あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

風の市兵衛〈風塵〉を読んで

2013-06-18 21:14:04 | インポート

週末に、楽しみにしていた3冊の新刊本を読みました。朗読漫画「花もて語れ」8巻、「居眠り磐音江戸双紙43巻 徒然ノ冬」、「風の市兵衛 風塵上・下」9巻 です。それぞれの感想をまとめてみたいと思っていますが、今回は「風の市兵衛 風塵上・下」を取り上げることにしました。

風の市兵衛は、辻堂魁作〈祥伝社〉のシリーズものです。渡り用人:唐木市兵衛が剣や算盤で雇い人を助け、活躍する物語です。

市兵衛がどんな人物なのか、登場人物や本人が語る言葉を通して紹介したいと思います。

市兵衛の友である弥陀ノ介が、市兵衛の兄〈片岡信正:十人目付筆頭、弥陀ノ介はその配下にある〉に向かって、市兵衛のことを語る場面があります。

『市兵衛は頼まれると、いやとは言えない男なのです。適当にやりすごす、という融通が利きません。節を曲げぬ頑固者のくせに、妙にあまいところがありますな』  『…甘いのではなく、気のいい男なのです。怒らせると恐ろしい嵐になりますが、市兵衛の心底には気のいい風が吹いておるのです。』 

雇い人である奥平家の御年寄に問われて、市兵衛はこう答えます。

『商いは商人同士の信用がなければ成り立ちません。侍は侍という身分が信用を生みます。商人にはそのような身分はありません。約束を守るという信用が信用を生みます。ですから、商人は商いで交わした約束を守るために己を賭けます。侍が主君への忠義に己を賭けるように。どちらも人の道です。』 この答えに対して、御年寄は『侍と商人が同じだと言うのか』と問います。それに対して市兵衛は次のように答えます。『そうではなく、人の道が同じだと言うておるのです。』

市兵衛は、雇う人々に その誠実な人柄ゆえに信用されます。同時に、雇われた以上はその約束を果たすために、己を賭けます。金のためではなく、信用のために全力を尽くします。その生き方や考え方が、主人公:市兵衛の大きな魅力になっているのが、このシリーズの一番の特徴なのかもしれません。

今回の物語では、:市兵衛と同様に心惹かれる人物が4名登場します。雇い人である元老中:奥平純明、10年かけても その命をねらう安宅猪史郎、奥平とかっては夢を共有した仲なのに安宅の志を支えようとする竹村屋雁右衛門、かっては雁右衛門の妻であったお露の方〈今は、奥平の側室となった〉です。

それぞれの思いと運命が交錯する形で、物語は悲しい結末に向かって流れていきます。それぞれが、人としての生き方を貫ぬこうとするために…… 。人がわかり合うことのむずかしさが重く心に残ります。それでも、市兵衛は市兵衛らしく その狭間を乗り越えていきます。

面白さだけではなく、人としての生き方や在り方を問いかけるところが、他の時代小説とは異なる このシリーズの大きな魅力なのかもしれません。

 

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