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日本とトルコの共同プロジェクトで撮影された映画「海難1890」が5日から、全国の映画館で上映が始まります。
作品の中では、1890年に和歌山県沖で、トルコの軍艦「エルトゥールル号」が遭難した時の日本人の対応と、1985年のイラン・イラク戦争下でのトルコによる「奇跡の恩返し」が描かれています。この映画が今、公開される意義について考えてみます。
※映画をより深く理解するための記事です。事前に内容を知りたくない方は、映画を観た後にお読みください。
凍えるトルコ人を抱きしめ、温めて救った明治の日本人
1890年、オスマン帝国時代のトルコから「エルトゥールル号」が日本へ派遣されました。エルトゥールル号に乗った使節は、明治天皇へ親書などを手渡し、帰国の途につきますが、和歌山県沖で台風に巻き込まれ、沈没。犠牲者587人を出す痛ましい事故となりました。
しかしその時、和歌山県串本町沖、紀伊大島の住民の懸命な救助により、乗組員69人が助かりました。当時は台風の影響で住民も出漁できず、食料の蓄えもわずかになっていましたが、卵やサツマイモ、普段はめったに食べられない非常用のニワトリまでも調理して、トルコ人に食べさせました。また、住民は、凍えるトルコ人を背中から抱きしめ、人肌で温めるなどして、あらゆる手を尽くし、献身的に生存者たちの救護に努めました。
知らせを聞いた明治天皇も、直ちに現場に医者と看護婦を派遣し、救援に全力をあげました。明治天皇はさらに礼を尽くし、生存者全員を軍艦「比叡」「金剛」に乗せて、トルコに送り届けるよう指示を出します。さらに、日本全国から弔慰金が寄せられ、トルコの遭難者家族に届けられたのです。
この事件は、当時、トルコ国内でも大きく報道され、日本とトルコの友好の原点になる出来事となりました。その後トルコの人々は、この歴史について学校など学び続けてきました。
100年の時を経て、「海」で受けた恩を「空」で返す
時は流れて1985年。イラン・イラク戦争が激化する中、イラクのサダム・フセイン大統領が突如、「今から48時間以降にイラン上空を飛ぶ航空機は、無差別に攻撃する」と世界に向けて発信しました。
その当時、イランの首都テヘランには、日系企業の社員やその家族など215人がいました。彼らはあわててテヘラン空港に向かいましたが、当然ながら、どの航空機も満席で乗ることができません。各国は自国の救援機を出して自国民を救出し始めました。
日本政府も救援機を出そうと動きましたが、航空会社が社員の身の安全が保障されないことを理由に渋り、派遣できず、現地の日本人はパニック状態に陥りました。
ところが、タイムリミット寸前に、2機の飛行機が空港に到着し、速やかに215人の日本人を乗せて成田に向けて飛び立ちました。それは「トルコ航空」の飛行機でした。テヘランで困っている日本人を助けようと、戦火の中、トルコ航空機が飛んだのです。トルコ航空のオラル総裁はのちに、「日本人が危険に陥り、彼らの安全の保障がなかったから、一刻も早く日本人を救出するため、救援機を出した」と語っています。
実は、この救援機に乗れなかったトルコ人約500人は、自動車(陸路)で戦火のイランを脱出しました。ところが、救援機に日本人を優先的に乗せたことに対し、トルコ国民からは何の非難も出なかったといいます。日本人がエルトゥールル号の事故の時に献身的に救助活動をした歴史を、トルコの人々は忘れずに、「奇跡の恩返し」をしたのです。
日本・トルコ協会の総裁を長く務め、2年前に他界した三笠宮寛仁親王は、生前、「約100年の時を経て『海』で受けた恩を『空』で返すとは、トルコの人たちは粋だよな」とよく仰っていたといわれています。
自国民の命、そして国を超えて人の命を守ること
公開される映画は、「国を越えて人々の命を救う」という、本来、人が当たり前のように持つ「愛」から生まれる、真の友情や信頼関係について考えさせられる内容になっています。
エルトゥールル号の事故の際、献身的に救護にあたった日本人を誇らしく思う一方で、イランに自国民を助けに行けなかった日本政府の対応は歯がゆく思えます。現代の日本が同じ局面に立たされた時、政府はどのような対応を取るのでしょうか。
政府として自国民の命を守ること、そして国を超えて人の命を救うということについて、考え直すべき時を迎えているのかもしれません。(真)
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