復活』を、久しぶりに、いっきに聴く。ナンシー・アージェンタはこのCDではマッダレーナを歌っていて、すこぶる調子が良い。案外だったのがクレオフェのギュメット・ロランスで、いまひとつの出来だ。初めて聴いたときは感心したのかもしれないが、力のあるメゾが多く出てきた今のレベルからすると不満が残る。コープマンは思っていたよりもおとなしい指揮ぶりだった。まとまりはよいが、せっかくコープマンが振るのだからもっとはじけてほしかった。

パーセルのハープシコード作品集を弾いていたジョン・ギボンズという人は、実はブリュッヘンとモーツァルトのピアノ協奏曲も録音しているそこそこ有名な人だったらしい。ハープシコードもフォルテピアノも弾くって人の話はあんまり聞いたことないけど。セオンにも、(ソロではなくてアンサンブルの一員としてだが)録音があるそうだ。

講談社の『日本の歴史』のシリーズが学術文庫でリリースされはじめた。たはー。あれ、六七冊くらいは買ったのよ、高いのを。そのころ興味を持ちはじめていた幕末から昭和初期にかけてはずっと持ってる。それと中世の一部も買った。まだ何冊か手もとに置きたいと思ってたんだけど、単行本と文庫本とでこぼこに揃うのは癪だよなー。どうしようか。

シャンティクリア『パーセル/アンセム集』

2008年11月10日 | CD パーセル
Evening Prayer
Purcell Anthems and Sacred Songs
Chanticleer
Capriccio Stravagante
WPCS-11695

2003年録音。59分09秒。Warner Classics。国内盤タイトル『シャンティクリア、パーセルを歌う』。シャンティクリアが、スキップ・センペ指揮カプリッチョ・ストラバガンテと共演してパリで録音したCD。地味な内容なのに、よく国内盤が出ましたなあ。シャンティクリアのパーセルというのは意外なレパートリーですが、なかなか面白いです。競合盤がしばしば収める〈メアリー女王の葬送音楽〉をあえて避けて、プログラムの面でも独自色を出しています。バース・アンセム5曲、フル・アンセム2曲に加えて、圧巻なのが約5分間ぶっとおしのユニゾンで歌いきる"Now that the sun hath vailed his light (Evening Hymn)"。この全8曲。

シャンティクリアは、いかにもエンターテイナーらしく、そしていかにもアメリカらしい歌いっぷりをするグループ。これと古楽器アンサンブルのしぶい音色とはときにミスマッチのように聞こえもします。しかし、ほかでは聴けない個性的なパーセルだという以上の魅力をこの演奏は備えていると思います。じつに風通しのよい、人懐こさを感じさせるパーセルです。

パーセルのアンセムのアルバムはいろんな指揮者がリリースしていて重複しあう曲の聴き比べが楽しい。このシャンティクリアの次にはヘレベッヘのCDを続けて聴いたんですが、〈Rejoice in the Lord alway, Z.49〉〈Remember not, Lord, our offences, Z.50〉〈Hear my prayer, O Lord, Z.15〉〈My Heart is inditing, Z.30〉の4曲が重複してました。

シャンティクリアは全員男声ですが、メンバー表はソプラノ3、アルト3、テナー3、バリトン&バス3、となっています。トリニティ・クワイヤの《ダイオクリージャン》に出ていたイアン・ハウエルが、ソプラノとして参加しています。