猫のコマリンは「困った子ちゃん」です。いや、なにも問題のある子、というわけではなくて、ただいつも何となく困ったような顔をしているから、みんなからそう呼ばれています。確かに彼女はお母さんのお腹の中から生まれて来た時には、もうそんな顔をしていたのでした。でも当のコマリンは、そういう風に言われることがとても嫌いです。
コマリンはもう生後7ヶ月。人間で言えばちょうど思春期に当たります。体も成長して大きくなり、もう少しで一人前のおとなに変わるところなのでした。
ある日、コマリンは畑の土手に坐って空を見上げていました。
「どうして私はいつもこんなに困った顔をしてるのだろう。もっと晴れ晴れとして明るい顔に生まれればよかった。そうすれば将来素敵な男性と恋愛して、幸せな家庭を持つこともできるだろうに。こんな顔を持ったばかりに、私はいつも不安なことばかり考えてしまう。・・・」
と、その時、西の空から一頭の馬が駆けて来ました。子馬です。けれど銀色の大きな翼を持って、まるで滑るように大空を駆けて来ます。後ろには金色の馬車を引いていました。
「アンタだね。アタシたちを呼んだのは・・・」
手綱を引き締めながら、馬車に乗った太ったタヌキは言いました。
「え? と、特に呼んでないけど・・・たぶん、人違いだと思います。」
コマリンは驚いて答えました。空から馬車が現れたのも不思議なのに、どうやらその馬車がコマリンのために現れたと言っているのです。
「ふん。そんなことを言ったって、ちゃんと顔に書いてあるよ。
この馬はケレリス。いつもはお空に住んでいるんだけれど、時々こうして降りて来ては、アンタみたいな子たちのために必要なことをしてあげる。彼はとても鼻がいいんだ。
さあ、早く乗った。乗った。」
タヌキに急かされてコマリンは彼女の横にちょこんと座りました。前では馬が銀色の翼をひと振りゆるやかに羽ばたかせます。「あぁ、きれいだな。」次の瞬間コマリンが辺りを見回すと、驚いたことに馬車はもう透けるような青空の中にふんわりと浮かんでいるのでした。下を見下ろせばさっきまで自分のいた畑が、ずうっと下の方に小さく見えます。
「うわア! 鳥になったみたいだ!」コマリンは思いました。
「隠したって駄目さ。アンタはさっき悩んでいたね。しかも未来をたくさん背負った子どもに似つかわしくないことで。
このケレリスは、そんな子をほっとけないのさ。まあ、時には悩むのもいいんだけどね。子どもは子どもに相応しくアタシのように」
タヌキは自分のお腹をポン!、と叩きました。
「太っ腹でいなきゃあ! さあ、ケレリスがアンタに見せたいってとこがあるそうだから、アタシたちも行ってみようじゃないの!」
「ああ! なんてきれいなんだろう!」
コマリンはどれもこれも初めて見る景色に我を忘れて、いつしかその目は大きなまあるい鏡のように見開かれていました。
「ホラ、今のアンタ、全然困った顔をしてないだろう?」
マルダヌキはズボンに挟んでいた手鏡をゴソゴソと取り出してコマリンに見せました。
そう、今のコマリンは全然困ってなんかいません。目は大きくキラキラと輝いて、とても魅力的なのでした。
「ホントだ! 私の顔、輝いてる!」
「誰だって。輝けるものなのサ。
でも自分は駄目だと思う、その心がせっかくの顔を曇らせてしまう。
お空のように晴れたり曇ったり、時には雨が降ったりして少しずつ、
アタシたちは自分の顔っていうものを、作っていくの。だから自分の顔をお母さんだとか生い立ちのせいにしたりしちゃいけない。
雨雲ばかりだと、せっかくのお日様が顔を出せないもんネ。
今の輝いてるその顔が、ホントのアンタの顔なのヨ!」
いつの間にか周りはすっかり夜の風に包まれています。
暗闇の中でも、コマリンには自分たちが家の方角に向かって飛んでいるのがわかりました。だってあの懐かしい山の匂いが行く先から流れてくるのですから。
ケレリスが元の場所に着いた時に、コマリンは家の前でお母さんがポツンと立っているのを見つけました。なんだか不安そうにオロオロしています。きっとコマリンを探しているのではないでしょうか。
「母さーーーん!」
コマリンは大声で叫びました。その声を聞いて、母さんは首を振って辺りを探します。でも空から降りてくるコマリンには、まだ気づきません。
「じゃあ、御機嫌よう。いつかまた、会おうじゃないの。」
タヌキの声が聞こえました。コマリンは母さんを目で追うのに夢中で、いつの間にか自分が畑の上に降り立っていることにさえ気づきませんでした。
気がついたら馬車もケレリスも、太ったタヌキももういないのです。
家の方からお母さんが、急いで走ってくるのが見えます。
「コマリーーーーン! 探したのヨーーーー!」
「曇りの時もあれば、晴れる時もある・・・」
あの時言ったタヌキの声が耳に蘇ります。
でもこの時コマリンの目には、いつに無く大雨注意報が出ているのでした。
「母さーーん!」
コマリンの大雨はお母さんの胸に沁み込み、
やがてカラッと晴れた青空をお空に呼ぶのでした。
コマリンはもう生後7ヶ月。人間で言えばちょうど思春期に当たります。体も成長して大きくなり、もう少しで一人前のおとなに変わるところなのでした。
ある日、コマリンは畑の土手に坐って空を見上げていました。
「どうして私はいつもこんなに困った顔をしてるのだろう。もっと晴れ晴れとして明るい顔に生まれればよかった。そうすれば将来素敵な男性と恋愛して、幸せな家庭を持つこともできるだろうに。こんな顔を持ったばかりに、私はいつも不安なことばかり考えてしまう。・・・」
