黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

もの思う自由だけ?

2016年06月22日 13時47分12秒 | ファンタジー

 ネコ国のチアガール一行がヒト国にやって来て驚いたのは、ヒト国のチアガールたちが、中国の京劇集団や国際的なレベルのシンクロナイズドスイミングチームをしのぐほどの超絶技巧の持ち主だったこと。なのに、ぜんぜん目立たないのはどういうわけ?
 不思議なことに、チアガールたちは同じ模様の着ぐるみをまとったかのように、誰が誰やら見分けがつかないのだ。彼女らだって、ひとりになったら個性的な表現力を発揮するのに、集団だとそれがまったく消え去ってしまう。こんなんじゃ、みんなそろってダンスする意味ないじゃん、とネコは退屈して昼寝モードに入った。
 ヒトビトに聞いてみると、彼女たちは普段から、家庭や学校などで、自分の思いを言葉や表情に表していいかどうか、親や教師たちにお伺いを立てているらしい。そうするうち、彼女たちの表情は薄れていった。
 じゃ、あのダンスはどうやって覚えたの?
 ネコダンスをまねしただけ、という答え。

 ネコたちは、ヒト国でそれ以外にも奇っ怪な場面に出くわした。
 公の場で、一般ヒトは政治的、思想的信念を述べたり表現してはならないとのこと。家庭内でもヒソヒソ声で、外に聞こえたら大変なのだ。
 あるいはまた、国歌の斉唱や演奏、そして国旗掲揚に関して、したくないと内心で思うこと、そこまではヒト国でもちゃんと保障されている。しかし、いざ心の中の思いに従おうとしても、それが上司の職務命令に反することなら、思いを表現することはまかりならないとされる。ヒト国では、目上の者や上司に従わないのは社会の秩序を乱すことになるから許されないのだ。
 つまり、ヒト国でも、憲法によって、思想良心の自由、表現の自由、つまり内心(精神)の自由が全面的に保障されているのだが、ヒトビトは、外に向かって表現する自由なくしてほんとうの自由はない、ということを理解していない、いや理解できないのだろう。
 あの戦争終結後の混乱期に、ネコが作ってヒトビトに押しつけた憲法だと言うなら、昔の憲法を引っ張り出して、戦前の社会に戻してみればいい。そんなことをしていたら、そのうち、大事なものを人質に取られ、返してほしければお前の心と引き替えだと脅されることになりかねない。(2016.6.22)



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アウトドア嫌い(10) はな

2016年06月21日 10時35分53秒 | ファンタジー

 アウトドア嫌いのヒトはこの世の中に大勢いるが、そのこと自体、さほど不自然に受け取られることはない。しかし、アウトドア嫌いのネコがまさかこの世に一匹でもいるのは、想定外ではなかろうか、そうでもないか。
 一見ヒトなつっこく、元気にお返事する利発で活発なネコ、つまり我が家の「はな」のことを言っているのだが、彼女は、冬はもちろんのこと、せっかくいい季節になったのに、天気晴朗でもたまにしか外出しないし、風が強かったり薄ら寒かったりすると外を見ることさえしない。もしも雨が降ろうものなら爪を立てて家の柱にへばりつく。そこまでいくと父さんをしのぎ、あっぱれなアウトドア嫌い振りだ。
 私がアウトドアを嫌う理由はくどくど書いてきた。幼いころのトラウマの影響がないとは言えないが、アウトドア派になにかズレのようなものを感じるのは理屈ではない。きっと、はなも同じだろう。とくにネコには、他のネコが好きなものでも「私はぜったいイヤ」といった、テコでも動かない強い嗜好性がある。
 とにかくアウトドア派の無神経なところは大嫌いだ。ネコと同じで、飼い主の思うとおりにならないところも。そういえば、最近は、品性清廉のインドア派がゴキブリみたいに増えすぎて、家人からしっしっと外へ掃き出されていると言うではないか。(2016.6.21)

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率直な性格診断

2016年06月14日 16時59分55秒 | ファンタジー

 先日、職業の適性判断をしてやるからとむりやり質問に答えさせられた。いやなら答えなければいいものを、相手が子どもだけに、おじさんはイヤだと断るに断れなかった。結果は次のような悲惨なものだった。

