永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(247)

2008年12月10日 | Weblog
12/10   247回

【初音(はつね)】の巻】  その(3)

 次に、夏の御殿の花散里にお渡りになります。今は夏の時節違いのためでしょうか、また、ご性格のこともあってか、殊更風流めいた装飾などもなされず、落ち着いた御住いのご様子です。

「(……)いと睦まじくあり難からむ妹夫の契ばかり、きこえ交はし給ふ」
――(今は、源氏にお泊りいただくということはないながら)大層睦まじくいらっしゃって、世の常の男女の契は絶えて無い珍しい夫婦の情を持ち合っていらっしゃいます――

 暮に源氏がお贈りになりましたご衣裳を着ての花散里と対面して、思わず、

「縹(はなだ)は、げににほひ多からぬあはひにて、御髪などもいたく盛り過ぎにけり、やさしき方にあらねど、えびかづらしてぞ繕ひ給ふべき、(……)」
――縹色(はなだいろ)は、まったくこの方には美しい取り合わせではなかったことよ。お髪も大分薄くなられ、かもじでも入れて繕われたら良いものを。(他の男なら愛想をつかしてしまうところを、こうして気長に世話のできる自分はなかなかのものだ)――

 などと、お心に思いながら、ご自分にも満足されて、ゆっくりとお話をなさってから、西の対の玉鬘のところへお渡りになります。
源氏から贈られた山吹色のお衣装に、玉鬘は、どこからどこまでも艶つやときらびやかで、ご容貌が一段と引き立っておいでになります。

源氏は、こうして手元でお世話しなかったならば、きっと残念だったに違いないとお思いになります。それにつけても、

「えしも見過ぐし給ふまじくや」
――このままにして置かれそうにもない――

 玉鬘は、親子のように隔てなく源氏と逢っておりますが、やはりよく考えてみますと、他人であることには変わりのない、不思議な心持で、心から打ち解けることもできません。それが又、源氏にはおもむき深く思われるのでした。

「つつみなくもてなし給ひて、あなたなどにも渡り給へかし。(……)うしろめたく、あはつけき心もたる人なき所なり」
――遠慮なさらずに、紫の上の方にも行ってごらんなさい。(明石の姫君が手ほどきを受けていらっしゃるので、ご一緒に稽古なさい。)気の許せない、軽率な気性のかたはどこにもいらっしゃいませんから安心して――

「宣はせむままにこそは」
――万事お指図のとおりにいたしましょう――

まことにふさわしい玉鬘のご返事です。

◆えびかづら=髢(かもじ)のこと。

◆写真:玉鬘

ではまた。




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