そごう美術館で開催中の「没後25年 鴨居玲 終わらない旅」を見てきました。
↑このチラシの酔っ払い親父(作品タイトルは「酔うて候」)のビジュアルが鮮烈で行こうと思っていたのです。
が、気がつけば明日で終了というタイミングに滑り込みで行ってきました。
実物を見るまではちょっと毒々しくて辟易しちゃうかなあくらいに思ってたのですが、ものすごく好みでした。
わたしの中ではこの暗いトーンはちょっとだけ靉光とザオ・ウーキーに通じているなあと思いました。ああ、だから好きなんだなあと。
鴨居玲は即、描けるのが空きだったようで、一時期は油彩を10年くらい描いていないこともあったそう。
いやー、このトーンが目に焼きついて離れません。
鴨居玲の描くフォルムはデッサンを見て分かるのですが、とても的確に人物をとらえておりその形だけで何意をしているのかが一目瞭然。
しかし、塗りはというと暗めでしかもその部分だけ抜いてしまうと何が何やら分からないくらい。
でも、このどんよりとした色彩のなんと心を打つことか!
それでは今回も気になった作品をピックアップ。
・静止した刻
1969年に安井賞を受賞した作品。
デフォルメされた人物のフォルム。明らかにこの人物の顔と手のバランス、おかしいですよね。
この口が気になりました。
この時期に描かれた作品をみるとどれも人物の口が洞窟のように中が真っ黒なのです。
面白かったのは同時期の「ローマ」という作品。
風景画というか建物を描いてるのだけど、入口がこの口と同じで真っ黒くはてしなく暗がりにつながっているのです。
この空虚への入口は興味深いなあと思いました。
・おっかさん
この右のおっかさんがなんともよい。
小汚い犬みたいなんだけど、真剣に息子を叱ってる(怒ってるんじゃないんだよね)姿がなんともいとおしい。
この年、1973年に海外に渡航していたその地で鴨居玲は母の死の報せを聞く。
左の放蕩息子は彼自身なのだろう。
・教会
これは意外でした。
人物の生き生きとしたフォルムもいいですが、こういうシャープな線もなかなかに決まっています。
人物とは異なり、現実離れしたホーリーなトーン。水色、キレイでした。
芥川龍之介[蜘蛛の糸]より
これ、圧巻でした。
もっと寄りで細部をきちんと描いた「蜘蛛の糸」よりもこちらのほうが響きました。
この意図の今にも切れてしまいそうな、自然の摂理の無常さにも通じてる感じがんなんとも得がたいなあと。
あとおびただしい人体が血まみれで折り重なる様は会田誠の「ジューサーミキサー」を想起しました。
・故郷を歌う(故高英洋に)
友人であった高英洋に捧げた作品。
チマチョゴリの女性が力強く歌い上げる。
深い緑の色が心地よい。
シンプルですがこれはこれで直球でグッときますね。
・1982年 私
これは圧巻でした。
何よりも作品のサイズが大きく、この絵のみが区切られたパーティションの中に1点だけ展示されていました。
晩年、自殺未遂を繰り返し、やがて1985年ついに帰らぬひととなる鴨居玲。
これはその死の3年前。
白いキャンバスを目の前にして何も出来なくなった画家=鴨居玲。
そして、彼の周りにはこれまでの作品に登場した人物たちが。
これは彼自身の走馬灯だったのでしょうか。
というようにかなり充実の内容でした。
ほんと行ってよかった~。
明日8/31まで!!