 おじさんに向いている職業は、手に職系です。
 おじさんは、見かけの普通さからは想定外の、とくべつ際立った個性を持っています。
 人から「変わりもの」と呼ばれませんか?
 独特の世界観を生きるおじさんは、世の中の流行やブームに背を向けて、いつでもマイペースに自分の道を進んでいます。
 そんなへんてこりんなおじさんには、職人のお仕事がぴったりです。
 個性を発揮することによって成功する世界なら、様々な活躍の場があるでしょう。
 くどいようですが、他人と同じレールから必ず外れて、おじさんだけの道を切りひらく以外、生きるすべはありません。
 おじさんにぴったりの職業は、売れない作家。当たらない占い師。ださいデザイナー。当てずっぽうの翻訳家。遭難する冒険家。筋肉のないボクサーなどです。

 せっかくお遊びに協力したのに、こんな率直な目で性格診断されるとは! (2016.6.14)
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最初の失望

2016年06月07日 16時08分27秒 | ファンタジー

 調べてみると、その事実は一九五八年七月から十二月までの記憶の中にあった。
 王子製紙の一四五日にわたるストライキがあったのは、私が小学校に入った年だ。その年の夏は気のせいか、ガスのかかる日が少なかった。年に二回、盆と正月しか煙の消えることがなかった工場の煙突は、すっきり青空に映えていた。そして、工場近くの社宅付近まで絶え間なく響いていた工場の大型機械の回転音も、静まりかえっていた。一方、父親たち工場の働き手は、落ち着かない様子で家を出たり入ったりしていた。子どもたちは、そんなことにはおかまいなく、普段どおりだいたい同い年のグループで遊んでいた。
 その日は、この町にしては目が痛むくらいギラギラした日差しにおおわれていた。遊び仲間といっしょに、線路向こうの山手町という住所の小さな店の前にさしかかったとき、一人が、店の前につながれたやせこけた犬を指さして言った。
「お前の親父、あれだもんな」
 私の反応が要領を得なかったのだろう。その子はさらに言った。
「犬だよ、犬」
 私はやっと合点がいった。
 工場の労働組合は、まさに分裂の最中にあった。これまでの組合は、通称、王労と呼ばれ、泣く子も大人も黙らせるほどの力があった。思うに任せない組合に業を煮やした会社側は、王労の組合員に様々な圧力をかけ切り崩しを図った。こうして新たに作られた第二組合の新労が勢力を伸ばしつつあった。なにしろ新労組合員はロックアウトされた工場に入り、仕事ができたのだ。
 ついに王労が会社側に譲歩しストを中止した翌日、組合幹部が工場の入り口にある小さな見張り小屋の横を通り抜けようとして、警備員に入場を阻止された。私は今でも、その日の夕方に配布された地元新聞の一面の写真をありありと思い出す。その人は顔見知りのおじさんで、戦争の後遺症のためか脚を引きずっていた。(2016.6.7)
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理想のコメント

2016年06月06日 13時36分14秒 | ファンタジー

 先週の日曜日からずっと体調が良くない。喉の痛みが激しく、悪寒がしてだるい。
 なのに月曜は頑張らなくていい会社に出社し、火曜日から道南の温泉地方面に一泊二日の出張。帰社した夜は用事があって、家に帰り着いたのが夜十時過ぎ。翌日は前から決まっていた飲み会に参加。とうとう金曜の朝、起きられなくなった。せっかくの土曜も日曜も、買い物に外出した三十分ばかりを除き、家の中で、はなといっしょにうじうじ寝ていた。
 そして本日、会社に出てきたがさっぱり調子が良くない。喉の痛みに効きそうなアンプル剤を飲んでも症状は改善しない。チョコレートはどうかと思って食べてみたら、かえって喉が痛む。咳のしすぎで〇門まで痛む。
 5.27には、米国大統領の広島スピーチを聞いて色々感じるところがあり、私もコメントを掲載したいと思ったのだが、あいにくこんな体調では深く思索を巡らすこともままならない。しかし、このような重要案件へのコメントは、それなりの人々が寄せた多くの発言をじっくり学んでからでも遅くはない。なにしろ理想を追いかける者にあせりは禁物だ。
 道南の小児行方不明事件も思いがけない幸運によって解決を見たので、大騒ぎするのは止めにしよう。力によるしつけは処罰に似たり、という先人の言葉をとどめ置くだけにしたい。(2016.6.6)
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