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帯とけの枕草子〔九十二〕かたはらいたき物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔九十二〕かたはらいたき物
かたはらいたき物(いたたまれないこと)
まらうどなどにあひて物いふに、おくのかたに打ちとけ事などいふを、えはせいせできく、心ち(客人などに会ってもの言っているときに、奥の方で、うち解けた話をしているのを、制することができずに聞いている心地……稀に来る人に合って情けを交わすときに、女の奥の方でうちとけ言をいうのを、制することできずきかせている心地)。
思う人が、ひどく酔って、同じ事を繰り返している。
聞いているのも知らないで人の身の上を言っている、それは何様というほどの人のことでなくても、使っている人のことでも、いとかたはらいたし(ひどくにがにがしい)。
旅だった所で、げすども(外衆・話の通じない人たち)が戯れて居る。にくらしそうな稚児を、おのれの心地の可愛さのままに、いつくしみ、かわいがって、稚児の声のままに言った事など語っている。
才(学識)ある人の前にて、才のない人が、もの知り声で人の名など言っている。
特に良いとも思えない自分の歌を人に語って、人が褒めている訳を言うのも、かたはらいたし(むかつく)。
言の戯れを知り言の心を心得ましょう。
「かたはらいたし…居たたまれない…はずかしい…にがにがしい…むかつく」。
「まらうど…客人…まれ人…訪れてくる男」「ものいふ…言葉を交わす…情けを交わす」「おく…奥…女」「え…得…することが出来ない」「うちとけごと…うち解け言…身内の話…睦言…気が緩んで発する言」「きく…聞く…効く…口を効く…聞かせる」。
権力闘争の顛末を見聞きしていて、いたたまれない、にがにがしい、むかつく、と思ったとしても、その心情を素直に表すのは愚かなこと、できないこと、きけんなことである。「うそぶく…吼えたてる…そらとぼける…鼻歌唄う」方法がある。それを普通は詩や歌で行うけれども、あえて散文で表してある、心におかしきところを添えて。
一度、枕草子を上のようなものとして、読んでみては如何でしょうか。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)
原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による