ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

リンゴ   まど・みちお

2010-01-04 15:27:21 | Poem
リンゴを ひとつ
ここに おくと

リンゴの
この 大きさは
この リンゴだけで
いっぱいだ

リンゴが ひとつ
ここに ある
ほかには
なんにもない

ああ ここで
あることと
ないこととが
まぶしいように
ぴったりだ


 3日夜、NHKスペシャル「まど・みちお百歳の詩」を観ました。眠かったのに、観ているうちに眠気が吹き飛んだ。「百歳」ですよ。それなのに毎日車椅子で屋上から空を見たり、小さな生き物や自然の恵みを見たり、水辺を見たり、興味は際限もなく、日々は驚きに満ちていました。谷川俊太郎が少しだけ登場して、インタビューに答えて「まど。みちお」の仕事について語っていましたが、その比喩として出されたものは、以前朝日新聞でも語っていた「ウイリアム・ブレイク」のこの詩でした。


一粒の砂に 世界を見
一輪の野の花に 天国を見る


 かつて日本人初の「国際アンデルセン賞」を受賞した記念に出版された「まど・みちお全詩集 1993年第8刷」を久しぶりに開く機会となりました。


ぞうさん
ぞうさん
おはながながいのね
そうよ
かあさんもながいのよ

 
 この「ぞうさん」の童謡ばかりが一人歩きしている感のある「まど・みちお」ではありますが、この詩人の仕事はこういうものばかりではない。上記の「リンゴ」は「リルケ」がさぞや驚くだろうと思いました。「オルフォイスへのソネット第二部・1」の第1連と響きあっていませんか?


呼吸よ 眼に見えぬ詩!
たえず 私自身の存在と
純粋に交換される世界空間。そのなかで
私が律動しつつ生成する対重。


 しかも「まど・みちお」はわかりやすい言葉でこうした「世界空間」を書くのでした。詩作はこのようでありたいと切望しました。「地球の用事」「れんしゅう」「深い夜」などなど紹介したい詩はたくさんあるのですが、今回は省略します。

  *   *   *

 「まど・みちお」には別の局面もあります。彼は戦時中に「戦争協力詩」を2編書いたことを隠すことなく「全集」に収めています。「戦争協力詩」を書いた後に、彼は招集を受けて戦争に駆り出されて、そこで戦争のむごさを見たのです。そしてこの全集をまとめるにあたり、この2編を出版社などに協力をお願いして、探していただいて、意識的に隠すことなく収録したのです。自らの恥を謝罪すらなさっています。

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2 コメント

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りんごの詩 (タクランケ)
2010-01-04 20:08:11
リルケも真っ青になるかも知れませんね。

なにしろ易しい言葉で歌われている。リルケの
詩想に通じることが。

この訳をみると、率直にいって、生野幸吉さんの訳の方がいいなあ。もっとも、生野さんも、田口訳を相当模範にして、踏襲していると思われるけれども。
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Unknown (Aki)
2010-01-04 20:54:17
タクランケさん。

そうですね。リルケに読ませてあげたかったわ。
「まど・みちお」はおそらくリルケを読んでいるとは思いますが。

たしかに生野訳の方が田口訳よりも洗練されているのでは?とわたくしも思います。何人もの翻訳者の手を経て、だんだん洗練されるのでしょう。これから先も。
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