永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(273)

2009年01月12日 | Weblog
09.1/12   273回

【蛍(ほたる)】の巻】  その(6)

 夕霧は小さい姫君のお相手に雛遊びなどしては、雲井の雁と共に遊んで暮らした頃が思い出され、涙ぐむことも多いのでした。あの恥ずかしい六位の袍(緑色の下位の袍)を脱いだ今のご自分を見て頂きたいものとばかり思いつめていらっしゃる。

夕霧は内大臣に対して、

「あながちになどかかづらひ惑はば、倒るる方にゆるし給ひもしつべかめれど、つらしと思ひし折々、いかで人にも断わらせ奉らむ、と思ひ置きし、忘れ難くて、(……)」
――無理にしつこくお頼みすれば、内大臣も根負けして、雲井の雁との縁談をお許しなさったかも知れませんが、あの身にしみて口惜しい目を見たときに、どんなことがあっても、伯父君(内大臣は夕霧の亡き母の兄君)に折れていただかねばならないと、
あの時思い込んだことが、今も忘れられないので、(雲井の雁には、お文を差し上げながら、表面は少しもあせった風をお見せにならないのでした)――

 そのようなご様子を、内大臣方のご子息たちは、

「なまねたしなどのみ思ふこと多かり」
――こうした態度を、ちょっと小憎らしいと思うことも多かった――

右の中将(柏木)は、玉鬘を深くお思いになっていますが、お手紙を取り次いでもらうにも頼りないありさまですので、この夕霧に泣きついてこられますが、夕霧は、

「人の上にては、もどかしきわざなりけり」
――どうも人のこととなりますと、恋の取り持ちは非難を受けやすいものでしてね――

と、すげなく答えていらっしゃる。丁度、お二人の父君、すなわち昔の源氏と頭の中将の間柄に似ています。

 内大臣には、多くの女方の産んだ御子がたくさんいらっしゃって、母方のご威勢や御子の人柄次第で、何事も意の如くなるお立場ですので、みな相当な地位につかせられておりますが、

「女はあまたもおはせぬを、女御もかく思ししことの滞り給ひ、姫君もかく事違ふさまにてものし給へば、いと口惜しと思す。」
――女の御子は多くはおられません上に、弘徽殿女御もあのように中宮のご希望が停頓され、雲井の雁も夕霧のことから宮仕えの予定が狂ってしまわれましたので、内大臣はそれらを、今だにたいそう口惜しく思っておいでになります。――

◆あながち=強いて

ではまた。

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