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ゲルハルト・リヒター

2022-07-16 23:54:11 | 美術
東京国立近代美術館でゲルハルト・リヒター展を見てきました。

今年一番、楽しみにしていた展覧会です。2005~6年の個展は見に行けなかったこともあり、その後、首をなが~くしてお待ちしておりました。今年はゲルハルト・リヒターの生誕90年、画業60年というキリのいい年でもあるようです。この展覧会では初期作から最新のドローイングまで約120点の作品でその画業を振り返ります。

ゲルハルト・リヒターの画業を通観できる展覧会ですが、構成はゲルハルト・リヒター本人が手がけているそうです。会場では特定の鑑賞順は指定されておらず、鑑賞者が自由にそれぞれのシリーズを行き来できるようになっています。入口すぐ近くには「鏡、血のような赤」が。一瞬、息を飲んでしまうような作品。タイトルからして怖いですが、不肖わたくし、フランボワーズケーキを連想してしまい…(爆)。「8枚のガラス」は覗き込むと何だかくらくらしてきます…。「グレイ・ペインティング」はキャンパスを灰色で塗りこめた作品群。どこかロスコの作品を彷彿とさせます。色を混ぜると最後は灰色にいきつくそうですが、リヒター自身は、灰色は無を示すのに最適、と語っています。「アブストラクト・ペインティング」は自作のへらを使って絵具を引きずって延ばしたり削ったりした作品。モネの睡蓮を想起させる作品もあり、リヒターはこの作品を描いた後、油絵はもう描かないと宣言しました。たしかにこんな作品を描いてしまったら、もう次はないと思えるのかも…。アブストラクト・ペインティングのシリーズの合間に頭蓋骨や花、風景なども描いています。意外なことにこういった時代遅れとも思われるモチーフに憧れがあるらしい…。かと思えば、家族を描いた肖像画のシリーズも。写真を基にして描いたようですが、不思議な仕上がり。家族って身近なようで遠い、よく見ているようで見えていない…そんな存在なのかもしれません。「オイル・オン・フォト」のシリーズは写真に油絵具を塗っています。具象と抽象が混じり合う不思議な感覚。「カラー・チャート」は色見本を偶然によって並べ替えたものに由来しているようですが、色彩の洪水…モンドリアンの作品を思い出したりも。さらに刺激的なのが「ストリップ」。もはや言葉もなくなります…圧巻。「ビルケナウ」は、アウシュヴィッツのビルケナウ収容所で撮られた4枚の写真のイメージを絵具で塗り込めた作品。人類の負の記憶を絵画にするとこういうことになるのでしょうか…。

この展覧会にはこれまで体験したことのない視覚の驚きがありました。純粋な視覚の追求…見るとはどういうことなのか、自分は何を見て何を見ていなかったのか、自分が見たと思ったものは本当は何だったのか…視覚と記憶、思考と感情…そのあわいをたゆたうようにして日々生きているのかもしれません…。
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