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TVドラマ『僕の歩く道』第十話の全容

2006年12月13日 21時40分40秒 | Weblog
ドラマ『僕の歩く道』第十話~涙で、愛がみえない~
いよいよ、このドラマも次週が最終回です。自閉症の本人の辛さも
当然ですが、その家族にも大変な重い負担が掛かっているのですね。
こんなこと、普通の家庭では、全然分かりませんものね。このドラマ
は、何度見返しても、心に同じように響いてきます。こんなドラマは、
私には初めてですね。感動の上に、さらに感動が積み重なっていく
ようです。
 ここで、12月12日放送の第十話の全容を、ブログ「どらま・のーと」
さんからの転用で記載させていただきました。本当に、重い話ですね!

<第十話ー涙で、愛が見えないーの全内容>
『涙で、愛が見えない』

輝明(草なぎ剛)の胸で泣く都古(香里奈)。
「手紙、出したから。」
「うん。・・待ってる。」
「・・・」
「・・・ごめん。」都古が離れる。
「どうしたの?」
「・・ううん。何でもない。」
「・・・」
「ロードバイク、カッコイイね。
 見せに来てくれたの?すごいよ、テル。」
「・・・」
「せっかく来てくれたんだけど、私行かなきゃいけないから。」
「どこに?」
「仕事。」
「河原さんの動物病院。」
「うん。」
「約束だからね。」
「え?」
「結婚ていうのは、ずっと一緒に仲良くしようって
 約束すること。」
「・・・うん。」
穏やかに微笑むテル。

「来てくれてありがとう。
 じゃあね、バイバイ。」都古が微笑む。
「バイバイ。」
テルを越すと、都古は悲しげな表情に戻り、仕事に向うのだった。

テルは都古の悲しそうな背中を見つめ・・・。

自転車で家に戻るテル。

『都古ちゃんへ
 今日は、仕事がお休みでした。
 ロードバイクに乗りました。
 都古ちゃんが泣いていました。』

動物病院。
動物に元気な笑顔で接する都古。

手紙を書き終えたテルは、どこか元気がなく・・・。

ベッドに入っても、横になろうとしないテル。
彼の瞳から、涙がこぼれる。
しばらくするとテルは横になるが、
眠れないのか、悲しそうな表情で天井を見つめ・・・。

都古の涙、悲しそうな背中を心配しているんですよね・・・。

輝明は自転車で亀田(浅野和之)の喫茶店へ。
「ロードバイクに出会ってしまった者は、
 やがて、新しい自分に出会うことになる。
 ロードバイクに乗っているとね、
 新しい世界が見えてくるんだよ。
 走るのは気持ち良いだけじゃない。
 辛い時だってある。
 風を感じ、空を感じ、大地を感じながら、
 辛さを乗り越えた時、
 そこにはどんな世界が待っていると思う?」
亀田を見つめる輝明。
「それは、ロードバイクに乗る者だけが知ることが出来る
 世界なんだ。」
「・・・」

