ロシアのプーチン大統領がクリミア自治共和国のロシア編入に署名した。16日のクリミア住民投票の結果を受けての動きだが、国際法上の是非はともなくその素早い決断を見ると彼の政治的手腕には感心せざるを得ない。確かにロシア議会やメスコミの大半が親プーチンという現状もあるだろうが、その決断力はやはり傑出しているといえる。
政治思想家のマキャベリが政治には決断のスピードが大事であることを君主論で説いていた。周りから喜ばれることはともかく、嫌がられることでもそれがやむを得ない時には直ぐに決断しなければならない。遅れる事によって、周りの不満が増幅して収拾ががつかなくなるからだ。
アメリカが制裁措置として、ロシアの政府高官の訪米や在米資産の凍結を表明したが、その効果はほとんど期待できない。EUも表向きロシアの暴挙を非難しているが、たいした具体的な措置がとれない。EUの主導国ドイツがパイプラインを通じてロシアからガスを輸入していて国内エネルギーの3割を依存しているとあってはおいそれと厳しい制裁に動けない。
肝心のウクライナ暫定政府とて今回のロシア編入宣言を表向き厳しく批判をしているが、内心やむなしと考えているのではないか。もともとクリミアはロシア領で1950年代にフルチョフによってウクライナに編入された。いわば、「棚ぼた式」によって得られた領土であって古来よりの領土という認識は弱いのではないか。クリミアの産業も観光と農業で特別ウクライナには必要不可欠とは言いがたい。おまけに圧倒的にロシア人が多いときてはウクライナに留まっていてもその統治にはてこずるのではないか。
そしてウクライナの財政基盤の貧弱さ。その人口規模からいってギリシャの比ではない。表向きEUは財政支援を表明しているが、とても救済はできないだろう。ましてEU加盟など到底あり得ない。ウクライナの経済危機は今後深刻になっていくが、大半のエネルギーをロシアに依存するウクライナにとってはどうしてもロシアとの関係改善に進まざるを得ない。
こうしたEUやウクライナの状況を把握した上でのロシアによるクリミア軍事介入であり、今回の編入宣言である。その点プーチンの政治的な眼力は鋭く対応もしたたかといわざるをえない。
しばらく、欧米の対抗措置が続くだろうが、いずれそのほとぼりが冷めるといくものと予想される。プーチンもクリミア以外のウクライナ領土に対しては野心がないことをいち早く表明していて、これ以上政治的緊張が高まることを避けようとしている。これは欧米やウクライナにとって「渡りに舟」であろう。
いずれ「政治の季節」は終わって「経済の季節」が始まる。ロシアとて今回の騒動で経済的な影響がでているようだ。国内のエネルギー株が急落している。経済力の半分をエネルギーに頼るロシアにとって由々しき事態だ。今後プーチンは経済回復に全力を投球するものと思われる。
そこで日本との関係が大事になる。日本は今回の問題でアメリカと共同歩調を取らざるを得ない。言い方は悪いが、仕方なくアメリカに従わざるを得ない。しかし、来る「経済の季節」に向けて日本はロシアの情勢をじっくり観察して機敏に対応する必要がある。その点で安倍首相とプーチン大統領とのこれまでの懇意な関係に期待したいところだ。