帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔九十二〕かたはらいたき物

2011-06-14 00:08:07 | 古典




                      帯とけの枕草子〔九十二〕かたはらいたき物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言 枕草子〔九十二〕かたはらいたき物

 かたはらいたき物(いたたまれないこと)

まらうどなどにあひて物いふに、おくのかたに打ちとけ事などいふを、えはせいせできく、心ち(客人などに会ってもの言っているときに、奥の方で、うち解けた話をしているのを、制することができずに聞いている心地……稀に来る人に合って情けを交わすときに、女の奥の方でうちとけ言をいうのを、制することできずきかせている心地)。

思う人が、ひどく酔って、同じ事を繰り返している。

聞いているのも知らないで人の身の上を言っている、それは何様というほどの人のことでなくても、使っている人のことでも、いとかたはらいたし(ひどくにがにがしい)。

旅だった所で、げすども(外衆・話の通じない人たち)が戯れて居る。にくらしそうな稚児を、おのれの心地の可愛さのままに、いつくしみ、かわいがって、稚児の声のままに言った事など語っている。

才(学識)ある人の前にて、才のない人が、もの知り声で人の名など言っている。

特に良いとも思えない自分の歌を人に語って、人が褒めている訳を言うのも、かたはらいたし(むかつく)。



 言の戯れを知り言の心を心得ましょう。

「かたはらいたし…居たたまれない…はずかしい…にがにがしい…むかつく」。

「まらうど…客人…まれ人…訪れてくる男」「ものいふ…言葉を交わす…情けを交わす」「おく…奥…女」「え…得…することが出来ない」「うちとけごと…うち解け言…身内の話…睦言…気が緩んで発する言」「きく…聞く…効く…口を効く…聞かせる」。



 権力闘争の顛末を見聞きしていて、いたたまれない、にがにがしい、むかつく、と思ったとしても、その心情を素直に表すのは愚かなこと、できないこと、きけんなことである。
「うそぶく…吼えたてる…そらとぼける…鼻歌唄う」方法がある。それを普通は詩や歌で行うけれども、あえて散文で表してある、心におかしきところを添えて。

一度、枕草子を上のようなものとして、読んでみては如何でしょうか。

 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず  (2015・9月、改定しました)


 原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による