三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】
09.5/11 383回 その(11)
ご入内の夜は、紫の上が付き添われて参内なさいます御輦車(みてぐるま)に、明石の御方は徒歩で行きますのは恥ずかしい筈ですが、自分はどうであれ、姫君の疵になるのを一方では申し訳ない事と思っていらっしゃる。
ご入内の儀式を源氏はなるべく派手ではなくと思われますが、なかなか世間並にという訳にはいきません。
紫の上は、この上なく姫君を大切にもてなし、姫君を言いようもなく愛しいとお思いになりますにつけても、
「人にゆづるまじう、まことにかかる事もあらましかばと思す」
――他人の手に任せたくなくて、これがご自分の本当の御子であったらとお思いになります――
「大臣も宰相の君も、ただこの事ひとつをなむ、飽かぬことかなと思しける」
――源氏も夕霧も、紫の上に御子がいらっしゃらないこと一つが、物足りない事と思われているのでした――
三日の後、紫の上に代わって明石の御方が参内されました夜、初めてお二人はご対面されました。紫の上から、
「かくおとなび給ふけぢめになむ、年月の程も知られ侍れば、疎疎しき隔ては、残るまじくや」
――姫君が、これほど成長されましたことは、長い年月御縁の深かったということですもの、今さら他人めいた遠慮など残ろうはずはありませんね――
と、親しみを込めてなつかしげにおっしゃって、思い出話をなさいます。紫の上は、
「ものなどうち言ひたるけはひなど、宣こそは、とめざましう見給ふ」
――(明石の御方の)お話のなさりかたなど、なるほど源氏のお気に召すはずであると、あらためて感心なさるのでした――
ではまた。
09.5/11 383回 その(11)
ご入内の夜は、紫の上が付き添われて参内なさいます御輦車(みてぐるま)に、明石の御方は徒歩で行きますのは恥ずかしい筈ですが、自分はどうであれ、姫君の疵になるのを一方では申し訳ない事と思っていらっしゃる。
ご入内の儀式を源氏はなるべく派手ではなくと思われますが、なかなか世間並にという訳にはいきません。
紫の上は、この上なく姫君を大切にもてなし、姫君を言いようもなく愛しいとお思いになりますにつけても、
「人にゆづるまじう、まことにかかる事もあらましかばと思す」
――他人の手に任せたくなくて、これがご自分の本当の御子であったらとお思いになります――
「大臣も宰相の君も、ただこの事ひとつをなむ、飽かぬことかなと思しける」
――源氏も夕霧も、紫の上に御子がいらっしゃらないこと一つが、物足りない事と思われているのでした――
三日の後、紫の上に代わって明石の御方が参内されました夜、初めてお二人はご対面されました。紫の上から、
「かくおとなび給ふけぢめになむ、年月の程も知られ侍れば、疎疎しき隔ては、残るまじくや」
――姫君が、これほど成長されましたことは、長い年月御縁の深かったということですもの、今さら他人めいた遠慮など残ろうはずはありませんね――
と、親しみを込めてなつかしげにおっしゃって、思い出話をなさいます。紫の上は、
「ものなどうち言ひたるけはひなど、宣こそは、とめざましう見給ふ」
――(明石の御方の)お話のなさりかたなど、なるほど源氏のお気に召すはずであると、あらためて感心なさるのでした――
ではまた。