歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

南木佳士『こぶしの上のダルマ』

2014年12月31日 | 本とか雑誌とか
南木佳士『こぶしの上のダルマ』(文春文庫)読了。連作小説という触れ込みだけれど、長編エッセイと思って読んだ。パニック障害病後のお医者さんの話。私小説。むかし読んだエッセイか小説ではまだ小学生だった二人の男の子がもう大学生になって家を出ていて、作者の老いを感じさせる。

しかし小説というには威勢が悪すぎるよ。というか色気がなさ過ぎる。出来事そのままを書いているわけではなく虚構はたくさん折り込まれているんだろうが、小説のつもりならまちっと小説らしくお化粧をして、読者に差し出してほしい。『阿弥陀堂だより』みたいに。

とは言うものの、この不器用な誠実さが、病みあがり作家・南木佳士の身上でもあるのだ。素人っぽい訥々とした文章に閉口しながらも途中でやめずに一気に読んでしまったのは、やはり魅力を感じたからなのだろう。老いをしみじみと実感しながら、心の病から立ち直ってからだのゆるすだけの仕事を続けている人の話ではあり、山登りの話題も出てきて、死をめぐっていろいろと思い巡らしている。ファンは多いと思う。

パーカー『拡がる環』

2014年12月29日 | 本とか雑誌とか
ロバート・B・パーカー/菊池光訳『拡がる環』(ハヤカワ文庫)読了。いやー、本を二日で読んだのは久しぶりですよ。今年は、ほんとに読めなかった。それはさておき、マッチョで、気が利いて、学があって、たぶん男前なこのスペンサーという男、人気者なんだろうなあ。けれどもわたしはそれほどまでには魅力を感じなかった。屈折が足りない。

などと言うのは、わたしが唯一慣れ親しんだハードボイルドものであるところのD・フランシスとつい比べてしまうからで、あの競馬シリーズの主人公たちのような陰影の深さがスペンサーにもあればなあ。

筋は面白いけれど、思いもかけないどんでん返しみたいなことは一つもなく、たんたんと話が進んでいく。しかし安心して読んでいられる、というのはファンにとっては魅力なのだろう。ギャングが出てきて、人殺しもあるけれど、基本的にはボストンや首都ワシントンのホワイトカラーな世界のお話で、なによりスペンサーやスーザンの気の利いたセリフは楽しい。スペンサー・シリーズ、もうあと何冊かは読むかもしれない。