「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

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「スターマンアルチ」が放つ!「爆音レコード、45回転!」〜今夜この曲をあなたに〜(レオン・ラッセル編)

2019-07-18 09:20:23 | 編集長「MASH」のレコード&CDラック(音楽紹介)

最近、レコードの片づけ&振り分けも一段落し、

(ちなみに僕はこの2か月近くクラシックばかり聴いていた)
10代の頃さんざん聴き漁っていた
ジョージ・ハリスンの一連のソロアルバムに針を落とした。
 
「慈愛の輝き」
「クラウド・ナイン」
「33 1/3」
「ジョージ・ハリスン帝国」
「ダーク・ホース」....
 
一日にこんなに沢山のジョージのソロを聴いたのは初めてかもしれない。
(ちなみに「オール・シングス・マスト・パス」は途中で止めてしまった)
 
皆さん、最近聴いてますか?
ジョージのソロ。

かつて狂うように聴き漁ったアルバム達ですが、
10数年経つと、さすがに印象は変わるもので、
その一枚一枚、一曲一曲のレビューを書きたいところですが、
今回は僕が一番衝撃を受けたことだけを書きたい。
 
「ジョージのボーカルって、ホント、ジョージなんだなー」
 
ということ。
当たり前じゃん!
と思うかもしれませんが、
実は、これってスゴイことで、
批判覚悟で、愛を込めて言わせて頂くと、
ジョージ・ハリスン。
正直、決して歌の上手い人ではない!
 
ジョージの歌声は、むしろ、声量も無いし、声の線も細く音域も広くない。
CDではある程度補正されているのかもしれませんが、
レコードで集中して聴き込むと、どれだけ彼のボーカルに
不安定な部分があるかが良くわかる。
 
でも、そんなことはどうでも良いのです。
ただ一つ、重要なこと。
それは、一回聴いただけでジョージだと分かる
「オンリーワン」な歌声だということ。
 
彼の歌いまわしは本当に独特で、
聴き込めば聴き込むほど、メロディに言葉を載せる時の、
独特のフレーズの数々にはっとさせられる。
 
最近の音楽を聴いていると、
誰でもみんなしっかり音程もピッチも補正&加工されていて、
生の人間が歌っているのに、どうも温かみを感じないことがある。

そんな中、ジョージの真に迫る
「生々しい歌声」は、
改めて「音楽とは何か」「歌とは何か」
を考えさせてくれるのです。
 
じゃあ今回はジョージの盤なの?
と言いますと、
申し訳ありません。違います!
 
今日ご紹介するのは、
「レオン・ラッセル」
1972年発表のシングル
「Tight rope/This Masquerade」
45回転シングル盤なのです。
 
ロック好きなら
ジョージ・ハリスンとレオン・ラッセルの関係性
をご存じかと思いますが、
1971年にジョージが主催したチャリティコンサート
「バングラデシュ難民救済コンサート」
にレオンが出演したり、
レコーディングに参加するなど、
「とても仲の良いお友達」である彼ら。
 
なぜ冒頭でジョージの話を持っていたかというと、
レオン・ラッセル。
彼もまた、ジョージと全く声質もスタイルも異なりますが
「一回聴いただけで分かる」
ボーカルの持ち主だからです。
 
2016年に74歳で亡くなったレオン・ラッセル。
残念ながら、幾つかのチャンスを逃し、
彼の音楽を生で聴くことが最後まで出来なかった僕ですが、
今ではすっかり忘れされた感のある彼の音楽を、
この機会に、
少しでも多くの人に知ってほしいと思います。
 
僕の中で、彼のイメージは、
同じくアメリカ出身のピアノマンであり、
惜しくも6月にこの世を去った、
「ドクタージョン」と重なる部分があるのですが、
ニューオーリンズサウンドを、
後世に伝えることに拘り続けた
ドクタージョンと異なり、
レオン・ラッセルはより貪欲に色んな音楽を取り入れ、
自分流にアレンジして世に出しておりました。
 
そんな彼の最も有名な仕事と言えば、
カーペンターズによってカバーされた
一連の名曲
「A song for you」
「Super star」
そして今回紹介する
「This Masquerade」。
 
その他にも、
BBキング
レイ・チャールズ
ジョージ・ベンソンなど、
人種も世代も乗り越え、
多くのレジェンド達が、彼の歌を取り上げています。
 
そして、シェルターレコードを設立したり、
ジョー・コッカ―の「Mad Dogs & Englishmen」をプロデュ―スするなど、
どちらかと言うと、
作曲家、プロデューサーといった「裏方」のイメージもある彼ですが、
彼のソロアルバムを聴けば、一瞬でそんなイメージは引き飛んでしまいます。
 
もう何も言わずに今回の盤に針を落としてほしい!
 
まずはA面の「Tight rope」。
アルバム「カーニー」の1曲目を飾る曲で
言わずと知れた代表作の一つ!
 
ニューオーリンズ的なマーチングビートに載せて、
シンプルかつ味わい深いピアノに、
彼のべったり張り付くような、
しゃがれたボーカルが絡み合う!
 
