歌わない時間

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ロバート・ゴダード『最期の喝采』

2008年08月15日 | 本とか雑誌とか
ロバート・ゴダード/加地美知子訳『最期の喝采』(講談社文庫)読了。休日の半日を使って探偵小説を1冊読みあげる、というぜいたくなことを久しぶりにやりました。590ページ近い分厚い本ですが、朝10時ごろ読みはじめて、夕方5時には読み終えた。『リオノーラの肖像』ほど重厚ではなかったけど、やはりゴダード。いつもながら、よくもあれだけ謎を仕掛けて、そして最後にはとにもかくにも収まるところに収められるものですね。これも買いっぱなしでそこらへんに放り出していたもの。やっぱり講談社文庫はヒラギノ明朝になっていた。しかしW3ではないような気がする。W2だと思う。

旅公演でイングランド南部の保養都市であるブライトンにやってきた舞台俳優が主人公。ブライトンには別居中の妻が住んでいる。彼女からの求めに応じ、彼女を見張る男と接触してストーキングをやめさせようとする。そこから例によって主人公は、とんでもない秘密にずぶずぶ足を取られていくわけですわ。そのブライトンでの一週間の出来事を、主人公が日記がわりにテープに吹きこんだものの書き起こし、の体裁をとった作品です。

まあ、ゴダードのほかの小説と同様、「そんなん無理やろ」と突っ込みたくなるとこはありますね。金曜日に、主人公のトビーが、現在の妻の同居人であるところのロジャー・コルボーンの屋敷に何となく忍び込んぢゃうところとか。いくら奥さんに会いたかったにしろ、あれはあまりに無謀でしょ。まあお話を先に進めるためにはああいうふうにコマを動かすしかなかったのかも知れないけど。それとクライマックスシーンと結末は、やはりあまりにご都合主義よ。

一日で読んぢゃったせいと、ゴダードにはめづらしく一週間という限られた時間にテンポよく話が進むので、なんかね、ディック・フランシスを読んでるような錯覚に襲われました。フランシスの主人公同様、割りにやすやすと敵につかまっちゃうしね。でもディック・フランシスみたいに不屈の闘志で自力で脱出する、とはいかないのがゴダードなのね。

ブライトンは地図で見るとロンドンのほぼ真南、ドーバー海峡に面した街。作中にもちらっと言及がありますが、グレアム・グリーンに『ブライトン・ロック』という小説があって、丸谷才一が訳しています。