あれから55年・・アンヌのひとりごと

ズバリ!団塊の世代。ひし美ゆり子のブログsince・06・1・14

アンヌへの手紙(リアル・ラブレター)

2009年12月21日 11時47分17秒 | ゆり子のひとりごと
「誘惑の女優列伝P1ひし美ゆり子」のトークイベントにおいて・・



樋口尚文氏が素晴らしいラブレターを、朗読して下さいました。
私、嬉しくて♪嬉しくて♪ここの皆さまに全文をご披露しちゃいま~す。



ひし美ゆり子様

今夜、ひし美さんと私たちが集うこの銀座の奇妙なアンダーグラウンドは、なんと約60年前に作られた、日本で二番目に出来た地下街なのです。華やかな銀座のど真ん中、その真下にこんな闇の世界が潜んでいるのは、なんとも不思議なことですね。まるで都会のビル群の、すぐそこにひょっこり隠れているダーク・ゾーンのようです。アンヌ隊員が活躍した「ウルトラセブン」の第6話「ダーク・ゾーン」には、宇宙から逃げてきた気弱なペガッサ星人が出てきます。あの臆病ですぐ闇の中に逃げ込むペガッサ星人のように、ぼくらはいい大人になっても、幼い頃に観た「セブン」とアンヌの思い出に駆け込んで、癒されているような気がします。


ぼくらにとって、アンヌの何がそんなにかけがえのない思い出だったのか。それは幼い子どもだけが無垢に感じられる夢とめざめの象徴がアンヌだったからです。夢。それは70年万博を目前に控えた当時の、科学と未来の輝かしい夢です。万博のパビリオンのようなモダンなデザインのロケット、車、基地。そこで働くキュートなアンヌ隊員は、わたしたちを科学の夢に誘ってくれました。そして、めざめ。ぼくらは、当時誰も恥ずかしくて語り合いませんでしたが、ひそかにアンヌ隊員のキュートな雰囲気に恋していました。そこに、来るべき性のめざめの予感を、ぼくらは感じていたのです。こんな夢とめざめの象徴であるアンヌは、いわばぼくらの大切な子どもの時間そのものの記憶としてあるのです。そんなアンヌを演じてくださったひし美さんと、今こうしてお会いできる僥倖を、M78星雲の光の国に感謝せずにはいられません。



ああ、それにしても・・・60年の時間がこの地下街の太い柱を歪ませるように、あの42年前の「セブン」とアンヌに夢中だったぼくらも、輝いていた夢がずっしりとした現実に軋まされていることを感じずにはいられません。あの頃の未来にぼくらは立っているのかな、全てが思うほどうまくはいかないみたいだ、という歌がありましたが、はたしてぼくらが今立っているのは、本当にあの「セブン」とアンヌが夢見させてくれた未来なのだろうか。そうため息をつかずにはいられません。恐るべき科学の進歩が生み出したものは、人と人がぎすぎすと孤立し、疲れきった世の中ではありませんか。アンヌに夢見、めざめた子どもたちは、今こんな社会の前線に立って、日々いらだち、うなだれ、傷つき、くたびれ果てているかもしれません。しかし、ぼくらは挫けてはいられないのです。



 子どもは、ただ挫折してゆくだけの希望のかたまりである。とある世界的に知られる児童文学の作家が、そう言いました。わたしは、その言葉を聞いて胸いっぱいのせつなさがこみあげました。確かにそうかもしれない。それがいつの世も、子どもの、いや人の運命なのかもしれない。しかし、それならばこそ、子どもはあらかじめ溢れかえるような希望や夢を与えられるべきではないか。ひし美さんがアンヌというかたちを借りてぼくらに与えてくれた夢とめざめの記憶は、時おり挫けそうになるぼくらを、未だに励ましてくれる。そんな夢が儚い幻であれ、ぼくらは、今度はぼくらの子どもたちに精一杯夢を見させてあげなくてはいけない。モロボシダンほどではなくとも、お父さんは子どもたちのヒーローでなくてはならない。そうでなければ、われわれに夢をくれたアンヌに申し訳がない。だから、ぼくらは負けるわけには行かないのです。



 ひし美さん、あなたがくれた夢を、日本じゅうのあの頃の子どもたちが、きっと今もどこかで次の子どもたちに申し送りしていることでしょう。素晴らしい思い出を本当に、本当にありがとうございます。

 

      平成二十一年 師走のダークゾーンにて

                                樋口尚文拝