自宅の部屋で、チラシを見つめる輝明。
『17th TOHTO CYCLE ROAD RACE 40km 12.16』

大竹家のキッチンに秀治(佐々木蔵之介)がやって来た。
「りな、ちょっといい?」
「やだ。」
「俺が説教するとでも思ってるのか?」
「そうでしょ。」
「ああそうだ。」
りなが読んでいた雑誌を取り上げる秀治。
「大学卒業したら、家出るんだって?
 どうして。」
「・・・」
そこへ輝明が降りてきた。
気を取られた兄から雑誌を取り戻すりな。
「お兄ちゃん、こんばんは。」
「こんばんは。」
「・・・」
「どうした?」
「お風呂?」と里江(長山藍子)。
輝明はイスに座り、ちらしをテーブルの上に置く。
「レース?」とりな。
「うん。」
「見に行きたいの?」りなが聞く。
「・・・」
「もしかして、出たいの?」とりな。
「まさか。」と秀治。
「出たい。」
「は!?」秀治が驚く。
「これ、どれだけ走るの?
 40キロだよ。
 40キロって、ものすごーく長いんだよ。」
「そんな長距離、危険だし、
 大勢の人が参加するんだろ?
 そういう場所輝明苦手なんだから。
 周りに迷惑かけるだろうし。
 それに、大体、レースって競争だよ。
 輝明は、競争がどういうことかわからないだ。」
「うん・・。ちょっと、照明には難しいかな。」と里江。
「はっきり無理って言った方がいいよ。」と秀治。
「・・お風呂、入る。」
「輝明!レースは、無理。わかった?」
「お湯の温度は39度。」輝明は兄には答えず風呂場に向う。
「無理かどうかはわかんないじゃん。」
「輝明のことはともかく、 
 りなはどうなんだよ。
 うちを出てどうするの?やりたい事はなに?」
「もういいでしょ。」
りなはそう言い二階に上がってしまった。

「何考えてんのか・・・。」
里江は輝明が置いたチラシを手に取り・・・。

『都古ちゃんへ
 今日は、動物園に仕事に行きました。
 亀田さんの店に行きました。
 レースに出たいです。』

料理をする都古。
「ただいま。」河原(葛山信吾)が戻ってきた。
「お帰りなさい。」
「何作ってるの?」
「明日の準備。」
「なんか疲れてる?
 大丈夫?明日。」
「うん。大丈夫。」
「そう。よろしくな!
 みんな楽しみにしているから。」
「結局何人来る?」
「8人。」
「わかった。」
「8人も来たらここも狭いよな。
 そろそろマイホームも考えないとな。
 あと子供のこともな。」
「子供?」
「結婚したら子供を持つものだろ?
 子供がいるってことは、家庭円満ってことだし、
 子供がいたら離婚になんか。
 ・・・あ、いたんだよ。
 子供がいたら離婚になんかならなかったってやつが。
 斉藤ってヤツなんだけど。
 ・・そいつの話はどうでもよくって。
 都古だってそろそろ考えるだろ?
 マイホームとか子供。
 家族設計っていうの?」
「・・・うん。そうだね。」都古は微笑みを浮かべてそう答える。

翌日。
部屋の掃除をする都古。
花を生け、料理の準備をし、テーブルに並べ・・・。
その様子に満足げな河原。
浮かない表情の都古。

フライパンがジュっと音を立てる。
慌てて戻るが、ニンジンのグラッセが焦げ付いてしまっていた。
それをボーっと見つめる都古・・・。

「ワイン買ってくる。」河原が声をかける。
「私もスーパーへ行く。」
「うん?何買うの?」
「ニンジン、焦げたから。」
「いいよ、わざわざ。
 他にもたくさん食べるものあるんだし。」
「ううん。作り直す。」
都古はエプロンを外し、スーパーに走る。

ニンジンを手に取り、レジに向おうとする都古は、
人とぶつかり、その反動で山積みされたジャガイモにぶつかる。
ジャガイモがフロアーに転げ落ちていく。
その様子を、ただ呆然と見詰める都古。
持っていたニンジンを落とし・・・。

河原がワインを買い帰宅する。
だが、都古は戻ってこない。
イライラと待つ河原が寝室を覗くと、クローゼットが開けっ放しに
なっている。
都古の服がかかっていた場所には空のハンガー。
「都古・・・。」
サイドボードには、都古の結婚指輪が…。

その頃、都古は電車に乗り窓の外の景色をぼーっと眺めていた。

カバンを一つ下げ、夕焼けに染まる浜辺を歩く都古。
海を見つめ・・・。

大竹家で秀治の家族も一緒に夕飯を食べている。
「先輩の会計事務所が、りなのこと雇ってくれるって言ってる。
 いい話だから考えてみたら?」秀治が言う。
「・・・」
「聞いてる?」
「うん。」

