あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

水の匂い

2020-05-13 10:20:41 | 日記
田植えが始まる時期を迎えると、思い出す匂いがあります。
田圃に満たされた水の匂いです。
その匂いとともに浮かんでくるのが「みずはぬるみ。みずはひかり。」で始まるこの詩のフレーズです。

※旧仮名遣いを現在の仮名遣いに変えて表記してあります。

     たまごたちのいる風景
                       草野 心平

みずはぬるみ。みずはひかり。あちこちの細長い藻はかすかに揺れる。
ゼラチンの紐はそれぞれ黒い瞳を点じ親蛙たちは姿をみせない。
流れるともなくみずは流れ。かわづらを。ああ雲が動く。

雪があった。そうしていまは班雪(はだれ)もない。
ゆるんだ空気のなかに櫟(いちい)が一本しんとたってる。
藍と白とのするどい縞とおい山脈(やまなみ)はけわしかった。
いまはもう遥かにぽうっとかすんでいる。羊雲がうごくともなく動いている。

みずはぬるみ。みずはひかり。あちこちの細長い藻はかすかに揺れる。
ゼラチンの紐はそれぞれ黒い瞳を点じ親蛙たちは姿をみせない。
流れるともなくみずは流れ。かわづらを。ああ雲が動く。

田ん圃の土手の食パン色の枯れ草には。生ぶ毛をはやした新芽の青も顔を見せ。
春の魁け(さきがけ)いぬのふぐりは小さいコバルトの花をひらいた。
そのコバルトのさかづきに天の光りをみたしている。

みずはぬるみ。みずはひかり。あちこちの細長い藻はかすかに揺れる。
ゼラチンの紐はそれぞれ黒い瞳を点じ親蛙たちは姿をみせない。
流れるともなくみずは流れ。かわづらを。ああ雲が動く。


小さい頃には、用水路沿いに水草に連なるカエルの卵をいくつも見つけることができました。
小魚、メダカ、ドジョウ、ヤゴ、ザリガニ、タニシ、ミズスマシ、ミズカマキリ、タガメ、ヒルなどの姿もありました。
田圃の区画整備に伴い用水路にコンクリート製の枠が埋設され、こういった水生生物の住環境が変わったせいでしょうか。
今では 目にする生き物たちの姿も少なくなりました。
ただ、コンクリート枠が埋設されていない小さな堀では 今でもカエルとともにザリガニやドジョウなどの姿を見つけることができます。



五月に入り、田起こしが済んだあちこちの田圃に水が引かれ、鏡のように水面が光り輝くようになりました。
一部の田圃では、田植えも始まったようです。
『みずはぬるみ。みずはひかり。』
広く区画整理された田圃は小さい頃見た田園風景とは異なっているものの、そこに満たされたみずとその匂いは変わらないままです。

この詩を読んでいると、かっての田園風景の中に自分が立っているような気持になります。

コメント
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