永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(146)その2

2016年10月05日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (146)その2  2016.10.5

「又あるものの言ふ、『この殿の御門を四脚になすをこそ見しか』と言へば、『これは大臣公卿いでたまふべき夢なり。かく申せば男君の大臣ちかくものしたまふを申すとぞおぼすらん。さにはあらず、君達御ゆくさきのことなり』とぞ言ふ。」
◆◆また側の侍女が言うには、「このお邸の御門を四脚門にするのを夢に見ました」というと、「これは大臣公卿が当家から必ずお出になるという夢です。こう申しますと、ご夫君が近い将来に大臣におなりになることを申しているとお思いでございましょう。そうではございません。若君様(道綱)のご将来のことでございます」と言う。◆◆



「またみづからのおととひの夜見たる夢、右の方の足の裏に、おととかどといふ文字をふと書きつくれば、おどろきてひき入ると見しを問へば、『この同じことの見ゆるなり』と言ふ。これも烏滸なるべきことなればものくるほしと思へど、さらぬ御族にはあらねば、わが一人もたる人、もしおぼえぬ幸ひもや、とぞ心のうちに思ふ」
◆◆また、私が一昨日の夜見た夢、右の方の足の裏に、(ある男が)大臣門という文字をいきなり書きつけたので、びっくりして脚を引っ込めた夢を見たことを、侍女から聞かせると、「さっきと同じことが見えたのです」と言います。これもまったくばかばかしい、いい加減にも程があると思ったものの、兼家の一族は大臣に縁のない一族ではないので、私の一人息子の道綱が、もしかしたら、思いがけない幸いにめぐり合うのではないかと、内心では思ったのでした。◆◆

■四脚(よつあし)=四脚門、門柱の前後に二本ずつ袖柱がある門で、大臣以上の家の門である。

■大臣=太政官の長官。太政大臣、右大臣、左大臣、内大臣の称。

■公卿(くぎょう)=三位以上の高官。上達部(かんだちめ)ともいう。大臣・大納言・中納言(以上三位以上)参議(四位)を指す。

■おととかど=大臣門のことか。


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