「あ・・・」と幸太郎(須賀健太)。
「どうしたの?」と真樹(森口瑤子)。
「輝明おじちゃん。どうしたの?」
幸太郎の言葉に、みんなが輝明を見る。
輝明の瞳から涙がこぼれ落ちる。
輝明は何も言わずに、ご飯をよそりに炊飯器へと立つ。
心配する一同。
「輝明。涙が出てるから拭きなさい。」
里江がティッシュを渡すと、輝明は涙を拭き、
何事もなかったように食事を続ける。

「今日は仕事、しっかりやれた?」里江が聞く。
「やった。」
「何か、嫌なことあった?」
「ない。」
「お昼ごはん、何食べた?」
「チキンカレー。」
「美味しかった?」
「美味しかった。」
「そう・・・。」

「何でもないんじゃない?」とりな。
「泣いているのに?」声を潜めて真樹が言う。
「たまに、変なときに突然泣くことがあるんです。
 よくわかんないけど。ね?」
「ああ。」と秀治。
「大丈夫だって。
 お兄ちゃん食欲だってあるし。」
りなが、心配そうに輝明を見つめる里江に言う。

輝明の机の上には、都古へのハガキとロードレースのチラシ。
ベッドでぐっすりと眠る輝明。
その顔を優しく撫で、涙の流れた場所に触れてみる。
ベッドに腰掛け、輝明の寝顔を見つめる里江・・・。
廊下を通りがかったりなは、そんな母の姿を見つめ・・・。

「寝てる?」戻ってきた母にりなが聞く。
「うん。ぐっすり。」
「ほら。やっぱり何でもないよ。
 お兄ちゃん何かあったら、眠れなくなるんだから。」
「・・・うん。」
2人が部屋を出ていく。

きっとりなは、こんな里江の姿を何度も何度も見てきて、
そのたびに寂しい思いをしてきたんですね。

輝明は何かあったら眠れなくなる。
都古がテルの胸で泣いた日。家族にレースを反対された日。
輝明は眠れずにいました。

その頃都古は、一人で旅館に泊まり、眠れない夜を過ごしていた。
河原から携帯に電話が入るが、都古は出ようとはしなかった。

河原家。
夜の11時、都古に電話をする河原。
テーブルの上には、朝と同じ状態で食事が並べられたまま・・・。

朝6時過ぎ。河原からの電話。
都古は携帯を見ようともしない。

輝明は、いつものように都古宛のハガキを投函。

りなが起きてくると、里江は出かける支度をしていた。
「どこか行くの?」りなが聞く。
「動物園。」
「お兄ちゃんの?」
「やっぱり、何か変わったことがないか、
 園長さんに聞いてみようと思って。」
「何かあったら向こうが言ってくるでしょ。
 わざわざ行くことないよ。」
「何もないと思うけど・・・
 行ってくる。」
「・・・」

動物園。
いつものように、三浦(田中圭)と掃除をする輝明。
「ロードバイク乗ってます?」三浦が聞く。
「はい。
 仕事が休みの日に乗ってます。」
「気持ちいいんだろうな~!」
「風を感じ、空を感じ、大地を感じながら、
 辛さを乗り越えた時、
 そこにはどんな世界が待っていると思う?」
「・・・はい?」
「それは、ロードバイクに乗る者だけが知ることが出来る
 世界なんだ。」
一点を見つめ、少し微笑みそう語る輝明。
三浦が優しく微笑む。

古賀(小日向文世)と久保園長(大杉漣)が里江の応対をする。
「仕事中、とくに変わった様子はないと思いますよ。」と古賀。
「そうですか。」
「何か、気になることがあったんですか?」と久保。
「ええ。何でもないことだと思ったんですが、
 念のため、お話を伺おうと思いまして。」
「そうですか。
 何か気になることがありましたら、すぐにお知らせしますから。」
「ありがとうございます。
 よろしく、お願いいたします。」

