アグリコ日記

岩手の山里で自給自足的な暮らしをしています。

豊かさの秘訣

2024-03-09 11:45:38 | 思い
私がこの地に越してきた22年前、それまでの農業経験から、作物は必ず無農薬・無化学肥料で作ろうと決めていた。そこでさっそく土作りに励んだのだったが、なにぶんそこは長年の慣行栽培で土は汚染され生態系は破壊されていた。簡単にはできない。どうしても農業を軌道に乗せるには時間がかかってしまう。そこで私は、玄米と野菜、そしてそこらに生えている野草を食べることにした。持ち金をできるだけ減らさないためである。また当座の生活費を得るために、土木仕事や草刈り、日雇いなど、手に入る仕事はなんでも引き受けた。
そうして5年、10年と過ぎていった。その間無農薬栽培の方はかなり成功したと思う。ただどこまでも理想を追い続けるものだから、できた農産物は市場経済の中で売りに出せるようなものとはならなかった。収量の割に、あまりに手を掛けすぎているのである。とにかく自分が食べたいと思うものを作りたい。最高のものを作りたい。そのようなものでなければ人に売って食べさせようとは思わない。その点、私は妥協を知らなかった。その結果、朝から晩まで農業に明け暮れてはいたが、いつまでも農外収入と野草で暮らしていく毎日だった。そしていつまでもお金が無い生活が続いた。
そんなある時、ふとどうして自分はこんなにも稼いでいないのに、こうして健康でいれるんだろうかと思った。とりあえず食べるものにも困らず、日常生活もそこそこできていて、喜びや楽しみもそこそこある。猫たちもみな元気で喜んでいる。必要だと思うものは結果的にどういうわけか手に入った。思えば不思議だ。当時はまだ廃屋に近い状態の家に住んでいたし(今はだいぶ修理した)、服もほとんど貰い物、徹底してお金を使わない生活を貫いていて、誰が見ても「極貧」に近い生活だったのだ。
こうして稼がないのに生きている自分と、世間のみんなとの違いはいったいなんだろう。そう考えたときに、きらりと思い当たるものがあった。
私はいつも草に、木に、動物に話しかけている。田んぼの中を歩いて水の中の虫たちに、トンボやクモに、畑の中で作物や草たちに、敷地内に植えた木々を見てはいつも話しかけていた。よく育ってくれてありがとう。お前たちがいてくれるから生態系がこんなに豊かだ。作物も健康に育ってくれる。ありがとう。私から出る言葉はそのほとんどが感謝を伝えるものだった。
これだ!これが明らかに私と他の人々との違いだった。その人の中の感謝の思いは、植物や動物、また人に対する接し方、扱い方によく表れる。そうか、お前たちは私のその思いを受けて、それに応えてくれていたんだな。その時私は確信した。これが、私が今までやってこれた理由だった。私は多くのものに感謝をするのが当たり前の暮らしをしてきたが、対して生きものを生きものとも思わないような暮らし方をしている人たちは、いまだに眉間に皺を寄せ、たくさんお金を稼いではいても常に足りない、不満だと言いたげな顔をしている。幸せには見えない。その家族も同じようになっている。
これが、私が人生でもっとも大切なことのひとつに気づいた瞬間だった。私のハートは開かれた。「自分の発したものが還ってくる」これは宇宙の法則であるが、当時はそんなことは知らなかった。私は無意識に「感謝」という宇宙最高の愛を発することによって、常に「感謝する」状況を招き寄せていたのだった。
これは相手が人の場合にも当てはまる。たとえその人から還ってこなかったとしても、発した愛は無くならず必ずどこからか、違った経路を巡って還ってきている。そのことを知った時、私は涙がこぼれるほどに嬉しかった。愛はひとつも無駄ではなかったのだ。

以来、私はこの「感謝」を生活のあらゆる側面に敷衍してきた。そうして気がつけば、モノにもお金にも、なんにも困ることがないとても豊かな暮らしになっていた。相変わらずたいして稼いでいない。収入はよく稼いだ方で一般的な労働者の5分の一くらいだったろう。特に今となっては年金で充分にやっていけるので更に豊かになっている。なによりも家の周りの植物も動物も、私の家族はみんな豊かで幸せに生きている。
こんな暮らしを見て「いったいどうしてやっていけてるの?」と尋ねてくる人には、「感謝してるからだよ」と答えることにしている。実際そうなのだ。それが私の、豊かさの秘訣だ。他の人より多く働くことでも、他から奪うことでも要領よく渡り歩くことでもない。すでに持っているもの、当たり前にあるようなものをありがたいと思って生きる、これがこの暮らしの中で私が見つけた、最大の宝ものである。
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