歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

「瓦解」と「遊弋」

2015年01月18日 | 気になることば
【瓦解】
「もと旗本であった彼の家が瓦解後静岡に移って間もなく彼は生れた。」(大岡昇平『武蔵野夫人』新潮文庫、p.12)

これは『坊っちゃん』「一」に出てくる、「この下女はもと由緒のあるものだったそうだが、瓦解のときに零落して、」と同じ「瓦解」の使い方です。ただし『日国』などで「瓦解」を引いても、「特に江戸幕府の崩壊を指す」とかいう記述はされてないようです。これも丸谷さんが何処かでエッセイのネタにしてました。大岡昇平は『坊っちゃん』を意識していたのかいなかったのか。
──

【遊弋】
「彼は憂鬱にフランス語教師の職に満足しなければならなかったが、そのスタンダール耽読から、彼はこの十九世紀サロンの遊弋者の恋愛修行や姦通の趣味についてはなはだ熱っぽい影響を受けた。」(『武蔵野夫人』p.17)

「遊弋」はわたしが普段から気にしてることばで、辞書選びの時など必ず引くんですが、文脈のついた用例をじつはここで初めて見ました。ここはスタンダールのことを、サロンを遊弋して恋愛したり姦通したりする者であった、と述べているんですな。遊弋とは、獲物がないかとらんらんと目を光らせながらあちこち動き回るさま。

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