夜。
ベッドでぐっすりと眠る輝明。

里江は台所のテーブルに突っ伏し、眠っている。
そこへりなが戻ってきた。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
「遅かったのね。
 輝明、動物園で、とくに変わったことないみたいだった。」
「・・・そんなの最初からわかってたじゃん!」
りなはそう言い、部屋に駆け上がる。

旅館。
膝を抱え、考え込む都古。

亀田の喫茶店に並ぶ2台のロードバイク。
輝明は、店内に張ってあるレースのポスターをじっと見つめ・・・。

公園を並んで走る2台のロードバイク。
亀田と輝明だ。
輝明を気遣いながら走る亀田。
輝明は微笑みを浮かべ、気持良さそうにバイクを漕ぐ。

大竹家。
秀治が台所にやって来た。
「りなは?」
「今日も遅くなるんじゃないかな。バイトがあるから。」
「りな・・何か目的があって、うちを出るって言ってるんじゃ
 ないんじゃない?」
「どういうこと?」
「お袋を心配させたいだけなんじゃないかな。
 子供の頃から、お袋は輝明のことで頭が一杯だった。
 とくに昔は、今よりずっと、自閉症を理解してもらうのが
 大変だったから。」
「・・・」

その頃りなは、堀田(加藤浩次)に会いに行っていた。
「大学を卒業したら、家を出ようと思うんですけど、
 やっぱりお兄ちゃんのことを思うと複雑で・・・。
 最近夜眠れないし。」
「輝明さんのことが心配なんですね。」
「・・・」
「りなさん。
 今日は、あなた自身のことをお聞きしましょうか?」
「え・・・」

大竹家。
台所のテーブルに、秀治と里江が向き合って座っている。
「お袋は、わかっていたはずだよ。
 りなが寂しい思い、ずっとしてたこと。
 お袋に、甘えたくても甘えられなかったこと。
 ・・・お袋が、りなにずっと甘えてきたから。」
秀治の言葉にうつむく里江。
そこへ輝明が帰ってきた。
「お帰り。」と秀治。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」玄関に行きスリッパを出す里江。

輝明がうがいを始めると、里江は再び席に付き
輝明の様子を見守る。
「・・・」輝明が二人の前に立つ。
「どうした?」と秀治。
「出たい。」輝明が答える。
「出たい?」
「出たい。」
「・・何のこと?」秀治が里江に聞く。
「ロードバクのレース?」と里江。
「・・・」
「そうなのか?」と秀治。
「はい。」
「・・・まだそんなこと言ってるのか。」
「出たい。」
「無理なものは無理。」
「出たい。」
秀治が立ち上がる。
「出たいなら自分ひとりでやれよ!
 人の手を借りて当然だなんて思うな。
 人に迷惑をかけて当然だなんて思うな!
 ずっと兄妹が面倒を見てくれるだなんて思うな!」
「秀治!」里江が止める。
輝明は黙ったまま二階に上がってしまう。

「輝明に当たらないで!」と里江。
「お袋・・・気付いてたよね。
 小学校の時、輝明のことで俺がいじめられてたの。」
「・・・」つらそうな表情を浮かべる里江。
「じゃあ・・輝明がクラスで問題を起こす度に、
 輝明の担任が俺に不満ぶつけてたことは?」
「・・・そんなことが、あったの?」
「ああ。
 いい迷惑だったよ。」
悲しそうな表情で秀治を見つめる里江。
秀治が二階に上がっていくと、里江は堪えきれずに涙を流した。

