黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

ハクセキレイ その後

2012年05月02日 09時25分48秒 | ファンタジー

 
 つい四日ほど前のこと、一羽のハクセキレイが、くちばしになにかくわえて、我が家の玄関の庇の奥に入り込む姿を、偶然見つけた。そのすぐ後に、別の個体が飛んできた。腹回りが少し太いので雌なのだろう。すぐ、好奇心旺盛な、はなが「なんなの?私にも見せて」と鳴きながら窓際にやってきた。すると猫の登場にびっくりしたのか、ハクセキレイの雄は、せっかくの巣の材料を口から取り落としてしまった。それでも二羽は首を振りながら、庇から逃げようとしない。二羽同士でなにか談合しているようにも感じられる。獲物を発見したはなは、唇を振動させて威嚇行為を始めた。
 ところで、二年半前、このブログを始めたのは、家の前庭でハクセキレイの死骸を見つけたことがきっかけだった。そこに詳述しているが、その時点からなん年もさかのぼり、黒猫とのが十五歳で死んだ翌春の平成十五年、二羽のハクセキレイが、それまで見向きもしなかった玄関の庇の奥に巣を作ったのだ。彼らの営巣は、この家に、とのがいなくなったことをちゃんと確認した上での行動だったと思う。その証拠に、次の年、ノルウェージャンのはなが来てからは、一度も巣作りをしていない。 
 なので、このとき暁彦は、鳥たちが猫に気づいていないはずはないと思いながらも、念のため、玄関の庇の上にある小さなベランダに、猛獣はなを放した。はながどんなに知恵を絞っても、そのベランダから庇の奥に潜っていくことはできないのだが、もしも鳥たちが、巣を作って産卵した後で猫の存在に気づき、その衝撃で子育てを放棄でもしたら、それこそ後味が悪い。
 二羽は、頭上のベランダに猫の気配を感じて、すぐさま庇から飛び上がり、近くの電線に移動した。しかし、鳥たちは威嚇するでもなく、電線上を左右に行ったり来たりしている。はなは、調子に乗って、春の暖かい陽が降り注ぐ汚れたベランダで、腹を出してごろごろ寝転がっている。やはり彼らは知っていたのか。
 そのとき、キーという鋭い威嚇の声が、柔らかな空気を引き裂いた。はなはびっくり仰天して、部屋の中へまっしぐらに逃げ帰った。はなは、きかん気な性格なのに、臆病なのだ。その日も次の日も庇を覗きに鳥が何羽か飛んできた。口には、なにもくわえていない。なんとはなしに、あきらめきれないような、残念そうな様子に見える。きっと彼らは若い鳥で、巣立って初めての繁殖行動なのだろう。ひょっとすると、縄張りを求めて、生まれた土地から、遠く離れた見知らぬ地に渡ってきたのかもしれない。暁彦は、鳥たちに向かって、はなは、なにもできないから大丈夫だよと言いながら、九年前にこの庇の奥から飛び立ったハクセキレイのことを懐かしんでいた。(2012.5.2)

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