毎週火曜日にご機嫌よう!『今週のハウリンメガネ』!
今週も『私の一口コラム』と『その週のライブインフォ』をお届け!
モビィィィーディィィック!
……あ、違います。ツェッペリンのモビーディックのことじゃないです。あ、石を投げないで……
はい失礼。当ブログの読者の皆様にすればモビーディックといえばツェッペリン、という連想に至るのは百も承知でついつい雄叫んでしまったが、今日は別のモビーディックの話です(正確に言えばツェッペリンとも繋がっていなくもないのだけれど)。
一週間ほど前のこと。
「SFが読みたぁぁぁい!」と、突発性SF欠乏症に陥り、熱に浮かされた人の様に街の本屋へ出発した私。
早速SFコーナーへ向かったものの、なんだか創元社の棚を見てもハヤカワの棚を見てもどうも今ひとつピンとくるものがない。
困った。いま私が読みたいのはサイエンス・フィクションのSFではなく、宇宙(時空の意の宇宙)的世界観を描いたSFが読みたいようなのである。
さーて困ったぞ……と他の棚へ向かおうとした私の脳裏を凄まじい勢いで以下の連想が駆け巡った。
「宇宙」→「月」→「上弦の月」→「上弦の月を喰べる獅子」→「夢枕獏」
そうだ!獏先生の新刊で面白そうなやつが出ていたはず!
……はい、ここで冒頭の咆哮に話が戻るのであります。
『白鯨 MOBY-DICK』(夢枕獏著、角川文庫刊)
『白鯨』。
アメリカの小説家、ハーマン・メルヴィルが著した、アメリカ文学を代表する小説であり、1851年の発表から100年以上経つ2024年現在でもある種のアメリカ神話として文学、映画、音楽諸々に引用される超有名小説であります(冒頭で話に出したツェッペリンのモビーディックのタイトルもこの『白鯨』が元ネタなのです)。
……が!このメルヴィルの『白鯨』、とにかく読みづらい!
あらすじはシンプルで、白鯨モビーディックに片脚を食いちぎられた、捕鯨船ピークオッド号の船長エイハブがモビーディックに復讐を果たさん、とピークオッド号の乗組員であるスターバック、イシュメールらと共に白鯨モビーディックを追う……というのが大筋なのだけど、その合間合間に挟まれる鯨についての蘊蓄やキリスト教的な説話の数が膨大なうえ、全体的に文章も重苦しく、私も子供の頃から何度かトライしてその度に「ん〜〜〜……読みづらい!」と挫折し続けて今に至る。
で、この獏先生版『白鯨』はメルヴィル版『白鯨』の一種のリメイク(リビルドと呼ぶべきかも)。
最初は獏先生があの読みづらい『白鯨』をどう料理するのか、と思っていたのだが、流石獏先生。
すごい方法であの『白鯨』を圧倒的に読みやすく面白く仕立て上げた。
※少しネタバレが入るので何も知らずに読みたい方はここから読み飛ばして頂きたい。
まず、この夢枕版『白鯨』、メルヴィル版に全く存在しない人間が主人公なのである。
その主人公とはジョン万次郎。そう、あの日本のジョン万次郎である。
夢枕版『白鯨』の中で万次郎は鯨獲りに憧れながらも、家や世間の都合により漁師であることを余儀なくされる少年として描かれる。
実際の万次郎も漁師として出漁中に遭難、アメリカの捕鯨船ジョン・ハラウンド号に救助され、そのままアメリカに渡り(当時の日本は鎖国していた為)、苦難を乗り越えて帰国。後、通訳、英語教授として活躍する訳だが、そんな万次郎がもしジョン・ハラウンド号ではなく、ピークオッド号に救助されていたら?
実は『白鯨』の時代設定とジョン万次郎の生きた時代は同時期。ここに着目し、ピークオッド号に万次郎を乗せたことで夢枕版『白鯨』はメルヴィル版と大きく異なる魅力を放つ事となる。
夢枕版『白鯨』における万次郎は主人公でありながら、読者を『白鯨』の世界に導く水先案内人でもある。
メルヴィル版では煩雑に感じる鯨の蘊蓄や、宗教的説話は万次郎がピークオッド号での生活で学んだ知識とそれに伴うエピソードとして昇華され、白鯨への復讐を主題とした重苦しい世界観は、鯨獲りに憧れる少年の目線によってその重厚さを残したまま海洋冒険活劇として換骨奪胎されているのである(そう、まるでロバート・ジョンソンの『クロスロード・ブルース』をクリームが『クロスロード』として換骨奪胎したように!この辺りのパワフルなアレンジ力、北方謙三親父の『水滸伝』にも通じるものを感じるのだけど、やはりあの世代の人達は筆力の馬力が違うのかしらん……)。
勿論獏先生の事だからただの冒険活劇では終わらない。
『白鯨』は獏先生が描き出す宇宙観、宗教観をも呑み込み、モビーディックを追いかけるピークオッド号諸共、最後には獏先生の物語論、小説論までも呑み込み、『白鯨』という物語の宇宙を表出させていく……おお!これは紛う事なきSF小説!
読めばあなたも「モビィィィーディィィック!」と雄叫びたくなること請け合い!文庫本化されて手に取りやすくなったので是非御一読!
以上、夢枕獏ファンの独り言でございました。
てなところで今週のライブインフォ!
今回は神戸!夕方から!
【タイトル】
わっは presents vol.2
【日時】
2024年9月7日(土)
START18:00
【会場】
MILKYSOUND
神戸市兵庫区新開地1-4-3 ミナエンタウン地下1階
https://www.facebook.com/yuuzincoco/
【チャージ】
¥1,500(2ドリンク込み)
【出演(※出演順とは異なります)】
わっは/ZEN平田/ひろぽんZ/まっつん/ハウリンメガネ
じゃまた来週!
<ハウリンメガネ筆>
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