堀田に語るりな。
「母に何か話をしようとしても、
 ちょっと待ってって言われました。
 母はお兄ちゃんのことをしていました。
 母の話はよく聞かされました。
 ほとんど愚痴です。
 お兄ちゃんのことで疲れると、
 私に愚痴をこぼすんです。」
「辛かったですね。」
「しょうがないと思っていました。
 父は、お兄ちゃんのことを母に任せきりにしていたし、
 母は本当に辛そうでしたから。」
「あなたのお陰で、お母さん、ずいぶん助かったんでしょうね。」
「・・・」
「でも・・りなさんは、ずっと我慢してきた。
 自分の気持ちを抑えてきたんですよね。
 本当は、どうしたかったんですか?」
「・・・お母さんに・・・甘えたかった・・・」
りなはそう言い、泣き出した。
子供が泣きじゃくるように、号泣するりな・・・。

秀治の家。
夕飯の支度をしながら真樹が秀治に言う。
「ねえ、今日テレビのドキュメンタリーで見たんだけど、
 自閉症の人たちが、4人で一緒に暮らしてた。
 結構自立できている人たちで、
 あ、もちろん、食事の世話をしてくれる人たちは
 ちゃんといるんだけどね。
 それって、グループホームっていうのね。
 輝明さんよりも自閉症が重いような人たちもいたんだけど、
 あー、ちゃんと親元離れても、暮らしていけるんだなー、」
「黙っててくれないかな!!」珍しく、秀治が大声を出す。

輝明は部屋でレースのチラシを見つめ・・・。

りなの帰宅を待つ里江。
「ただいま。」りなが帰ってきた。
「お帰りなさい。」里江が玄関に出ていく。
「・・ただいま。お風呂入るね!」
「はい。」笑顔を見せる里江。

ツール・ド・フランスのビデオを見る輝明。

リビングのソファーで考え込む里江。
お風呂から上がったりなは、母の疲れた背中を見つめ、
肩を揉み出す。
「・・・気持いい・・。」
母の言葉に、りなが嬉しそうに微笑む。
里江が、りなの手に自分の手を重ねる。
「りな・・・。
 ごめんね・・・。」
里江がりなの手を両手で握り締める。
その手を見つめるりな。
そしてりなは、母の背中からそっと手を回し、抱きしめる。
りなの頭を撫でる里江。

そんな2人の姿を見つめる秀治は・・・。

ツール・ド・フランスのビデオを見る輝明。
「輝明。入るよ。」
秀治が部屋に入っても、ビデオを見つめる輝明。
秀治は、レースのチラシがゴミ箱に捨ててあることに気付く。
「輝明。」
「はい。」
「レース、出たいの?」
「・・・」
「小学校の時の運動会、覚えてる?
 かけっこ。
 輝明、競争の意味もよくわからなくて、
 コースをちゃんと走れなかったんだよな。
 自転車のレースのコースって、」
「お兄ちゃんが、手を引いてくれた。
 かけっこ、お兄ちゃんが、手を引いてくれた。
 ありがとう。」
輝明は兄に視線を合わせそう言うと、またテレビに視線を戻す。
輝明の横顔をじっと見つめる秀治・・・。
「・・・さっきはごめん。キツいこと言って。」
秀治はそう言うと、輝明が捨てたチラシをゴミ箱から拾い上げ、
そしてそれを机の上に置くのだった。

都古は黙って家を出てから、孤独が募っていた。
携帯を手に取り、アドレス帳を開く。
『大竹』を表示させ、電話をしようか考える都古。
時刻は、0時19分・・・。
次に、『お母さん』のところで考える。
だが、都古は携帯をパタンと閉じるのだった。

動物園。
ジンジンを膝に乗せ、エサを与える輝明。

帰り道。
都古との思い出の広場を自転車を押して歩く輝明。
あの木の葉っぱはほとんど落ちてしまっている。
輝明はふと、木を見上げ、そしてまた歩き出す。

家に帰った輝明は、うがいを済ませ、部屋に上がろうとすると
家の電話が鳴る。
少し迷いながらも、受話器を取る輝明。
「はい。」

電話をかけていた都古は、照明の声に驚く。
「・・・」

「・・・」
「・・・」
「・・・都古ちゃん。」
輝明に名前を呼ばれて、慌てて携帯を切る都古。

「お帰り。」りなが声をかける。
「ただいま。」
「電話かかってきた?」
「うん。」
「誰?」
「都古ちゃん。」
「何だって?」
「何も言わなかった。」
「え?」
輝明は部屋に上がっていく。

