黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

ガッティのいましめ

2023年06月30日 21時28分14秒 | ファンタジー
 須賀敦子の「ガッティの背中」という作品に、夫を亡くした須賀敦子に対し、ガッティがこう語りかけたと書かれている。
「睡眠薬を飲むよりは、喪失の時間を人間らしく誠実に悲しんで生きるべき」
 私はこの言葉をすっかり忘れていた。
 ガッティは、ミラノのコルシア書店に興味を持った須賀が、ローマからジェノバの駅に列車で着いたとき、後にいっしょになるベッピーノと連れ立って迎えにおもむいた男性。迎えに出たのが男二人だったのはなぜだったのか。それはどうでもいいのだが、二人とも人柄が良かったことは、須賀の他の著作を読めば一目瞭然だ。
 今、やっと須賀を読もうという気になって、河出の文庫全集の第一巻を手に取った。どこまで読めるか、本気なのかと、自分に問いかけるのだが、なんだか頼りない。
 ガッティは、天職の本の編集・出版業が思うにまかせず、職場をいくつも替えていく。だんだんと仕事に気が入らなくなっていったように感じられる。何歳だったのか、アルツハイマー病を発病し、施設で死を迎えた。
 ガッティは、自分の気持ちに忠実に生きようとして失敗を繰り返す、どちらかといえば頼りないタイプの人間だったのかもしれない。自分と似ているような気がして、つい彼に親しみを覚える。
 私が、「誠実に悲しめ」というガッティの言葉にハッとしたのは、はなを失った事実に耐えきれず、心の何処かで、はなを忘れようとしていたのではないかとおもったから。(2023.6.30)

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いち早く咲いた花

2023年06月26日 22時50分22秒 | ファンタジー
 去年の花とはどうも違う。と思いながら、すっくと伸びた茎のてっぺんに咲いた、ピンク系の可憐な花を愛でている。きっと、いち早く雑草が咲いたのだろう。雑草なんて言ったら、牧野先生から、そんな名前の植物はないと叱られそう。(2023.6.26)
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アッ、はなだ!

2023年06月22日 17時24分29秒 | ファンタジー
 夜、周囲が寝静まってから、ベッドに横になり、何気なく枕元に右腕を伸ばしたら、右手の甲が柔らかい何かに触れた。その瞬間、はなの感触がよみがえった。
 5ヶ月過ぎたのだからしかたがないのだが、最近、はなの匂いがしない。もちろん気配もしない。
 なので、フアフアしたものに触っただけで、「アッ、はなだ!」と思ってはいけないのだ。
 わかっているのだが、そんなふうに勝手に思い込まなければ、はなには出会えないのだ。(2023.6.22)

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思い出せばウツ

2023年06月20日 22時37分33秒 | ファンタジー
 この数日、極端な落ち込みではないが、何をするにも高揚感がわかない。酒を飲んでも次の日はダメ。飲み過ぎかも。
 自家の車が19年目に入ったので、そろそろ年齢的に最後の車を探さなければ、と思うのだが、乗りたい車のイメージがいっこうに浮かばない。
 小さな家庭菜園に植えたトマトやゴーヤの苗はかなり伸びてきたし、インゲン豆の芽はとっくに顔を出し今にもツルが伸びてきそうなのに、支柱を立てる気にならない。トマトやインゲンのツルが地面をはったらどうする?
 この気分の落ち込みは、体と思考能力の衰えのせい? つまり行く先真っ暗な老人性云々? それを否定しようとすると、かえって身につまされてウツウツとする。はながいてくれたら、と思う。(2023.6.20)

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カッコウが鳴いた

2023年06月08日 20時50分48秒 | ファンタジー
 先週からカッコウが鳴き出し、日中の気温もようやく安定してきたので、窓に網戸を入れようとしたら、去年の今ごろ、「父さん!何してるの?」と、はなが邪魔しにきたことを思い出した。胸の奥がじんわりするのをやっとこらえる。あれから5ヶ月にもなるというのに、まだこんな状態を繰り返している。
 高橋源一郎さんは、「別れの悲しみ・痛みを無理に受け止めようとする必要はない。取り乱し、もがけばいい。深く悲しむことは、わたしたちのもっとも大きな能力の一つなのだから。」(要旨)と弱った心に慰めとも、けしかけともつかないエールを送ってくれるが、結局のところ、癒しの特効薬はないということなのだ。
 カッコウにうながされて、先週買ってきた野菜の苗は暗い物置に置きっぱなし。今年のトマトは高くつきそうだ。(2023.6.8)

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はなが真夜中に

2023年06月07日 21時07分00秒 | ファンタジー
 夜中の1時すぎ、恒例のトイレタイム。ここ数年、寝ついてすぐ、目が覚める。トイレに行きたくて起きるのか、よくわからないが、小水はかなり出る。用を足してベッドに潜り込む。
 そのとき、階下の方から、ニャンと鋭い声が聞こえた。間違いなく、はなの鳴き声だ。降りて行きたい気持ちをなだめるうちに意識が遠のいた。
 実は昨晩、母さんが物入れの奥から、とのが遊んでいた黒い毛玉を取り出した。それは、はなが数年前にタンスの裏から発見した黒毛玉。きっと、はなはサッカーボールに見立てて、真夜中に追いかけ回していたのだろう。(2023.6.7)

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