永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(62)

2008年05月30日 | Weblog
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【賢木】の巻 (10)

 源氏は、天台六十巻の経文をお読みになり、納得行かないところなど、学問のある法師たちを召し集められて、議論なさいます。場所が場所だけに、一層深く世の無常をお感じになるものの、一方では「うき人しもぞ」――つれないお方よ――とつらく思い出すのでした。

 明け方から法師たちが閼伽奉る(あかたてまつる)とて、さまざまな営みがはじまります。源氏には、仏道のお勤めは退屈なこともなく、あの世へも頼もしい行いにお見えになります。それにひきかえて、何と自分はつまらない身をもてあましていることよ。

 律師が「念仏衆生摂取不捨」と声を長くのばして行いをされるのを、うらやましくも尊く、何故自分は出家できないのかとお考えになるにつけても、
「まづ、姫君の心にかかりて、思ひ出でられ給ふぞ、いとわろき心なるや」
――真っ先に紫の上の事が心にかかって、思いだされますとは、全く始末の悪いご料簡ですこと――

 長いご滞在になったので、紫の上には文通をたびたびなさいます。
源氏は、出家ができるかどうかと試みに来てみましたが……、などと書き送りますと、
紫の上のうた「風吹けばまづぞみだるる色かはる浅茅がつゆにかかるささがに」
――……移り気なあなたを頼りにしている私は、何かにつけて苦労が絶えません――

なかなかに字も上達したものだ、良くお教えした甲斐があって、私の字に似ている上に、女らしさも加わって、何不足なく私の好みに添ってきている。と源氏はご満足の様子です。

 ここ雨林院と賀茂の斎院とは近いので、源氏は朝顔の斎院にもお文を、例の中将の君に託されます。
こんな文面でした。「あなたへの思いからこうした旅の空に迷い出たのですが、あなたはお気づきになりませんでしょうね。神に仕えるお方に申すのもなんですが、便りを交した昔の秋が思い出されます。」

斎院のお返事は
「そのかみやいかがはありしゆふだすき心にかけて忍ぶらむゆゑ、近き世に」
――心にかけて忍ぶとのことですが、以前どんなことが二人の間にあったというのでしょう。まして近い世には覚えがありませんが――

源氏は、ほほえまれてご覧になり、草書の字もなかなかに、大分大人びてこられ、容貌(おかお)もきっと年齢と共に美しさの加わったであろうと思いめぐらされるのも、
「ただならず、恐ろしや」
――源氏のただごとではない御こころ、神に対して怖れおおいことよ――

◆「念仏衆生摂取不捨」とは、感無量寿経に、阿弥陀如来の光明は、あまねく十万世界を照らし念仏の衆生を摂取して捨て給わずという。

◆写真は 上賀茂神社の立砂(神のよりしろ)

ではまた。

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