「ごめんね、テル・・。
 約束・・守れなかった。」
海を見つめて涙する都古・・・。

日も暮れたころ、旅館に戻る都古。
都古の携帯が鳴る。
「もしもし?都古。
 明日ランチしない?」事情を知らない千晶(MEGUMI)からだった。
「・・・」
「もしもし?
 ・・・今どこ?」
「・・・」

動物園。
ジンジンにエサをあげていた輝明は、三浦に言う。
「三浦さん。
 ジンジンが元気じゃありません。」
「エサ食べました?」
「食べません。」
「田原先生に見てもらいましょう。」
「はい。」

海岸に腰掛け、海を見つめる都古。
「都古!ランチしよう。」千晶がやって来た。

「いい所だね。
 暫くここで、のんびりするのもいいんじゃない?」
「のんびりなんて出来ない。
 どんどん落ち込む。
 時間が経てば経つほど、自分がどんどんダメに思えてくる。」
「暇な時間が多いから、そういうことばっかり
 考えちゃうんだよ。
 ・・・都古、全然寝てないでしょう。」
「眠りたくても眠れない。」
「いつから?」
「家を出る一週間ぐらい前から、落ち着かなくなって、
 寝付けなくなった。」
「帰ろう、安心して眠れる場所に。」
「どこに帰ればいいの?」
「うちおいでよ。」
「・・・」
「都古?」
「うん?」
「もしかして、お母さんのこと考えてた?」
都古が小さく頷く。
「お母さんも変わったんじゃない?
 年も取ったことだし。」
「お母さんの所へは絶対に帰らない。
 昔も今も、お母さんの所は私が安心できる場所じゃないから。」
都古はそう言い海を見つめる。

ジンジンを抱き、優しく撫でる輝明。

都古は母を訪ねていく。
集合住宅のベランダに、洗濯物を取り込む母の姿があった。
都古は携帯を取り出し、母親に電話をしてみる。
「はい、もしもし。」
「お母さん?都古だけど。」
「今どこにいるの!
 河原さんから連絡があったけど、
 うち出たってどういうこと?」
さっきまで母がいたベランダを見つめる都古。
「ごめんなさい。」
「すぐに河原さんの所に戻りなさい。」
「お母さん、私の話も聞いてよ。」
「どうせ都古が悪いんでしょう。
 離婚なんて絶対にダメよ。
 親が離婚しているからって言われるから。
 早く帰って河原さんに謝りなさい。いい?わかった!?」
「・・・じゃあね。」
母の言葉に絶望した都古は電話を切り、実家に背を向けた。

行く場所を失った都古は、バス停のベンチに座り込む。
バスが止まっても、それには乗り込まず・・・。
都古は涙をぽろぽろとこぼし、泣いていた。

「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」

行く場所を失った都古が安心する場所を求めて訪れた場所は、
動物園だった。

三浦の姿を見かけた都古は、声をかけずに引き返していく。

夜。
動物園の入園口。
入り口の側にはテンジクネズミの小屋がある。
「ジンジン。」都古が語りかける。
その時、門の開く音。
「こんばんは。」都古が挨拶する相手は・・・輝明だ。
「都古ちゃん・・こんばんは。」
「まだ、いたの?」
「ジンジンが元気じゃないから。」
「・・・」

輝明は都古を事務室に連れていく。
「誰もいないの?」と都古。
「三浦さんが、動物たちの様子を見にいってる。」
自分の席に座った輝明が答える。
「そう。
 少し、ここにいてもいい?」
「うん。」
都古が席に付く。
「手紙、出したから。」
「うん。待ってる。」
「アメリカビーバーは、北アメリカの河川や池に
 広く分布しています。」
勉強を始める輝明。
そんな輝明の背中を見つめる、都古の顔に微笑が浮かぶ。