と、その時、西の空から一頭の馬が駆けて来ました。子馬です。けれど銀色の大きな翼を持って、まるで滑るように大空を駆けて来ます。後ろには金色の馬車を引いていました。
「アンタだね。アタシたちを呼んだのは・・・」
手綱を引き締めながら、馬車に乗った太ったタヌキは言いました。
「え? と、特に呼んでないけど・・・たぶん、人違いだと思います。」
コマリンは驚いて答えました。空から馬車が現れたのも不思議なのに、どうやらその馬車がコマリンのために現れたと言っているのです。
「ふん。そんなことを言ったって、ちゃんと顔に書いてあるよ。
この馬はケレリス。いつもはお空に住んでいるんだけれど、時々こうして降りて来ては、アンタみたいな子たちのために必要なことをしてあげる。彼はとても鼻がいいんだ。
さあ、早く乗った。乗った。」
タヌキに急かされてコマリンは彼女の横にちょこんと座りました。前では馬が銀色の翼をひと振りゆるやかに羽ばたかせます。「あぁ、きれいだな。」次の瞬間コマリンが辺りを見回すと、驚いたことに馬車はもう透けるような青空の中にふんわりと浮かんでいるのでした。下を見下ろせばさっきまで自分のいた畑が、ずうっと下の方に小さく見えます。
「うわア! 鳥になったみたいだ!」コマリンは思いました。
「隠したって駄目さ。アンタはさっき悩んでいたね。しかも未来をたくさん背負った子どもに似つかわしくないことで。
このケレリスは、そんな子をほっとけないのさ。まあ、時には悩むのもいいんだけどね。子どもは子どもに相応しくアタシのように」
タヌキは自分のお腹をポン!、と叩きました。
「太っ腹でいなきゃあ! さあ、ケレリスがアンタに見せたいってとこがあるそうだから、アタシたちも行ってみようじゃないの!」
中世のお城は岩のように堅く丘の上に聳えています。 遠い遠い昔、あそこでお姫様や若き騎士たちが、命を賭けて愛に、戦いにと情熱を燃やして生きたのでしょうか。 |
夕闇に包まれた大都会はまるで遊園地のようにきれいです。 ひとつ、またひとつと窓の明かりが灯されて、街そのものが生きているようにまばたきします。 |
「ああ! なんてきれいなんだろう!」
コマリンはどれもこれも初めて見る景色に我を忘れて、いつしかその目は大きなまあるい鏡のように見開かれていました。
「ホラ、今のアンタ、全然困った顔をしてないだろう?」
マルダヌキはズボンに挟んでいた手鏡をゴソゴソと取り出してコマリンに見せました。
そう、今のコマリンは全然困ってなんかいません。目は大きくキラキラと輝いて、とても魅力的なのでした。
「ホントだ! 私の顔、輝いてる!」
「誰だって。輝けるものなのサ。
でも自分は駄目だと思う、その心がせっかくの顔を曇らせてしまう。
お空のように晴れたり曇ったり、時には雨が降ったりして少しずつ、
アタシたちは自分の顔っていうものを、作っていくの。だから自分の顔をお母さんだとか生い立ちのせいにしたりしちゃいけない。
雨雲ばかりだと、せっかくのお日様が顔を出せないもんネ。
今の輝いてるその顔が、ホントのアンタの顔なのヨ!」
いつの間にか周りはすっかり夜の風に包まれています。
暗闇の中でも、コマリンには自分たちが家の方角に向かって飛んでいるのがわかりました。だってあの懐かしい山の匂いが行く先から流れてくるのですから。
ケレリスが元の場所に着いた時に、コマリンは家の前でお母さんがポツンと立っているのを見つけました。なんだか不安そうにオロオロしています。きっとコマリンを探しているのではないでしょうか。
「母さーーーん!」
コマリンは大声で叫びました。その声を聞いて、母さんは首を振って辺りを探します。でも空から降りてくるコマリンには、まだ気づきません。
「じゃあ、御機嫌よう。いつかまた、会おうじゃないの。」
タヌキの声が聞こえました。コマリンは母さんを目で追うのに夢中で、いつの間にか自分が畑の上に降り立っていることにさえ気づきませんでした。
気がついたら馬車もケレリスも、太ったタヌキももういないのです。
家の方からお母さんが、急いで走ってくるのが見えます。
「コマリーーーーン! 探したのヨーーーー!」
「曇りの時もあれば、晴れる時もある・・・」
あの時言ったタヌキの声が耳に蘇ります。
でもこの時コマリンの目には、いつに無く大雨注意報が出ているのでした。
「母さーーん!」
コマリンの大雨はお母さんの胸に沁み込み、
やがてカラッと晴れた青空をお空に呼ぶのでした。
コマリンは生まれた時から困った顔をしていて、それが唯一困ってない顔になったのは、3年前の大地震の時だけなのですよ。その時は一時的に困ってない顔になりました。両の目を縦長に見開いて・・・
そんなコマリンが今日も甘えた声で餌が足りないとねだります。
困った顔つきをされると何だか可哀想になって、ついやってしまうのですよ・・・。
あんな顔していて、結構便利なところもあるのですね。
チャームポイント高いけどな~w
兄が美男子だったもので、よくこんなに産み分けられたものだと思いましたよ。子供心に本気で。
今振り返れば確かに大したことではなかったのです。顔は変えられるのです。それも整形手術なんか受けなくても見違えるほどに。
いや、変わる、と言った方が正確ですね。
だから今はこんな顔でもいいかなって、思えるようになりました。
やっとね・・・