今までクリフ・リチャードのアルバム(LP)を中心に紹介して参りましたが、1958年のデビューから始まり、クリフは定期的にシングル曲をリリースしていました。僕が10代の頃に読んでいた音楽雑誌やライナーノーツ等では、よく「ビートルズ以前のロックシーンはシングル(EP)が中心で、ビートルズがコンセプトアルバムの概念を作り上げる以前、アルバム(LP)はシングルの寄せ集めに過ぎなかった」的な文章が書かれていたのをよく覚えております。それがどこまで正確な情報かは分かりませんが、ロックミュージック創成期の当時、高価なLPよりも、より安価なEPの方が、多くの若者に浸透していったことは言うまでも無いお話です。結局のところ、圧倒的完成度と統一感において「アルバムの概念を根底から作り替えたのはビートルズである」事は間違いありません。
よく当時のミュージシャンのアルバムには、ヒットしたシングル曲を目玉として、その他の新曲を収録し、アルバムを作る戦略が多かったのですが、クリフ・リチャードの場合はどうでしょうか?実は1stシングル「Move it」から、1960年の11枚目のシングル「I Love you」まで、一切アルバムに収録されていません。アルバムとシングルが完全に分けられてリリースされていた時代がしばらく続いていたのです。
なぜそのような戦略を取ったのかは分かりませんが、当時の「チーム・クリフ・リチャード」の裏方達は、アルバムを単なるシングルの寄せ集めではなく、一つの作品として制作しようとした意図があったことは感じます。じゃあアルバムに入ってないクリフのシングル曲ってどんななのだろう?って気になりますよね。そこで!今日ご紹介するのが、1963年にリリースされたクリフの記念すべき最初のベストアルバム「Cliff's Hit Album」です。
デビュー作「Move it」から1962年の「Do You Want to Dance」までのシングル曲が収録されています。と言っても、幾つかのシングルは未収録です。以前、クリフの2ndアルバム「Cliff Sings」を紹介する記事でも、「デビューシングルから数枚シングルをリリースしたが、徐々にチャートで右肩下がり」だった事を書きましたが、その低迷期の3枚のシングルが見事にカットされています。当時のEPを買わずとも、後々リリースされた編集盤で、それらの曲も聴けるのですが、決して出来が悪いのではなく、要するに収録時間や大人の事情でカットされたのでしょう!そのため、本アルバムではデビューシングル「Move it」の次に、いきなり4作目「Living doll」へ飛ぶという現象が起きています。とりあえず、この2曲だけでも十分に聴く価値があるでしょう。
1曲目「Move it」は、イギリスにおける一番最初のオリジナルロックとして、余りに重要だと、何度も何度も書いておりますが、2曲目「Living doll」における、華やかなアメリカンポップスとは異なる、シャドウズによる抑えられた演奏とクリフの囁くようなボーカルが織り成すポップ感は何ともブリティッシュで、とにかく、ビートルズ登場以前のイギリスにおいて、これほど独自の音楽を作っていたことが驚きです!
とは言え本作は決して「Move it」のようなロックンロールだけで終わらず、フォーク、カントリー、ジャズなど様々な音楽を柔軟に取り入れていた「チーム・クリフ・リチャード」の裏方達の活躍が光ります!シングル曲を集めた編集盤ですので、一曲一曲のアレンジも練られており、聴いていて全く飽きさせません。意外とポップスやアコースティック寄りの曲が続くかと思いきや、A面最後は、「火の玉ロック」「冷たくしないで」等でお馴染みOtis blackwellが書いた「Nine Times Out of Ten」、B面にはジョン・レノンやビーチ・ボーイズのカバーで有名な「踊ろよベイビー」が収録されており「最後はしっかりロックで締める」という曲順のこだわりが感じられます。
一つ残念な点は、6thシングル「Travellin' Light 」のB面としてリリースされた「Dynamite」が未収録という点でしょうか。「Move it」と同じIan Samwellによって書かれたこの曲は、クリフ・ライブの定番であり、アメリカンロックンロールのコード進行から逸脱したアレンジや、途中のブレイクなど、「Move it」の方法論を更に発展させた、ブリティッシュビート創成期の重要曲だと思うのですが・・・。
とにかく一枚では収まり切れないほど、クリフのシングル盤も奥が深いという事を改めて痛感させられる盤でしょう。クリフの入門編としても、ぜひお勧めしたい「Cliff's Hit Album」をぜひ聴いてみてください!
《Starman★アルチ筆》
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