ふと、輝明が振り返ると、都古は机に突っ伏し、
安らかな寝顔を浮かべて眠っていた。
輝明は自分の上着を脱ぎ、都古にかけてあげ、
そしてまた、勉強を始めるのだった。

ドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』

2006年12月13日 00時42分47秒 | Weblog
 ドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』試写会に行ってきました。この手の映画は、本当に重く、単なる映画として観れない、現実を突きつけられてしまうもので、心に「ズシッ」としたものを感じてしまいます。これは、脚色だとかで、逃れられない閉塞感があります。「現実を見ろ!」っと突きつけられたとしても、余りに直球で投げ込まれると、反応に躊躇してしまいますよね。実際の映像は、それ程の重みがあるのです。
 アフリカのタンザニアに面している広大な湖「ビクトリア湖」。ここに、「ナイルパーチ」という大型の外来肉食魚を放流したことで、湖の生態系が大幅に変革される。それまで、淡水に多くいた在来魚が全てこのナイルパーチに食べられ、絶滅の危機に陥る。しかし、このナクルパーチという魚は、白身魚として重宝され、切り身は、ヨーロッパや日本に大量に輸出される。マクドナルドの白身魚・フィレオフィッシュのような類の魚なのです。これほどの需要により、ビクトリア湖には、西洋資本の大規模魚加工工場が多く出来て、地元の猟師は工場にのこのナイルパーチを売る事で収入を稼ぐ。加工行程での仕事は、現地従業員で賄うのだが、加工行程による付加価値で、現地の大多数の一般人には、到底手の届く魚ではなくなってしまう。おまけに、それまで獲っていた在来魚はほとんどいないため、人々の口に入るのは、この魚の解体後の頭と多少肉のついた骨しかない。これを大量に仕入れて、天日に干し油で揚げて必要としている一般人に売る業者により、食が保たれている状況。このゴミクズのような解体残飯は、トラックで運ぶ最中、腐敗し、ウジやハエの塊のようになる。「こんなもの食べれるの?」と言う、悲惨な食物なのです。この映像は、劇場の場内大多数の観衆からどよめきが起きたほどの、凄まじい見るに耐えない映像でした。また、生きていくための10ドル程度の対価による売春、食も無くやせ衰えるストリート・チルドレンたち、僅かな食料を奪い合い、殴り合いをする日々、苦しさから、ナイルパーチを梱包するプラスティック容器を火で溶解し、その有害ガスを吸って一時的に麻薬のように天国の夢心地になる。そんな有害ガスを吸えば、大半が寝入ったまま、二度と眼を覚まさない状況に陥ってしまう。しかし、毎日、タンザニアの空港には、魚運搬の輸送機が離発着している。飛来する時は、弾薬や武器を運搬、帰りは、山ほどの魚の冷凍切り身を携て・・。その武器により、毎日、内戦や戦争が起こり、多くの人たちの生命が失われていく。あまりにも酷い悪夢のようなグローバリゼーション。誰が、こんな連鎖を歓迎するのだ!!しかも、そんな重大な部分を、日本人が係わっているとは・・!絶句である。
 この映画は、淡々とした現実を映す映像とインタビューを中心に構成されている。この中で、こんな事をやっていることが、良いとか悪いとかの、批評じみた言葉は一切無い。自分が見た映像で、自分で判断する事しかない。あまりにおぞましい現実がここにある。僅かな先進国の人間により、地球のほとんどの富が支配されている現状は、いいのか?地球人口の80%以上の人たちは、今も飢餓で死滅している状況は、人間として許容出来るものなのか?このドキュメンタリー映画で、多くのことを考えさせられた!