歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

タリス・スコラーズ『ジョスカン/ミサ・パンジェ・リングァ』

2008年12月14日 | CD ジョスカン
Josquin
Missa Pange Lingua
Missa La Sol Fa Re Mi
The Tallis Scholars
Peter Phillips
CDGIM 009

1986年録音。61分41秒。Gimell。泣く子も黙る「タリスコ」のパンジェ・リングァ。いまだに、タリス・スコラーズの日本デビュー盤となったこのCDを聴くと、その演奏技術の高さにびっくりさせられます。その後古楽を歌う声楽アンサンブルは優秀なのがいくつも出てきましたけど、古楽のア・カペラ演奏史は、このCD以前と、以後とで、流れが変わりました。

このCD(およびタリス・スコラーズの演奏全般)については、今も絶賛する人もいますが、古楽オタクっぽい人ほど評価しない傾向があります。〈たしかに超絶技巧を駆使した目を瞠る演奏ではあるけれど、あまりにも現代的すぎる、ジョスカン(あるいは、ルネサンスもの)らしくない〉、と古楽オタクは言うのです。逆にこの手のア・カペラものをはじめてという合唱好きな人には今でもじゅうぶん衝撃的で魅力的な演奏でしょう。わたしの場合、古楽オタクでもあるけれど、自分自身〈合唱歌い〉であって、現代の合唱音楽も聴かないわけでもないので、このCDおよびタリス・スコラーズの演奏スタイルに対してはじつに複雑な思いを持っております。すばらしい演奏だし、これはこれでアリだと思うけれど、ジョスカンのミサの演奏としては、わたしも百点満点は出せない。ジョスカンの時代らしい空気感がすこしでもあるとよかった。しかしジョスカンのミサでひとつも不満のない演奏など、そもそもありえないのです。

サリー・ダンクリー、デボラ・ロバーツ、ロバート・ハリー-ジョーンズ、ティモシー・ウィルソン、ルーファス・ミュラー、ニコラス・ロバートソン、ドナルド・グレイグ、フランシス・スティールの8人で歌っています。ほかのアンサンブルでも主要メンバーとして歌ってる人がいるし、バロックの声楽曲のソリストとして活躍する人もいます。わたしはこの中でテナーのミュラーだけは、広島でリュート歌曲のコンサートを生で聴いたことがあります。

ジョスカンの《Missa Pange Lingua》は、わたしも歌わせてもらったので分かるんですが、歌い甲斐もあるけどその分ほんとにむつかしいです。アラが出やすい。Kyrieの出だしのテナー、ここからもうたいへんなのよ。ア・セイ・ボーチのはちょっとモヤモヤすぎ。出だしはまちっとクッキリ歌わなきゃ。かといってこのタリス・スコラーズのはア・セイ・ボーチと反対で、出が強すぎる。これは息ためすぎです。あそこでもう「え?」ってなるので、そのあと聴いててもKyrieのはじめのことが気になってしまう。《Missa La Sol Fa Re Mi》についてはあまり語られませんが、これもいい曲ですよ。ほとんど競合盤がないこともあり、落ちついて聴くことができます。この曲もいっぺん歌ってみたいなあ。

それにしてもこのCDが国内盤として出たときの衝撃はすごかった。その時の『レコード芸術』を見たんですが、皆川さんも服部さんも腰を抜かさんばかりに驚いて、そして褒めていらした。

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