一度聴いただけだと、
「ブルースっぽい」ロック。
よく、デラニー&ボニー等と共に、アメリカ南部発というだけで、
「スワンプ(沼地)ロック」と表現されたりしますが、
そんなジャンル分けが意味を成さないほど、
聴けば聴くほど、レオン・ラッセルの音楽の引き出しの多さが溢れ出すのです。
 
ちなみに、この曲が収録されている
「カーニー」は、本当にバラエティ豊かで、
アメリカ南部のみならず、
ニューヨーク的な洗練されたアレンジや、
ケイジャン音楽(フランス移民により、主にルイジアナ州を中心に広がった音楽)まで含まれた
「アメリカ音楽の玉手箱」的なアルバムなのです。
 
アルバムが素晴らしいのはもちろんなのですが、
あえて、A面B面で1曲ずつに絞られ、
更に音質の良いUS盤45回転で聴くことで、
より曲の魅力、更に言うと
「レオン・ラッセルの音楽の深み」
に触れることが出来るのです。
 
イントロから始まるピアノによる
シンプルなコードの連打は、
改めて聴いてみると、アメリカのルーツというより
「ビートルズ的」なポップさを感じる。

レオンのボーカルや、その間を縫うように入るスライドギターが、それを感じさせない程、
上手くアレンジされていますが、
実は結構ポップな曲なんだと再認識。
 
実際、歌と歌の間で聞かれるピアノなんて、
ペダルを踏んでしっかりリバーブさせた、
ブルースというより「クラシック的」なアレンジ。
 
それこそ、彼の最も有名で、最も異色な名曲
「A song for you」
に通じるものがあるのです。
 
これに関しては、僕の愛読書である、
渋谷陽一先生著の
「ロック ベスト・アルバム・セレクション」
でも紹介されており、
セッションミュージシャンとして注目され始めた若き日のレオン・ラッセルは、
何とあの偉大な「ピアノ」ロックンローラー、ジェリー・リー・ルイスのバンドに「ピアノ」で参加しているのです。

参加したはいいものの、
自分の実力不足を痛感した彼は、
改めてクラシックを3年間学び直したそうな。
 
彼のミュージシャンとしてのストイックさを物語るエピソードですが、
彼の音楽に、ドクタージョンほどのルーツさを感じないのは、
このように、色んな音楽を貪欲に取り込む姿勢があったからなのだと言うのが理解できます。
 
ただ「tight rope」の間奏で聴かれる
所謂「ホンキートンクピアノ」と呼ばれる、
当時のアメリカ南部の酒場なので演奏された、
少し調律の狂ったアップライトピアノの音を再現している辺りに、
「俺のルーツはここだぜ!」
という魂を感じるのも事実です。
 
そんな彼の貪欲な姿勢は、
B面の「This Masquerade」
でも強く感じることが出来ます。

カーペンターズ
そして、偉大なジャズギタリストである
ジョージ・ベンソンによる大ヒットでもお馴染みのこの曲。
 
この「Masquerade(マスカレード)」の意味は「見せかけ・虚構」
さらには「仮面舞踏会」という意味もあるそうな。
 
おっ奇しくも、最近この世を去った、
日本の超有名プロデューサー「J」のグループの代表曲と同じじゃありませんか。
 
それはさて置き、
どっぷりアメリカ南部アレンジの「Tight rope」と対を成すように、
都会的なアレンジの「This Masquerade」。
このシングル一枚で、レオン・ラッセルの音楽の深さを感じることが出来る、
ナイスなカップリング!
 
アルバムでは冒頭1分近くヴィブラフォンによる孤独を誘うイントロがありますが、
シングルではカットされており、
もう少しダイレクトでキャッチーなアレンジとなっております。
 
「This Masquerade」のような、
コードも多くお洒落なアレンジ程、
ピアニストとしては、ガンガン弾きたくなるものですが、
この曲では、レオンのピアノは全く聴こえません。
終始、ボーカルに専念しており、
それがより、この曲のスペシャル感を引き立てています。
 
ギタリストにも共通することですが、
ピアニストと言うものは、ついつい、
自分のこだわりに溺れて、客観性を欠いたソロ演奏を続けたりすることがありますが、
レオン・ラッセルは自分のソロアルバムでは、
決してそういうことは無く、
派手さはなく地味ながらも効果的なピアノを弾いています。
 
「ピアノマン」としての彼の演奏を聴くなら、
ジョー・コッカ―の「Mad Dogs & Englishmen」をぜひおすすめしたい!

特に、ボブ・ディランのカバー「北国の少女」は、
ギターのストロークをピアノで再現し、ボブの名曲に新たな魅力を加えています。
 
もし彼の最もソウルフルな演奏を聴くなら、
前述した「バングラデシュ難民救済コンサート」。
 
ローリング・ストーンズのカバー
「Jumpin' jack Flash」
にのみ注目されがちですが、
その後に演奏される「Young blood」がイイ!

このイントロにおける、バンドが加わる前の、
彼のアドリブが入ったピアノ弾き語りは、
彼のルーツである「ゴスペル」を最も感じることができ、わずか数十秒ながら、もっとも「至福の瞬間」とも言えるサウンドなのです。
 
レオン・ラッセルの音楽の魅力、
深さは、どんな言葉で、どれほどの時間を費やしても足りません。
 
そして、何度も聴くほど、その音楽は五臓六腑に染みてくるのです。
 
僕は今回、この記事を通じてレオンラッセルの音楽の魅力を伝えると言うより、
彼の音楽へ触れる「最初のきっかけ」になってほしいと思います。
 
そして、そのきっかけが
「45回転シングル盤」なら最高でしょう!
さあ、まずは盤に針を落としましょう!
 
 
(企画・編集・校正・加筆リライト「Mash」)
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ゲストライター陣紹介
〈Starman☆アルチ

俺「Mash」のバンド
「マッシュルームハイ」の現メンバー
ドラム、キーボード、広報担当。

ジェリーズ軍団では
「ハウリンメガネ」
「ジョーカーウーマン」
と共に、音楽専門ライター陣
「ロック・マニアックス」
を2019年新規結成